第71話 ドラゴンの巫女でマグロと魔王の娘のち女王
戦いは終わった。
世界中の海に遺物をばらまいていた連中は捕まり、証拠も確保された。
そしてありとあらゆる手段で自分達が目論んでいた野望を吐かされたらしい。
「曰く、大陸の王となる、か」
彼等はそれぞれが自分達の大陸の支配者になる為に海の支配を目論んでいたらしい。
実際海を制すると言うことは海運を支配すると言う事。
外の大陸から敵がこれなくなり、大陸内においては敵対貴族の船や港を破壊して自分の船だけは安全に航海できたらとんでもないアドバンテージだろう。
「海沿いの町を襲って住民を追い出し、その後モンスターを撤収させた町に騎士団を領土奪回の名目で出撃させて領地を奪う計画をしてたら連中もいたらしいぜ」
「鎮めた船の積み荷を奪う計画もあったみたい」
「そのための水中でも使えるモンスター除けアイテムを買い占めていたそうです」
今回の事件に先だって用途の限られる水場で効果を発揮するモンスター避けの市場独占もしていたというのだから準備万端だね。
「ありがとうだギョポ姫様! お陰で助かったギョポ!」
「うむ、お主等も気を付けてな。
「「「ムグー! ムグー!」」」
戦いが終わりディープマーワン達も海へと帰ってゆく。
この件で存在が知れ渡ったディープマーワン達は、改めて地上の住民達と交流を持つ事となった。
とはいえ侵略者に対する反撃という形で地上に出て来たので、交易などは無しで和平条約を結ぶことから始めるっぽい。
「いやー、まさかマルスくんちゃんが女王様になるなんてねぇ」
「うむ、主君が文字通り一国の主になったのは喜ばしい事だ」
「しかも海の支配者ときたもんだ!」
「……うぐぅ」
うん、そうなんだ。実は俺女王になりました。
何でかって? それはね……
「我等は神を崇拝すれど国は持たぬ海の民ギョポ。なので国とかいうのは姫様に任せるギョポ。神の娘である姫様が我等の王ギョポ。地上の連中との話し合いは全部姫様の好きなようにしてほしいギョポ」
とか抜かして全責任を俺にぶん投げやがった。
流石にそれは不味いだろと残っていた子ディープシーツナ達にとりなしを頼んだら、
「僕らの長も姫様の好きにしたらいいって言ってたからマグロ族とディープマーワンは姫様の言うことに従うマグロ。そんな事より落ちついたら海に来るようにって長が言ってたマグロ」
世界を巻き込んだ事件をそんな事呼ばわりされちゃったぜ。
という訳で俺は世界の海の女王(マグロとディープマーワン限定)に任命されたのだった。
「海の神様に直接許可を貰うってつまり王権神授って事だよな」
「これ以上ない程の説得力だな」
「マルスくんちゃんがマルスくんちゃん様になっちゃった」
もうその語尾要らなくね?
「というかわらわ魔王国の姫なんじゃけどええんじゃろうか? これマグロ族とディープマーワンが魔王国の属国扱いにならんのか?」
それとも魔王国から独立して新国家の王扱いになるの?
教えて運営の偉い人!
「じゃあ我等は帰るギョポー。次に来てくれた時は皆で大歓迎するギョポー!」
「「「むーむー!!」」」
そう言いながら、ディープマーワン達はムームーうなる縄で縛られ猿轡をかまされた人達を引きずって去って行った。
え? なんでそんな連中を引きずってるのかって?
それはあれですよ。今回の事件を引き起こした連中をディープマーワン達海の民の留飲を下げる為に身柄引き渡しって奴。
まぁ連中は水中呼吸の方法なんて与えられていないのでどうなるかはお察しだ。
もしかしたら真っ暗な深海で呼吸だけ出来るようにして見せしめにされるのかもしれないけど。
「そういえば黒幕は見つからんかったんじゃったな」
ブクブクと泡を立てながら海に沈んでゆく犯人達を見送りながら、俺は事情聴取の結果得られた情報を思い出す。
「うん、ある程度まで情報を引きだしていくとその先の情報がプツンと切れちゃうみたい」
「ある日突然水棲の魔物を狂暴化させる遺物が見つかり、気が付けばそれを利用して海運を滅茶苦茶にする計画が出来上がっていたそうです。そしてどの大陸の犯人も同様だったと」
「つまり黒幕はまだ捕まってないって訳だ。各国自慢の拷、尋問術とマジックアイテムやらなんやらを使ってもゲロっちまわなかったらしいから本当に知らないんだろうな」
そんな訳で、事件は後味の悪さを残したまま終わったのだった。
「まぁアレだな。黒幕は今後のシナリオで出て来るから今回は組織の顔見せって奴だな!」
こら! メタな事言うんじゃありません!
◆
「よくぞ無事戻ったマルシェラよ!」
彫像の転移機能で魔王国に帰って来た俺は、さっそく父である魔王陛下に呼ばれた。
今回は珍しくレフリス達パーティメンバーも一緒にだ。
「話は聞いておる。お前のお陰で世界中の海が救われた。ひいては海辺に生きる我が国の民も救われたと言う事。誠に喜ばしい!」
ウチの国は海に面してるから、港町が襲われたら大変だったもんなぁ。
「聞けば海中の民から女王として認められたというではないか!」
「おお! 流石はマルシェラ姫、海を我等の支配下に置いたとは!」
「我等の領土、いや領海が広がりますな!」
「いえ、魔王陛下、認めたのは海の中に生きる一部の種族達だけなのじゃ。全ての海の種族がわらわに従っている訳ではない為、海を支配したと考えるのは早計なのじゃ」
「ふむ、国家ではなく種族単位での忠誠という事か。まぁそれであってもめでたいことに変わりはない! お前のお陰で海の安全は保たれた! 海中の民との交易も始まろう!」
と魔王はご機嫌だ。
「そこでだ、お前達には褒美をやろうと思う」
おお! ご褒美タイム!
「まずマルシェラよ、お前には領地をより良く治めるに報奨金として金貨10万枚を授ける。更に王家の武具を与えよう」
数人の使用人が大きな袋を必死で持ち上げながら運んできて、ズシャリという重量感のある音を立てて俺の前に置かれる。
金貨10万枚ってリアルだといくらくらいになるんだろうな。
さらにメイド達がトルソーに飾られたドレスアーマーと剣、それに盾を運んでくる。
「これなるは直系の王族のみが纏う事を許された王家の武具。世界の海を救い、海中の民を従えたお前に相応しい品だ」
「「「「おおーーーっ!」」」」
魔王の言葉に大臣達が声を上げる。
「王家の武具を授けるとは! これはまさしくマルシェラ姫を王位継承権争いの有力候補として認めた証!!」
「ううむ、後ろ盾のない姫と侮っていたがまさかこれ程の大勢力となるとは! これは派閥替えを考える者も出かねんぞ!」
「侮りがたしマルシェラ姫!」
なんか俺より周りの連中のほうが興奮してんなぁ。
「そしてマルシェラの家臣達よ、そなたたちにも褒美を授けよう。まずはヒメキ、そなたにはエルメイドの家名と男爵の地位を授ける! 今日からはヒメキ=エルメイドと名乗るがよい!」
「わ、私を男爵にですか!?」
「領地は与えられんが、給金は出る。マルシェラをよく支えよ」
「ははーっ! このヒメキ=エルメイド、全力を尽くします!」
「うむ。次にモヒカンよ、そなたは権力を好まぬと聞く。故に報奨金と、火魔法のスクロールを授ける」
お? スクロールってなんだ? 新アイテムか?
「これは通常の手段では習得できぬ特別な火魔法を習得できるアイテムだ。そなたは火魔法に格別のこだわりがあると聞いたのでな」
「マジかよ! 王様サンキューだぜ!」
特別な火魔法と聞いてヒャッハーと飛び上がって喜ぶモヒカン。
うん、お前はそっちの方が嬉しいよね。
「貴様!陛下に対してなんと無礼な言葉を!」
「よいよい。最後にレフリスよ。我が娘の装備を作るそなたにはこの名匠の勲章を授けよう」
「勲章……ですか?」
勲章と言われてその価値にピンとこないレフリス。
「これを身に付けておればそなたの職人としての実力が王家の名において保証される。希少な素材の仕入れにも役立とう。またこれを身に付けて物を作ればより良い物が作れるそうだ」
「っ! ありがとうございます!」
シンプルに生産に役立つアイテムを貰えて喜ぶレフリス。
というか魔王めっちゃ皆にピンポイントに役立つアイテム出してきたなあ。
この辺もゲームシステムがプレイヤーの傾向を考慮して出してるんだろうか?
だとしたらプログラムの判断能力めっちゃ高いな。
本当にゲームので使う為だけに作られたのか気になって来ちゃうぞ。
そのうち謎のゲーム組織とか出てこない?
なんて懸念したが、そんな面白組織の話は出ることなく魔王との謁見は終わっ……
「そうそう、各大陸の国家から今回の事件を解決した礼をしたい故そなたを国賓として招きたいと連絡があった。我が国の友好を示す大使として出てくれぬか」
出てくれぬかって、それ実質命令ですよね。
「魔王陛下の御命令とあれば」
「うむ、手間をかけるな。でだ、そのついでにコンサートも開いてほしいと頼まれておるのだが、そちらも……よいよな?」
「……魔王陛下の御命令とあれば」
……ハハハ、お約束ですよねー。
◆
数日後、俺はゼルレイの港町にやって来た。
理由はディープシーツナに会う為だ。
港に行くと女王マグロのエラ冠を装備してマグロを呼び出す。
「待ってたマグロ。長に会いに行くマグロ」
マグロに案内されて海の底へと潜ってゆくと不意に異様な圧迫感に包まれた。
『よくぞ来た我が娘よ』
「ディープシーツナか!」
ギョロリと巨大すぎる目玉が海中に現れる。
相変わらず怖いんですけど。
『さて、それでは此度の騒動を鎮めてくれた礼をしようか』
そう言うとディープシーツナの口が開き、ゴボッという音と共にキラキラしたものがこちらに不自然な挙動で流れてくる。
そして手のひらの勝手に収まると、アイテムの名が表示される。
『ディープシーツナの小魔王核を手に入れた』
『それをお前にやろう』
「これは!? 良いのか!?」
なんと与えられた褒美はまさかのディープシーツナの小魔王核だった。
だがコイツは魔物の心臓に等しいアイテム。
それを欠片とはいえ生きた魔物の体から砕いて取り出すなんてどんな負担があるか……
なのにコイツはそれを躊躇うことなく渡してきた。
『構わん。元は古き魔王との戦いで砕けた一部よ。お前相手なら惜しくもなんともない』
むぅ、まさかのお宝に流石にびっくりした。
『ディープシーツナの小魔王核を使用しますか?』
「ありがたく頂くのじゃ」
ポップアップの『はい』を押すと、俺の体が青白く光り出す。
『ロイヤルスキルが解放されました』
『真海魔刃:攻撃スキル:消費MP300:超凝縮された深海の水の刃。恐るべき切れ味で刃のみならず刀身全てに攻撃判定がある。異次元の切れ味の前には防御魔法ですら切り裂かれるだろう。MPを消費する事で刀身を大きくすることが出来る。水が無い場所では使えない(デメリット)』
「おおっ!! 攻撃スキルなのじゃ!」
さっそく習得すると驚いたことに習得に5000ポイントも消費してしまった。
スキル習得もインフレしてきたなぁ。
「んじゃさっそく試してみるのじゃ! 真海魔刃!」
ギュンという何とも不思議な音と共に俺の腕の先に青黒い刃が生まれる。
「おお、手に持つ剣というよりは腕に固定するカタールの様に発現するスキルなんじゃな。そしてMPを消費すると大きくなるらしいが……そう考えると目の前に刀身を大きくしますかという表示が現れる。更に消費MPも表示される。数値を変える▲▼表記が出たのでこれを触ってみると300から600、900と300刻みで増えてゆく。
「とりあえず900にするのじゃ!」
すると一気に三倍以上の大きさと長さになる真海魔刃。
「ってデッカァァァァ!! 単純に三倍になるのではないのか!?」
どうやらMPを消費する程拡大率が上がるらしい。
「よし、ではこれを海底の岸壁に当ててみるのじゃ!」
刃だけでなく刀身全体に当たり判定があるらしいから、どの程度の威力か試してみよう。
そう思って海底の壁、こういうのを大陸棚っていうのかな? に当ててみると……
ゾリゾリゾリ……
「うぉぉぉぉぉ! ヤバイヤバイヤバイ!」
電動ヤスリで削れるプラスチックみたいにモリモリと海底の壁が削れていって慌てて魔法を解除する俺。
するとそこには一部だけ不自然に綺麗な面になっている壁が出来上がった。
「ビックリするくらい切れ味が良いのじゃ……。危な過ぎて味方がいる場所では迂闊に使えんのう」
『気に入ってくれたようだな』
「今のを見てなんでそんな言葉が出るんじゃ!?」
『渡すものも渡したし我は帰る。我が娘も気を付けて帰るのだぞ』
「あっ、こら、とんでもない物を寄こして帰るでなーい!」
◆
「あー、やべぇモンを受け取っちまったぜ」
ゲームからログアウトしつつ、俺は手に入れた新スキルをどう使うか考える。
使いどころ考えないと味方を巻き込んじまうからなぁ。
『TODO様へ ゲーム内活動についてのご連絡』
「お?」
ログアウトから現実の光景に戻る前に運営からのメールが表示される。
はて、このタイミングで何のメールだろう?
キャラメイクの件はまだマルシェラの中の人の後任が見つかってないからもうちょっと待ってほしいって言われてるし。
とりあえず読んでみるか。
『マルシェラ姫の冒険の映画化について』
「……んんー?」
え? なに?
『この度は海底クエストの攻略おめでとうございます。つきましては本イベントを映画化したいと言うオファーがありましてTODO様にご連絡させて頂きました』
「待って待って! 映画化のオファーって話速すぎない!? イベント終わったのついこないだだよ!? まだ事件の全貌を知らないプレイヤーだっているだろ!?」
『オファーのあまりの速さに驚いているでしょうがそれは我々運営も同様です。今回の件につきましては以前からマルシェラ姫の冒険を作品化したいと機会を狙っていたそうで、この事件でマルシェラ姫の姿が出て来た瞬間情報収集を開始したそうです』
何それ怖すぎ。
『そして驚く程早い段階で映画のシナリオプロットが送られてきました』
ねぇ何でシナリオまで送られてきてるの!? 怖いよ!!
『つきましてはTODO様にプロットを呼んでいただき、映画化の同意を頂けると幸いです』
もうそれ映画化したいって欲望隠せてないよね運営!
仕方なく運営の送って来たプロットを確認すると内容はこんな感じだった。
マルシェラ姫が皆と海に旅行にやってくると傷ついたマグロが海辺に倒れていた。
回復魔法で助けるとマグロがお礼に海の底の町に連れて行ってくれて、そこでディープマーワン達に歓迎される。
楽しい一時と謎の遺跡探検。
そこに現れる海を荒らす悪の組織!
狂暴化した魔物とディープマーワン達からマグロと共に逃げるマルシェラ姫。
追いつめられた遺跡の奥で彼女はっていた神から力を授かりマホウミのプリンセスに変身!
ディープマーワン達を正気に戻し、悪の組織と戦うが眠れる神の封印を解かれてしまう。
怒り狂った海の神に対し、マルシェラ姫はディープマーワン達に伝わる歌を歌う事で神を正気に戻し悪の組織を懲らしめて物語は感動のフィナーレを迎えると言うものだった。
「……うーんキッズ向け!」
はい、夏休みお子様アニメと夏の少年の出会いと別れの物語を足して割ったような内容ですね!
「うん、好きにしていいんじゃねl」
もはや何も言うまい。
好きにしてくれ……
俺が許可のメールを送ると、数日後びっしりと加筆された完成原稿が送られてきて、映画製作がトントン拍子に進んでいった。
そして映画放映が近づいたある日、TVにCMが流れる。
『マホウミのプリンセスマルシェーラ!』
『海の平和は渡さないのじゃ!』
『そして訪れる感動のクライマックス! マルシェーラザムービー! マホウミのプリンセス! ●月●日上映開始!』
うーんキッズ映画の広告。
『入場者特典として光るマルシェーラ姫の指人形か走るマグロ君ミニカープレゼント!!』
流石にすっ転んだ。




