第70話 カリスマとは捏造するもの
まぁ考えて欲しい。
突然町どころか世界中を包囲する勢いで怪物が現れたら戦う術を持たない人はどんな気持ちになるだろう。
まぁ感じて欲しい。
追い打ちをかけるように現実ではありえないような巨大な怪物が現れたら人々はどう思うだろう。
軍隊の出番だ?
成る程ミサイルを何十発もブチ当てれば怪獣を倒せるかもしれない。
いやいやここはファンタジー。
なら大魔法を滅茶苦茶ブチかませばいけるかも? ワンチャンあるかもね。
でもさ、スカイツリー以上の高さ、十数台連結した新幹線の全長よりも横幅が長く、全長に至ってはどれだけあるのかもわからないような圧倒的サイズ差の相手に数発当てただけでなんとかなると思うか?
答えは感情が無理だと放棄する。
理論上出来ると言われても人間は自分の中の尺度でしかものを考えられない生き物だ。
アリの群れがクジラと海で戦って勝てるかって話。
で、人は絶望する。戦っても無理だ。勝てるわけがない。
けれどそこに現れる。
戦うことなく、儀式で荒ぶる神を鎮めようとする者が。
ライトアップとかバックミュージックとか光って鳴らして歌って踊る。
うん、非現実的だよね。
でもさ、非現実な状況で非現実が重なればワンチャン非現実的な方法でなんとかなるかもって思わない?
そう、詐欺の主砲だ。
それを今やってる最中なんだよおぉぉぉぉぉっ!!
「新曲行くのじゃ! ホーリープレイヤー!」
ちなみにゲームを遊ぶ人やスポーツ選手の事じゃなく祈りって意味の方ね。
今回の為に新たに用意されたのは静かに始まる。
切なく、か細く、しかし声はハッキリと届ける。
上級技術過ぎるんだよ! 素人の筋肉モリモリマッチョのオッサンに何を求めているんだ!
ゲームスキルが無かったらどうにもならなかったよ!
尚この歌唱特訓で声量から派生したスキル、声届というどんなに小さな声でも範囲内の相手に届けると言う謎スキルを習得可能となり、作曲家の先生に血走った目で取得しろと言われたのは本当に怖かった。
細く小さな歌声は、祈りを捧げるポーズと願い奉る歌詞へと変化していくにつれ力強くなっていく。
だがあくまで祈りの為の歌。
戦いの歌や派手な曲の様な声を荒げる様な歌い方はNG。
落ち着いた声で力強く願いを届けるように歌えと無茶ぶりを振るわれた。
助けて、バトルよりもキツい。俺は何をしているんだ(今日の弱音)
「ああ、どうか、どうか我等をお救いください」
「お助けを、お助けを……」
俺の歌を茫然と聞いていた人々が膝をつき、手を合わせて祈り始める。
「巫女様我等をお救いください」
「どうか神の怒りをお鎮めください」
歌う、歌う、歌う。
はやく、はやく、はやく犯人の証拠を集めてくれみんなー!
歌い終わっても知らんぞー!
『こちら『今日の晩御飯』隠し部屋で不正の証拠を発見!目的のブツもあった!』
でかした晩御飯!
『こちら夜明けの饅頭、侵入者を襲うボスと戦闘中!』
『こちら傷心のバー、敵の抵抗が激しくなかなか進めない!』
ぐぉぉー、まだかかるのかー!
俺は本来想定していた歌が一周してしまった。
ここで同じ歌を繰り返すのは折角盛り上げた神秘的な空気を台無しにしてしまう。
こうなったら最後の手段を……やるしかないのか!
最悪の、時間に目的が達成できなかった時の為の策、プランBを俺は発動させる。
『大いなる海の支配者よ、どうかその怒りを鎮めて欲しいのじゃ!』
俺は新たな歌を口ずさむ。
ただしその歌詞は俺の為に作られたオリジナル曲ではなく、多くの人に聞き覚えのある歌詞だった。
『あれ? この曲聞いたことあるような……』
『あっ、知ってる。マルガリータの焼ける頃にの主題歌だ』
そう、俺が歌っているのはテレビ番組やCMで流れていた曲だった。
すなわち、歌う曲が無くなったら最初からある曲を歌えばいいじゃない作戦!
版権? あ、はい。そうですね。俺もそう思いました。
でもね、これを提案したのは作曲家の先生と振付け師の先生なんだ。
『音楽会社と版元には私達から許可を取っておくから大丈夫』
『そうそう、寧ろのじゃロリ姫たんが歌って踊ってくれたら宣伝効果が期待できるから確実にオッケーでるわ』
『待って、今聞き捨てならない呼称がされた気がするのじゃ』
なんてやり取りの末、俺は版権ソングを歌い始めた。
『なんでのじゃ姫様が版権ソング歌ってるの? マズくね?』
『宣伝じゃね?』
『あー、アニメ映画に有名俳優だしたりアーティストの曲入れるようなもんか』
当たらずとも遠からじな推測にすごくモニョる。
それよりも頼むぞお前達。寝る魔も惜しんで必死で覚えた歌と振付けなんだ。
文字通り俺の魂を削ってるんだよ! 俺がマッチョじゃなかったら体力と集中力が持たなかった!
『こちら夜明けの饅頭! ボス撃破! ドロップで証拠の品が手に入った!』
『こちら傷心のバー。敵のバリケードを突破! 証拠の品を探し……あったぞ!』
次々に証拠の品を見つけたという報告が聞こえてくる。
『お嬢! 証拠は全部そろったぜ!』
よっしゃー! これであとは今歌ってる歌を終わらせてディープシーツナに帰って貰えば万事解けドガァァァァァン!!
「ってなんじゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」
突然の大爆発。
見ればディープシーツナの体の一カ所に黒煙が舞っている。
「まさか、誰かが攻撃したのか!?」
再び爆発するディープシーツナの体。
くそっ! 誰だこんなバカな事する奴は!
どう見ても爆発箇所は小さく、ディープシーツナの超巨体に蚊ほどのダメージも与えていないのが丸わかりだ。
「もしや目的は倒す事ではなく怒らせる事か!」
ディープシーツナを怒らせて町を攻撃させ、人々のヘイトをディープシーツナにぶつけようって腹か!
『ディープシーツナを攻撃している者を探せ!』
『もう探してる! だが見つけらんねぇ!』
『スキルかマジックアイテムで隠れてるんだと思う!』
くそっ、空から見回しても敵が見つからない!
『我が娘よ、もしかして我は攻撃を受けているのか?』
「うぐ、その通りじゃ。じゃが誰が攻撃しておるのか分からん。しかし町の住民ではない筈じゃ」
町の住民が故郷を守ろうと戦うつもりなら、わざわざ姿を隠したり攻撃の出所を分からなくする必要はない。
その分のMP消費を攻撃に回した方がマシだからだ。
「隠れておると言う事は、見つかりたくない理由があるということじゃ! 頼むから町の住人を攻撃するのはやめて欲しいのじゃ!」
『ふむ、では町の外から攻撃している者には反撃しても良いのだな?』
「それは構わんが……ってわかるのか!?」
『もちろんだ。深い海の底は光も届かぬ闇の中。故に我等は目以外で物を見る。我に攻撃してきた者はあの丘に生えた木と岩の間に潜んでいる』
「聞いていたかお主等!」
『ああ! バカデカい声が聞こえたよ!』
おっしゃ! そんじゃ皆でバカ退…『では反撃するぞ』
「え?」
直後、ディープシーツナが左のエラを動かしたと思うと真横に波が走り、その波が空に舞い上がると陸目掛けて大きく軌道を変えた。
「「「「って波が空飛んだーっ!!」」」」
そのまま波は一直線に丘の上の木と岩の間目掛けて飛んでいき、凄まじい水量がその場所だけに叩きつけられた。
「ピンポイントに目的の場所だけを押し流す津波!?」
『永く生きたマグロなら誰でも出来る事だ』
「出来んと思うんじゃけど!?」
慌ててモヒカン達が現場に到着すると、そこには瀕死の獣人の騎士達の姿があったとの事だった。
『今この町の衛兵達に確認してもらってるが、こんな騎士は見た事ないらしい』
「つまり黒という事じゃな」
やっぱりディープシーツナを怒らせることで事態をかき回し、全部有耶無耶にして逃げ出そうとしていたんだろうな。
だが証拠の品はもうこっちにある。たとえ逃げた奴が居たとしてもそいつ等は貴族の地位を奪われて指名手配犯になる事だろう。
『どうやら無事終わったようだな。我は帰ろう。あまり長居せぬ方がよいのだろう?』
わー、すっごい気遣い上手。
「うむ、後日改めて報告に向くのじゃ」
『ではさらばだ我が娘よ』
こうしてディープシーツナは去り、それに合わせてディープマーワン達も海へと帰って行ったことで人々は平穏を取り戻したのだった。ただ一つ……
「マルシェラ姫ばんざーい!」
「我等の街を救ってくださった女神!」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
町の住人達が俺を神か天使のように崇める熱狂ぶり以外は……




