第64話 海に潜むモノ
「これでこの辺りの海域も平和になるのう」
新たな海域でボスを倒した俺達は、海のモンスター達を狂暴化させる遺物を回収する。
「調査を頼むぞレフリス」
「まかせて!」
回収した遺物はレフリス達生産職に調査して貰うのもいつも通りだ。
「そう言えばもう遺物も4つ目じゃが、そろそろ何か分かったかの?」
「うーんとね、今のところモンスターを暴走させる効果があるだけで利用方法とかは特にわかんない感じかな。でもアイテムとして残る以上、何かに利用できるのは間違いないと思うよ」
「まだまだ新情報は得られそうにないのう」
ちなみに海域を解放しても相変わらずモンスターは襲ってくるが、縄張りの外に出た者や巡回ルートから外れた相手は追ってこなくなるようになっている。
追いつけなくなるまで逃げる必要が無くなり、地上のモンスターと同じ行動パターンになってる感じだな。
「仲間を連れて来たぞー! アイテムと交換してくれー!」
「ありがとうマグロー」
プレイヤー達がマグロを助けてアイテムとトレードする光景はいつも通りだ。
4つ目の海域にきてもアイテム交換をするプレイヤーが減らないのは海域によって貰えるアイテムが変わるからだな。
「おっしゃ! マグロシリーズゲット! あと装備枠的に一つか?」
特に他の場所では売っていないマグロ装備をコンプしたいプレイヤーが頑張っている。
マグロ装備は海中で装備すると水中のデバフを緩和してくれるだけでなく水中限定のバブもくれる良い装備だ。
ただ、マグロ装備を装着すると見た目がどんどんマグロになっていく不具合があったりするが。
『マグロテイル:防御力110 魔法防御力50 水中での素早さを2倍にする。移動中の速度が上昇する。大いなる海を駆けるは銀の弾丸。その加護は何者をも追いつけないだろう。だが注意せよ、憧れを求めて模倣する者は憧れた者へと己を同化するのだから……』
うん、装備が完全に揃った暁には全身フルマグロになるともっぱらの噂で、もしかしたらこれをフル装備するとマグロにクラスチェンジするのではと言われている。
「わらわの半分もマグロじゃしなぁ……」
そんな悍ましい予測がされるアイテムだが、海域クリア後の入手が困難な為、割と人気を博していた。
丁度今もプレイヤー達がマグロと交換したアイテムを手にホクホク顔で談笑している。
「ポイント稼ぐだけで交換できるのが良いよな。ソロだと素材集めと生産できるプレイヤーが探すのが面倒だからさ」
「そうそう、フリーで腕の良い生産職を探すのって賭けだもんね。ただの自称腕利きだけじゃなくサクラを雇って素材を台無しにされることだってあるし」
成程、ソロプレイヤーやパーティに生産職が居ないプレイヤー達からしたらそういうメリットがあるんだな。
「酷いとカス素材とすり替えて生産失敗したって言って逃げる連中もいるらしいぞ」
うわぁ世知辛い。
「中には生産に失敗した時の違約金制度を提案する事で、わざと失敗して違約金を支払ってからすり替えた素材で生産したアイテムを高く売る連中もいるらしい」
「違約金支払うなら損じゃね?」
「いや、自分達が損をしない程度の違約金の額にするんだよ。相手も満額じゃなくても自腹を切って責任とってくれるならって違約金割り増しで生産を頼むんだ」
「普通詐欺とか疑わねえ?」
「疑わない奴らが引っかかるんだよ」
なんだそのリアルでありそうな詐欺は。
「おいおい、運営は何してるんだよ」
いや全く。
「ああ、だから怪しく思った連中が通報してBANされたらしいぜ」
あっ、BANされたのね。そりゃよかった。
「でもさ、こういうのってクリアしても前のエリアを探索できるもんじゃないの? アイテム交換の事でも問題が出てるし」
「いや、エリア自体は行けるぞ。ただダンジョン化が解けた所為か野良マグロの出現率が激減するらしい。だから効率を考えるなら未クリアの海域でマグロを保護した方が良いんだよ」
へー、そうだったんだ。
クリア前の海域は行ってないから知らんかったわ。
そんな話を聞きながら探索を行っていた時だった。
「町が見つかったぞー!」
探索に出ていたパーティがそんな事を叫びながら戻って来た。
「海の中に町?」
「海に沈んだ遺跡って奴か?」
「いや違う、動いてる影があった! 人型だったし間違いなく誰かが暮らしている町だ!」
「「「「人が暮らしてる町!?」」」」
「海底に人が住むとはどういう事じゃ? モンスターが住みついた廃墟と考えた方が自然じゃが」
「あ、はい。俺望遠スキルを持ってるんですけど、どうも普通に生活してるっぽいんですよ。遠くて暗いからハッキリとした姿は見えなかったんですけど、椅子みたいなのに座って談笑してるっぽかったり、露天みたいなので商売してたんです。ただの巡回モンスターならそんな生活してるような行動しないだろうし、本当に町なんじゃないかって思って」
確かに、普通のモンスターの行動とは違うよなぁ。
「もっと詳しく偵察に行こうかとも思ったんだけど、もし敵だったら町中のモンスターに襲われそうだから一旦戻って来たんです」
「正しい判断じゃな」
「海の底の町か、普通に考えれば人魚の町か?」
「もしくは何かのアイテムで水中でも酸素が確保されてるのかもしれないぜ」
「古代の災厄を生き残った古代人の子孫の町って可能性もあるかもな!」
と、プレイヤー達が町の住人は何者なんだろうと嬉々として予想を立てる。
考察、楽しいよね。
「だがあまり大人数で行っても警戒されるだろうし、町に行くのは1、2パーティだけにして残りは近くで身を隠して貰った方が良いだろうな」
確かに、突然見知らぬ集団が町に大挙してきたら誰だって警戒するからな。
「では誰が行くか……」
「「「「……」」」」
全員の視線が俺に集中する。
「なんでわらわを見るのじゃ」
「嫌だって、明らかにイベントだしなぁ」
「となるとこっちもイベントキャラが出ないと話進まなそうだし……」
ああ、そう言うことね。
俺は皆からNPCと勘違いされてるし、特殊イベントなら海底探索を依頼するだけじゃなく同行までしている俺を現場まで連れて行かないとシナリオが進行しないと思われたのか。
「……分かったのじゃ。では案内役に町を見つけた者達、そしてレフリス、モヒカン、ヒメキ、わらわについてくるのじゃ。他の者達は町の近くにある身を隠せそうな場所で待機じゃ」
「「「「おう!!」」」」
◆
「本当だ。町があるよ!」
案内役のパーティについて行くと、本当に海底に町が見えてくる。
「海に沈んだ廃墟じゃねぇんだよな?」
「明かりが見える。誰か住んでるのは間違いないだろう」
街にはゆらゆらと白い光が見える。
松明の光と言うよりは蛍光灯のような青白さだ。
「こんな深海の中で? アンデッドの人魂とかじゃねぇの?」
「いや、ランタンのようなものが光っていたからちゃんと灯りとして使われてるっぽい」
と、案内役パーティの一人がアンデッドではないと断言する。
「まぁあれこれ考えても仕方がない、行ってみるのじゃ」
「あっ、第一村人発見。おーい!」
町に近づくと入り口に門番らしき人影が見えてくる。
とはいえ、水中って事を考えると上からとび越えれば良いから門番もへったくれもなさそうだけど。
「おっ、向こうも手を振ってるぞ。こりゃ友好的だな」
確かにレフリスの振った手に向こうも反応して手を振り返している。
これで「引っ掛かったなぁ! バカめ! ガバァーッ!」とかはないと思いたい。
少しだけ安心しながら近づいてゆくと、門番の姿がはっきりと見えてくる。
「ん?」
『んん?』
だが、その姿がはっきりしてくるにつれ、俺達は違和感を覚える。
「……」
その体は緑がかった銀色で、いやアレは鱗か?
そして指の間には水かきが、体のいたるところにヒレが生えている。
『……』
何より、その顔面は魚のそれだった。
「「「「魚だぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」
『『鱗が無いギョポォォォォォ!!』』
「モンスターか!?」
『モンスターギョポッ!?』
「『え?』」
お互いにアレ? となる。
「ちょっと待つのじゃ。お主等モンスターではなくどこぞの種族なのか?」
『ギョポ! 失礼な! ボク達は誇り高き水鱗族のディープマーワンだギョポ!』
「ディープ……」
「ワン……」
「「「「成る程」」」」
俺達は一斉に納得した。
そうだよね、深海の中で魚人間と言ったらソレだよね。
「え? 何? 皆何が分かったの?」
「いや、分かんねぇなら分かんねぇでいいぜ」
ただ一人、レフリスだけは元ネタが分からないらしく頭にハテナを浮かべているが色々説明が面倒なので教えるのは後にしておこう。
「とりあえずモンスターじゃないなら安心か?」
「ディープワ…マーワンだと元ネタが心配だけどな」
「あー、わらわは地上の魔族じゃ。ディー、知り合いから海の中を騒がせる事件の解決を頼まれてやって来たのじゃよ」
マグロのモンスターに頼まれたと言っても通じないどころか怪しまれそうだしなぁ。
『海を騒がせる? もしかして神殿の事だギョポ?』
「神殿?」
『そうだギョポ。最近僕達の信仰している神様の神殿に大量のモンスターが住みついたんだギョポ』
「神殿とな」
ディープマーワンの神殿、凄く不穏な気配がするんだが……
『ディープ……』
『ワンの神殿……』
他のプレイヤー達もうーんと声をあげる。
「ちなみにこの町の名前はルル……とか言わんかの?」
『僕達の町の名前ギョポ? ルギュイペっていうギョポ!!』
はい、限りなく黒に近いグレーです!!
こりゃ神殿も怪しいわーーーーっ!!




