第66話 ひしめく異形
ディープマーワン達の聖域である海底ピラミッドにやって来た俺達が見たものは、入り口でミッチミチに詰まっている無数のモンスターの尻だった。
「めっちゃ詰まっておるんじゃが」
「すげーなー。スーパーの詰め放題みたいぞ」
うん、モヒカンの言う通り、モンスターはびっしりと隙間に詰め込めるだけ詰め込んだみたいな感じだ。
「どうなってるんだろこれ? これじゃモンスターも私達を攻撃できないから意味ないよね?」
だよなぁ。完全に引っ掛かってるからバックして抜け出す事も出来なくなってる感じだ。
「もしかしてだが、モンスターを狂暴化させる遺物が原因なんじゃないか?」
とヒメキが何かを思いつく。
「どういう事じゃ?」
我々が探しているモンスターを狂暴化させる遺物ですが、その能力だけでは効果が薄いと思うのです。つまり周辺のモンスターを狂暴化させるだけでなく、呼び寄せる能力も持っているのでは?」
「成る程、確かにな。周りにモンスターが一匹しかいないのにそいつだけ狂暴化させても意味がねぇ」
「ですね。その方が道具としては理に適ってます」
「つまりモンスターを引き寄せる効果とピラミッドという立地の相性が悪すぎた訳か」
「海の中だったのも良くなかったでしょう。魚は獣のようにバックが出来ません。小魚ならともかく大型の魚の体で狭い通路をUターンするには数が多すぎてやはり動きづらかったかと」
「そんな状況で次々におかわりがやってくれば、こうなるのも時間の問題であったか」
うーん悲しきかな獣の知性。
「とりあえず少しずつ倒して中に入るのじゃ」
「一匹ずつだと隙間が出来て動けるようになるから範囲攻撃で纏めて倒そうぜ」
モヒカンの提案で俺達は交代で範囲魔法を放って纏めてモンスターを削りながら進む事にした。
「うーん、反撃されずにひたすら攻撃し続けるって変な気分だな」
「楽は楽でいいけど、探索って言うより作業だよなコレ」
と海底ピラミッド攻略に参加しているプレイヤー達も自分達が何のためにここにきているのか分からなくなっているようだった。
「反撃が無いから経験値は美味いんだけどな」
「だな。おっ、ポイント溜まったから威力アップ系のスキルとっとこ」
モンスター達からの反撃が無いもんだから皆攻撃の合間に貯まった経験値でスキルを習得する余裕がある。
「わらわもスキルを習得しておくかの。しかし威力が上がると攻撃範囲も増えて建物の中では使いにくいのう」
「だったら範囲指定を取ると良いッスよ」
と、プレイヤーの一人が聞き覚えの無いスキルについて教えてくれる。
「範囲指定? そんなスキルがあるのじゃ?」
「ッス、器用さと魔力を各40以上まであげて、範囲攻撃系のスキルを20種、5Lv以上で習得すれば覚えられるッス。これを使うと範囲攻撃の範囲を自分の意志で広げたり縮めたりできるんで、屋内でも高レベルの範囲攻撃をぶっ放せるッスよ」
「有益な情報感謝するのじゃ」
「やった! 姫様に褒められた!」
成程なー、確かに範囲攻撃の範囲を自由に調整できれば便利だわ。
という訳で俺も範囲指定スキルを習得する。
『範囲指定Lv1:消費MP1~10:範囲攻撃の範囲を指定できる。小さくする際は魔力を大して消費しないが、広げる際は距離に応じて魔力を消費する』
へぇ、消費MPが変動するのは珍しいスキルな。
レベルを上げると指定できる範囲が広がる訳か。
とりあえず10レベル習得しておくか。
『範囲除外を習得可能になりました』
「範囲除外? 何じゃそれは?」
「ああ、10Lvまで習得したんスね。範囲除外は特定のカ所だけ除外できるんで味方ごと攻撃しても敵だけにダメージを与えれるんスよ」
「ほう、それは便利じゃな」
漫画でよくある敵だけ攻撃して人質は無事みたいな演出が出来る訳か。
それはアツイな!
「いやー、そう便利でもないッスよ。戦闘中にシビアな判断を迫られますし、味方が範囲外に飛びだす事もありますからね。動くなって言ったら待機してくれるよう練習しておく必要があるッスよ」
あー、除外範囲を指定するスキルだからそこから出ちゃったら意味ないもんな。
便利は便利だがそうそう都合よく使えない感じだな。
まあ経験値に余裕はあるし必要なら後で習得しよう。
◆
「しかし思ったよりもボロボロじゃのう」
モンスターを倒しながら進んでいくと、ピラミッドの内壁がところどころ壊れている事に気付く。
「見てください。外が見える程深い穴がありますよ」
ヒメキが指差した先には、細いが建物の外が見える深い穴があった。
「こういった穴から遺物がピラミッドの中に入ったんだろうね」
「奇跡的な確率じゃなぁ」
果たして運営もそこまで予定して落とさせたのだろうか?
それとも本当に偶然この中に落ちて来たのか。
このゲーム自然環境は変にリアルだから潮の流れや海流とかも作ってそうなんだよな。
「デカい穴もあるな。入り口だけじゃなくこういうところからもモンスターが入ってきたんだろうな」
「でも不思議だね。ディープマーワンの神殿っていうからもっときれいだと思ってたけど、こんなにボロボロだなんて」
「そうだな。聖域というからには自分達で補修しているものかとおもったが」
「それに水中に沈んでいた物は地上に晒されているモノよりも長持ちするって話を聞いたことがあるぜ。それを考えると単純な劣化とも思えねぇ」
「モンスターか何かに攻撃されたのかの?」
「だったらもっとディープマーワン達も慌ててるだろ。ずっと昔にやられた傷だと思うぜ」
何百年か何千年前かにこのピラミッドは何者かに攻撃されたって訳か。
「だとすると一体誰が攻撃したんじゃろうなぁ」
案外それがディープマーワン達が信仰している神様と関係しているのかもな。
「こういうシーンだと遺跡の壁に壁画とかが見つかりそうなものだけどね」
おいおい、いくら運営でもそこまでベタなネタは……
「おおっ! 壁になんか絵が描いてあるぞ!」
あったよ。
「壁画か。デョープマーワン達が何かと戦っている絵みたいだが、大分削れているな」
確かに、壁画は前後のかなりの広さが削れていて、真ん中のディープマーワンが武器を持って何かと戦っているくらいしか分からない。
あと分かるのは彼等と同じサイズの魚の絵と、ディープマーワン達の正面からイカやタコらしき触手が延びていることか。
「触手かぁ」
「触手だなぁ」
わずかに残った手がかりを見て、全員の心が一つになる。
「え? 触手がどうしたの?」
おっと、レフリスだけ分かってなかった。
「けどさ、ディープ……の敵がク……なのはおかしくねぇ?」
「ああそういえば。普通味方だよな」
「じゃあ戦ってるのは別のヤツなのかな?」
「ゲームだからな。設定が違うのかもしんねーぞ」
どうにも情報が足りないな。
シナリオを進めたらこの辺の謎も解けるんだろうか?
「おっ、広い所に出たぜ」
しばらく進むと、広い部屋に出る。
この部屋にはモンスター達も詰まっておらず、侵入者である俺達に敵意を見せる。
「やっと戦闘らしい戦闘が出来るぜ!」
そう思った矢先、モンスター達が慌てふためくように散っていく。
「なんじゃ?」
「どうやらボスのお出ましのようだぜ」
モヒカンが広間の奥を指差すと、壁に大きな穴がいくつも開いているのが見える。
そのうちの一つから二つの真っ赤な光が輝くと共に何かが飛び出してきた。
「ピキュェェェェェェ!!」
細長い巨体。これは……!
「「「「「ウナギ!/チンアナゴ!/ウツボ!/ウミヘビ!/モンゴリアンデスワーム!」」」」」
「「「「「………」」」」」
全員がお互いの顔を見る。
「「「「「いやいやいやいや」」」」」
「「「「「あれはどうみてもウナギ!/チンアナゴ!/ウツボ!/ウミヘビ!/モンゴリアンデスワームだろ!」」」」」
宗派が違う……だと!?




