第65話 海底の町と神聖なる神殿
海底に広がる謎の町の正体は魚鱗族ディープマーワンの町ルギュイペだった。
正直あかん匂いがプンプンします。
それはともかく彼等が信仰する神の神殿が、魔物によって占拠されるという異常事態に陥っているらしい。
「場所はどうあれその神殿に魔物を狂暴化させる遺物があるとみて間違いないじゃろうな」
「俺としてはその神殿自体がヤバイ匂いプンプンなんだけどな」
それを言ってくれるな。
「ねー! 何か知ってるなら私にも教えてよー!」
あーしまった。レフリスはこの町と魚鱗族の元ネタを知らないんだったわ。
「あー、町に戻ったら海の邪神関係の本を探してみると良いのじゃ」
「俺的には原点の呼び声をお勧めするぜ」
何も知らない純真な若者のSAN値を削るのはやめて差し上げろ。
「いやいや、若い子にはもっとカジュアルに這いよるラブコメをお勧めしたい」
「俺は荒唐無稽巨大ロボットモノをお勧めしたい」
「諸君、あまり原点から遠ざかり過ぎるのも良くない。手に取りやすさも加味して光の巨人などどうだろう」
「「「それこそ原点から遥か彼方だろ」」」
駄目だ、完全に沼に近づいて来た素人を引きずり込もうとする厄介マニア達になっている。
「あーあー、そんな事より神殿が魔物に占拠された事の方が重要なのじゃ。町に入る許可を貰えんかの。わらわ達は魔物達が神殿を占拠した元凶を排除したいのじゃ」
「ギョポ? 退治して貰えるならありがたいギョポだけど、町に入れるには長の許可が必要だギョポ。ちょっと待ってるギョポ」
そういうと門番の一人が門の上に浮き上がり、長に許可を求めて欲しいと壁の向こうの仲間に伝令を頼む。
「っていうかうやっぱりあの壁なんの役にも立っておらんではないか」
「そんな事ないギョポ。ダイキンググソクムシとかの海底を這う魔物には有効なんだギョポ」
ああ、ちゃんと役に立ってるのね。
「でもグレートレッグクラブには足とハサミが凄く長いからあんまり役にたたないギョポ」
グレートレッグ……あー、タカアシガニはそうだろうなー。魔物版なら更にデカそうだし。
門番達と雑談をしながら時間を潰していると、門がゆっくりと開いてゆく。
そして壁の向こうから銀色の鱗を持つディープマーワンが姿を現した。
「お前達が来訪者ギョポか」
「いかにも。そういうお主がこの町の長かの」
「その通りギョポ」
長と名乗ったディープマーワンは銀色の鱗に長く伸びたヒゲ……あ、いやこれヒゲじゃない。髭っぽい海藻だ。海藻を髭の様に撫でる。
「こんな海底に他種族が来るとは珍しいギョポ」
長はゆっくり俺達に近づいてくる。
「お前達は神殿を占拠した魔物を退治しに来たと言うが、何故そんな事をするギョポ? 他種族の神殿など関係ないギョポ」
「地上の海が魔物によって荒らされておるのじゃ。何者かが古代の遺物を使って魔物を狂暴化させておる事が分かった。わらわ達は各地の海を巡って遺物の破壊もしくは回収をして回っておる。ここに来たのもお主等の神殿を守る為ではなく原因を排除して海の平和を取り戻すためじゃ」
「地上の者が海を守るとは、随分と都合が良い話ギョポな……寧ろお前達が神殿に魔物を呼び寄せた犯人ではないギョポか?」
まぁそう疑われるのも当然ではあるんだよなぁ。
長が言う通り都合が良すぎるのは事実なワケだし。
「だが、神殿にはお前達が欲しがるようなものは何もない。勝手に退治してくれるなら好きにすればいいギョポ」
「おお、感謝するのじゃ!」
意外と話の分かる人、いや魚人で良かった。
「ただし神殿を壊したら弁償して貰うギョポ」
前言撤回、ちゃっかりしてるわ。
◆
長の許可を得て町へ入ると、意外にも普通の町らしい光景が広がっていた。
住人の見た目が鱗が生えた人型の魚と言う事を覗けば。
「「「……」」
彼等は突然の闖入者に疑わし気な眼差しを……いや駄目だ。何考えてるか全然分からん。
「アンタ等見ない顔だけどどこから来たギョポ?」
そんな中、一人の勇敢な魚人が俺達に話しかけて来た。
「わらわ達は陸上からやって来たのじゃ」
「陸? 陸ってどこだギョポ?」
「海の上じゃ。海底をずーっと向こうまで歩いていって坂をひたすらに登った先じゃよ」
「はえー、そんな遠くから来たギョポか。大変だったギョポねぇ」
あんまり分かってないなコレ。
「まぁ長が許可したんなら大丈夫ギョポな。ようこそルギュイペへだギョポ!」
なんか思ったよりもフレンドリーだなコイツ等。
もっと閉鎖的で不気味な連中かと思ってた。元ネタがアレだし。
ともあれ住人から歓迎されたので俺達は町の探索から始める。
神殿に入る前に情報収集に宿屋やアイテムを売っている店をチェックしておかないとな。
「ところでお主達はどんな神を信仰しておるのじゃ?」
「僕達の神は海を雄大に泳ぐ神だギョポ」
「我等が神は海の化身だギョポ」
念のためアレな神様じゃないか聞いてみたんだが、どうにも要領を得ない。
分かったのは彼等が信仰する神は実在すると言う事。
雄大に泳ぐ姿が美しいとかハッキリと見た人間、いや魚人の感想なんだよね。
つまり、今後戦う可能性がバリバリに増した訳ですよ。
「流石に冒険者ギルドはなかったよー」
「まぁ海底じゃからなぁ」
そうこうしていると情報収集に向かった仲間達が戻ってくる。
「店は色々あったぜ。つってもディープマーワン用だから種族によっちゃ装備できそうにないが」
「武器や盾は問題なく使えますね。食材は魚か海藻、あとは甲殻類くらいです」
「あと鉱石が売ってたよ! 海底鉱床っていうのかな。海の底に洞窟があってそこに鉱石を掘れる場所があるみたい。それにリアルに無いゲーム特有の素材も売ってたよ! 海命石って瑠璃みたいな濃い青色の石で加工すると非戦闘区域で酸素ゲージが減らなくなるアイテムになるよ!」
おお、限定的だが遂に酸素ゲージ無効アイテムが出て来たか」
海底の町に滞在する為の必須アイテムになりそうだな。
「さっそく買い占めようとしてる人達がいたけど、他のプレイヤー達にあっという間にボコボコにされてた」
さもありなん。転売屋死すべし慈悲はナッシング。
「消耗品はポーション類、それに酸素ゲージ回復アイテムがメインですね。あとは非常食として加工した海産物が売られていましたが……我々が食べるなら調理する必要がありますね」
海じゃ火が使えないからなぁ。
「では装備を整えたらさっそく神殿に挑むとするか!」
「「「おおーっ!!」」」
という訳でさっそく神殿にやって来たぜ!
「「「「でっけぇ……」」」」
皆がそう言うのも無理ない大きさだった。
俺達がイメージした神殿は海底な事もあって普通の教会とかじゃなく朽ちかけたパルテノン神殿とかそんなイメージだったんだが、そこに立っていたのは……
「ピラミッドだ」
はいどう見てもピラミッドです」
「海底人類、謎の神殿、そして海底ピラミッド……絶対開発に古典オカルトが好きな奴いるだろ」
とはいえこれは凄い。
やっぱり謎の遺跡や未知の神を奉じる神殿とかワクワクするよな。
特に今俺達がプレイしているのはフルダイブタイプのVRMMOだ。
その迫力は半端ない。
「ゲームでこれだとリアルの観光地が要らなくなる日も来るんじゃないかな」
「ありえる。海外なんて行く金も時間もないもんな」
他のプレイヤー達も海底ピラミッドのロマンに痺れているみたいだ。
「これは燃えてくるのう」
期待に胸躍らせ、ピラミッドへと足を踏み入れようとした時俺達は見た。
ピラミッドの入り口に大量に詰まった魚型のモンスター達の姿を。
「「「「ビチビチ、ビチビチ」」」」
「なんかめっちゃ詰まっておるんじゃが」
ナニコレ?




