第63話 炎燃ゆる
◆モヒカン◆
「まだ駄目か……」
水中エリアに来た俺は行き詰っていた。
というのも俺の主力が炎属性の魔法だからだ。
水の中で火を使うのはハッキリ言って困難だ。
「だが流石にボス相手に力技は無理だ」
だから俺はお嬢から離れ、水中でも使える新たな炎スキル習得に勤しんでいた。
だがどれだけスキル習得のための条件を探しても求めるスキルとは別のスキルの習得条件を満たすばかりで新しい火魔法を習得できないでいた。
「やはり水中で使える火魔法などないのではないか?」
「ですね。でないと他の属性の意味が無くなっちゃいますし」
「ここは素直に他の属性の攻撃魔法を習得するべきではないか?」
俺のレベル上げに付き合ってくれているレフリス達が諦めて別のスキルを習得しろと言ってくる。
だがそれは俺のこだわりを捨てる事になる。
それは駄目だ。
「いや、きっとある筈だ!」
組み合わせという奴はそれこそ無限にある。
まだまだやっていない組み合わせはある筈だ。だが……
「レフリス、ヒメキ、お前等はお嬢の所に帰れ」
「え? でも……」
「スキル習得の条件でパッと思いつきそうなものは大体試した。だがこの先の条件の模索になると変則的になって時間がかかる。その間お嬢を一人にする訳にはいかねぇ」
レフリス達は元々お嬢のキャラに惚れ込んで参加してる訳だしな。
俺のわがままにつき合わせるわけにはいかねぇ。
「良いのか?」
俺の意図を察したのか、ヒメキが念を押してくる。
「ああ、それにこれから試す事は数を揃えてもたいして意味がねぇからな」
勿論嘘だ、人手は多い方が助かる。
けどどれだけ時間がかかるか分かんねぇことにつき合わせるわけにもいかねえ。
「分かった。だが我々の力が必要になったらいつでも頼め」
「おう」
「あの、これMP回復ポーションです。使ってください」
と、レフリスがポーションが大量に入った袋を俺に手渡してくる。
「ありがとよ!」
まったく、俺みたいに怪しい奴にも気の良い奴らだぜ!
早い所スキルを習得しなくちゃな!
◆
「ぜんっぜん駄目だ」
あれからいろんな方法を試したが、やはりスキルは習得できなかった。
「特定の順番や状況で魔法を使うコンボも試した、一見関係なさそうなスキルもいろいろ使ってみた。武器も変えてみた」
が……駄目だった。
「くっ、どうすれば……」
他にも試していない方法はないわけじゃない。
だが一人かつ短期間で試せる方法は何の意味も無い無駄な行動に終わる可能性が高い。
逆に確実性の高い方法は時間がかかるし危険度も高い。
「高レベルモンスターとの連続戦闘を試すとなると前衛が必須だからなぁ」
そういう意味ではヒメキを帰らせたのは痛いが、どのみち前衛がヒメキ一人じゃキツい。
お嬢にも居て欲しい所だ。
そしてそれだけの苦労をしても目当てのスキルを習得できる保証がない以上、やはりお嬢達を巻き込む事は出来ない。
「お嬢達を巻き込むのは最後の手段だ。それよりも他に試してない方法で即効性の高そうな手段となると……やはりスキル習得か」
一番手っ取り早いのは火属性以外の魔法スキルを習得する事だ。
複数の属性を混ぜてより強力な魔法を習得するのはいわゆるお約束だ。
試す価値はあるだろう。問題は……
「火属性以外の魔法を覚えたくねぇ」
これはシンプルに俺のこだわりだ。
誰が聞いても呆れる様な詰まらねぇこだわりだ。
たかがゲームに何意地張ってんだって。
「けどよ、たかがゲームだからこそ拘りてぇじゃねぇか」
だいたいそういう条件で新しいスキルを覚えると新スキルの属性は元のスキルとは違う新しい属性になる可能性が高い。
雷とか無とか複合属性ってなノリでよ。
「大体そんな事をしたら別の属性のスキルを覚える事になる。使わなきゃいいって訳じゃないんだよ」
経験値も有限だ。何でもかんでも覚えればそれだけ育成の難易度も上がる。
そうなったら俺の理想である最強の火魔法の使い手を作れなくなるかもしれねぇ。
炎、それは俺にとって自由の象徴。
いや正しくは炎を扱うキャラクターが、だ。
俺は窮屈な人生を歩んできた。
それはお上品な人生言って意味じゃない。
何も選べないって意味でだ。
過去を自虐する趣味はねぇから詳しく話す気は無ぇが、とにかく選べない人生だった。
だがある日偶然目にした漫画、いやアニメだったか? とにかくソレは自由だった。
対して強くもなく、なんならあっさり負けるやられ役だった。
けれど、凄く自由に見えたんだ。
くだらない行動を、けれど心底楽しそうに。
全身に雷が走った気分だった。
本当ならそんな悪役をぶっ飛ばす主人公にスカッとするのが本当の楽しみ方なんだろうが、俺にとっちゃ宿命に縛られた主人公よりもソイツの方がよっぽど自由に輝いて見えたんだ。
「……ああ、そうだ。それが大事なんだよな」
ちょっとした回想、ふと思い出した初めての記憶。
それはあっさりと俺を正解に導く。
「全く……悩むなんて俺らしく、いやチンピラらしくねぇ! どんなに遠回りでも目的のために馬鹿みたいに突っ走らねぇとな!」
「なら、その為の足がいるんじゃねぇのかい?」
「っ!? お前等は!」
突然かけられた声に降りかかると、そこには路地裏の酒場仲間のスキンヘッド達の姿があった。
「お前等どうして?」
「なぁに、どっかの火魔法バカがスキル習得に躍起になってるって話じゃねぇか。こりゃ冷やかしに行かねぇとなってよ」
と、ニヤニヤと酒場のメンツが気持ち悪い笑みを浮かべる。
「つまりコイツ等お前の手伝いがしたいんだってよ」
「ちょっ、マスター!」
「アンタも来たのか」
スキンヘッド達の言葉を訳したのは酒場のマスターだった。
いつもなら酒場のカウンターにいて客層に文句を言うこのオッサンまで来るなんて。
「どういう風の吹き回しだ?」
「どうもこうも、常連客が皆いなくなっちまったら俺も暇なんだよ。閑古鳥の原因をなんとかして客足を取り戻さなきゃだろ」
つまりマスターも手伝ってくれるって事か。
「だが何でまた?」
コイツ等は所詮ゴロツキだ。
正しくはゴロツキムーブを演じているだが、ロールプレイを順守するコイツ等にとって俺に協力するような熱血プレイは何の得にもならねぇ。
「そりゃオメェ、抵抗できねぇ奴を数に任せていたぶるのは俺達の専売特許じゃねぁか」
「だよなぁ。モンスターだろうが人間だろうが、数の力の前には敵わねぇ。それこそ主人公様でもない限りよぉ~!!」
「だがこの世界に漫画の主人公様なんざいねぇ! 俺達の天下なのさぁ~!!」
「「「「ヒャーッハッハッハッ!!」」」」
「はっ、そういう事かよ!」
まったく、素直じゃねぇ連中だ。
だがまぁ、そのくらいクズみたいな理由の方がこっちもこき使えて良いってもんだ。
「全くだぜ! 俺達チンピラは数にあかせて気を大きくしないとよ! せいぜい盾にさせてもらうぜ!」
「この借りはデカいせぇ~! こりゃ高い酒を奢って貰わねぇと割に合わねぇな!」
「ったく、しょーがねぇな! 分かったよ! 酒でも飯でも奢ってやらぁ! その分しっかり俺様の壁になれよ!」
「「「「ヒャッハー! モンスター狩りだぁーーー!」」」」
ああこれだ! 条件? 能力値? 隠しイベント? 違うね!
「俺達ゃチンピラ! やりたい事を好きなようにするだけよ!!」
『条件を満たしました。~を習得……
◆
「ようお嬢!」
新しい海域で酸素ゲージ回復業務に勤しんでいると、実に二週間ぶりにモヒカンが声をかけて来た。
「おお、久しぶりじゃな。新しいスキルは習得的できたのか?」
「ああ! さいっこうのスキルをゲットして来たぜ!」
モヒカンが自信ありげにニヤリと笑う。
「ふっ、良かろう。ではボス戦でお手並み拝見とさせてもらおうではないか」
二週間経っているだけあって、第二海域のボスの情報は出そろっていた。
俺も適当なプレイヤーと野良パーティを組んで攻略している。
だがやはりこの海域の縛りとして火魔法は相性最悪な事に変わりはない。
「へへっ、アッと言わせてやるぜ!」
一旦回復を中断すると、俺達はボスエリアへと足を踏み入れる。
「ピィィィィィィッ!」
この海域のボスは巨大エイ『メガトンスティングレイ』で広く巨大な体を使ったプレス攻撃、尻尾の先の毒針が基本攻撃だ。
「さっそくプレス攻撃が来るぞ! 距離を大きくとれ!」
ボスのプレス攻撃は一見するとシンプルだが、上に飛び上がった際に体が広がり当たり判定が大幅に増える。
この拡大能力に慣れるまで多くのプレイヤーがほぼ確でダメージを受ける地味に厄介な攻撃だ。
「ヒャッハー! おあつらえ向きに的がデカくなったぜー!」
とそこでモヒカンが杖を構える。
「さっそく新技のお披露目という訳か」
「見てな俺の新技!『オールマイフレイム!』」
直後、モヒカンの全身が燃え上がった。
「何じゃあ!?」
水の中にいるのにモヒカンの全身がオレンジの輝きと共に燃え上がる。
炎の形をしたオーラなのか、オーラのように纏う炎なのか。
「さぁ行くぜ! ファイヤー!!」
モヒカンが跳んだ。
まるでロケットのように真っすぐ、猛烈な速度で、跳んだ。
そしてボスと接触した瞬間、ジュワァァァァァ! とフライパンに水を垂らしたような弾ける音が鳴り響く。
音だけじゃない、モヒカンがぶつかった周辺のボスの表皮がボコボコと泡立つ。
「おらバーーーーーーーンッッッ!!」
そして、弾けた。
「ヒュー! 燃え上がるぜ!!」
ボスの体が弾ける衝撃に乗ってモヒカンが帰ってくる。
相変わらずその体はオレンジ色に燃えている。
「モヒカンよ、その体は何事じゃ!? それがお主の新しいスキルなのか?」
「おうよ! これこそ俺の新スキル『オールマイフレイム』! その効果は自分自身を炎にして全身炎ダメージの塊にする事だ!」
「お、おう……?」
ええと、つまり火傷で接触ダメージって事?
「いや待て、それでも水中で火属性は相性最悪の筈じゃろ? なんの問題も無いのか?」
「大アリだぜ! 炎になった今の俺は水中じゃ継続水ダメージを受ける体になってる! だから文字通り秒単位でHPゲージが減って行ってるぜ!」
「駄目じゃろそれ!?」
水中でも火魔法で戦う方法を探しに行ってたのに逆効果じゃん!
「そんな事はねぇぜ! このスキルのサイコーにイカスところは、例え水中だろうと必ず炎ダメージをブチかませる事だ! こんな風にな!」
モヒカンが炎に包まれた杖を突きだすと炎が発射されてメガトンスティングレイにダメージを与える。
「どうなってるんだ!? 水中で火魔法が飛んでったぞ!?」
観戦していたプレイヤーの言葉にハッとなる。
確かに水中じゃゼロ距離攻撃以外火魔法はすぐ消えて無効化されてしまうはずだ。
「火魔法は俺のプライドだ! それが使えなくなる事に比べたら、継続ダメージなんぞへでもねぇ! 寧ろどんなところでも火魔法が使えるさいっこうのスキルだぜ!」
全身を炎に包まれながらモヒカンが嬉々として拳を握る。
「……ったく、とんでもない炎馬鹿じゃよお主は」
「へへっ、最高の誉め言葉だぜ」
ああ、そうだな。これはゲームだもんな。
ゲームなら、自分のこだわりを通したいのも納得だ。
ただクリアするならいくらでも方法はある。
それこそ最高効率を目指せばいい。
「だが違うんじゃ。自分のやりたい事を通す為に、無駄と言われようと我を貫く。だから楽しいんじゃよな」
「そういうこった!」
モヒカンが機関銃のような勢いで炎をバラ撒く。
これまでの鬱憤を晴らすかのように。
「っていうかバラ撒き過ぎじゃ! お主MPは大丈夫なのか!?」
「安心しな! 今の俺は炎攻撃に限りMP消費とクールタイムを劇的に減らせるようになってるのさ! そして俺の攻撃手段は火関係しかねぇ! だから戦闘中の俺にMP切れはねぇ!」
マジかー、とんでもねぇ奴にとんでもねぇスキルが渡っちまったぜ。
と、ボスが再び空に浮き上がる。ただし今度は大きく広がらない。
「ボスの攻撃パターンが変わるぞ! 落下から地面に潜って無敵状態になる!」
メガトンスティングレイはダメージを受けると第二パターンに移る。
それがこのサンドダイブだ。
広がらずに球になって砂に飛び込み姿を消す。
この状態だと地面を攻撃してもダメージは発生しない。
「上に向かって泳げ! 海底にいると前兆無しで攻撃が来る!」
「分かった!」
俺達が十分上に泳ぐと、海底からメガトンスティングレイの尻尾が何度もザシュザシュと飛び出しその後に本体が傘を開くように飛び上がってくる。
勿論これもダメージ判定ありだ。
そしてメガトンスティングレイはブワリと浮き上がって俺達の上に一ドルと尻尾を下に向けてくる。
「レーザーが来るぞ! 動きまくって回避じゃ!」
メガトンスティングレイの追加攻撃パターンがこのレーザー攻撃。
尻尾の先から直線レーザーを発射してそれがプレイヤーを追って軌道を変えてくる。
地味に追跡速度が速いのとレーザーが太いのでうっかり当たると大ダメージを喰らう。
何故水中でエイがレーザーなのか、多分名前にレイが入ってるからじゃないかと言われているがいらん言葉遊びすんなと思ったのは多分全員の総意だ。
「へへっ、面白れぇ! 俺と火力勝負って訳だな!」
俺達が回避行動に入る中、モヒカンは動くことなく天を睨む。
「モヒカン!?」
そうこうしている間にメガトンスティングレイの尻尾に光が溜まってゆく。
「レーザー対炎、どっちが強いか勝負だ! メーザーフレイム!!」
メガトンスティングレイとモヒカンが同時に輝きを放つ。
そして二つの光がぶつかり拮抗する。
「おお! ボスのレーザーと張り合ってる!」
プレイヤー達から驚きの声が上がるのも当然のこと。
あのレーザーは当たるとかなりのダメージを受ける。
HPや魔法防御力が低いキャラなら最悪一撃死だってありえる程の威力だ。
それに1プレイヤーのスキル攻撃が対抗しているってんだから相当なもんだと分かるだろう。
「ハッハー! このスキルを使ってる間俺の放つ炎属性のダメージは上昇する! しかもダメージを受けていればいる程倍率は上がるのさ! つまり、常時ダメージを受けている水中なら!!」
モヒカンの炎がメガトンスティングレイのレーザーを押してゆく。
「いつでもどこでも誰が相手でも俺は俺のやりたいようにする! こいつはそのためのスキルだぜ!」
そして、モヒカンの炎が全てを貫いた。
『勝利』
『経験値7500』
「「「「勝ったーーーーーっ!!」」」」
「ヒャッハー!!」
ボスを倒したモヒカンの顔は驚く程清々しく、ともすれば世紀末な漫画でヒャッハーしている悪役のような笑顔だった。
……いや流石におかしいわ。




