第62話 予習済みのボス戦
一通りプレイヤー達がボス戦に挑み終わって暇になってきたので、漸く俺達がボスに挑む番が来た。
「さんざん皆が戦う姿を見ていた故、ボスの攻撃パターンも読めてきたのう」
何せ壁が無い海底だからプレイヤー達の戦い振りが見放題だ。
「基本は範囲泡スタンと突撃を回避すればいけますね」
「でもレベル上げと装備が足りないプレイヤーは水中デバフで動きが鈍くて避けられないみたいだね」
「そこら辺俺達は問題ないが泡の回避方向をミスると他の泡に当たって終わるな」
「「「……」」」
「何だよお前等」
俺達に見つめられてモヒカンが困惑の声を上げる。
「いやのう」
「だってねぇ」
「うむ」
「何だよ、ハッキリ言えよ!」
「「「火魔法以外使えるのか?」」」
「うぐっ!」
そう、モヒカンと言えば重度の火魔法ジャンキー。
だがここは海底。火魔法にとって最悪の環境だ。
「水魔法がボスを回復させるなら火魔法はそもそも発動すらしない」
「そもそもどうやってここまで戦ってきたのじゃ?」
「モンスターの口の中に杖突っ込んでゼロ距離魔法をかましたぜ!」
それ、魔法使いの戦い方か……?
「流石にボス相手にそれは自殺行為だろう」
「サメの口に手を突っ込むとかボリボリ食べられちゃうよね」
そもそも水中を縦横無尽に動くボスの懐に飛び込むのが至難の業だと思うんだわ。
「素直に他の属性の魔法を覚えたらどうじゃ?」
「嫌だ! 火魔法以外覚えたくない!!」
モヒカンが教義に反すると火属性以外の習得を拒絶する。
「じゃが実際問題効かんのじゃから仕方ないじゃろ」
「いや、あとちょっとで新しい火魔法を覚えられそうなんだ! スキル習得のパターンからもそろそろ来そうなんだよ!」
モヒカンが言いたいのは回数や特定の行動、能力値の規定値突破が原因で解放されるスキルの事だろう。
実際俺も『聖女の祝福』と『小聖女の歩み』というぶっ壊れスキルを習得したばかりだしな。
「確かにモヒカンの片寄り具合を考えれば何か特殊なスキルを習得してもおかしくはないが……」
うん、火魔法関連の使用回数、習得数に関しては間違いなくコイツがナンバーワンだろう。
少なくとも他に一つの属性にここまで固執するプレイヤーは見たことないからな。
同じような変態は他にいるかもしれないけど。
「という訳で俺はもうしばらくレベル上げに勤しみたいと思っている。お嬢達は先にボスと戦ってくれ」
そう言うとモヒカンはモンスターとの戦いに向かってしまった。
「やれやれ、流石に相性が悪いエリアに一人放置する訳にもいかんか。すみません姫、私もあの男に付き合う事にします」
「あー、それじゃ私も回復役としてついて行った方がいいかも」
「皆がゆくのならわらわも……」
「「「「姫様はゲージ回復役として居てくれぇ!!」」」」
ついて行こうとしたんだが、他のプレイヤー達に引き留められてしまった。
「ふふ、だって。私達の事はいいからマルスくんちゃんは他の人達とボス戦すると良いよ。あっ、でもモヒカンさんのレベル上げが終わったら私達とも一緒に戦ってよね!」
「分かったのじゃ。なる早で頼むぞ」
「はーい!」
とレフリス達を見送ったのは良いのだが、ほとんどのプレイヤー達はもうボス戦を終えている訳で、負けたプレイヤー達も再戦よりもレベル上げと装備を整える事が重要と理解しこの場を去っている。
つまり相手がいないんだよなぁ。
「あ、あの、今お暇ですか!?」
と思ったら見知らぬプレイヤ―達が話しかけて来た。
「私達メンバーが一人これなくなっちゃって、その子が前衛だから諦めようかって思ってたんですけど、姫様も相手を探してるなら一緒にボス戦してくれませんか!」
ふむ、知らないプレイヤーだが他のゲームをやっていた時も都合がつかなくて野良パーティを組んだ経験は何度かある。
「うむ、わらわは構わんぞ」
「っ! ありがとうございます! 私はミルフィーユブンって言います! 後衛で土魔法を使います!」
「ボクはコレステロールケーキ! トラップ解除や探索がメインの軽戦士って所かな。よろしくお姫様!」
「俺はプリンタイン! 回復役だが多少は接近戦も出来る。頼むぜ!」
何で全員健康を害しそうな名前縛りなんだ……
「もしかして欠席したのはパンケーキングという名前の者かの?」
「ううん、違うよ」
マジか!? アイツと関係なしでこのネーミングセンスなの!?
……世の中には似たようなネーミングセンスの人がいるんだなぁ。
っていうか、あと一人健康を害しそうな名前のプレイヤーが居るのか……
「にしても流石お姫様だな。なんていうかオーラっていうか威厳のようなものを感じるぜ」
「え? 可愛いけど威厳は違うんじゃない?」
「プリンタインってもしかして高貴なお姫様タイプが好みなの?」
プリンタインが妙に俺に対して戸惑いを見せるものだから、ミルフィーユブン達がここぞとばかりにからかい出す。
「違うって! マジでなんか圧倒されるものを感じるんだって!!」
今の俺に圧倒される所なんてあるかなぁ?
リアルの俺なら鍛えに鍛えたマッスルお兄さんだから、その筋肉に圧倒されるのもわかるんだけど……
あっもしかして『聖女の祝福』の影響か?
確かあのスキルは聖職者からの反応が良くなるって書いてあったもんな。
「プリンタイン、お主回復系という事は僧侶系のクラスチェンジしておるのか?」
「あ、ああ。下級司祭見習いになってる」
やっぱりか。それにしてもクラスチェンジしたのに見習いなんだ。
まぁ謎は解けたので良しとしよう。
「よーし、それじゃあボスと戦おう!」
「おおー!」
「おおーなのじゃ」
「おおー! って風評被害受けたままなんだけど!?」
悲しきは弄られ役よ。頑張れプリンタイン。
さて、改めて見るとミルフィーユブン達のメンバー構成はサポート系ばかりだ。
コレステロールケーキとプリンタインも前衛は出来るがあくまで本職はサポート系。
前衛メンバーが欠席するとフィールド探索は出来てもボス戦は難しいんだろうな。
だがそのおかげで今回は歌サポキャラではなく前衛キャラとして活躍できそうで嬉しい限りである。
「来るぞ」
ボス戦フィールドに入ると、巨大なサメが雄たけびを上げる。
そういえばサメなのに何で雄たけびをあげるんだろう。
まぁゲームだしな。
「ポインテッドピラー!」
ミルフィーユブンが先制して魔法を放つと前方に円錐状の尖った柱がいくつも生える。
が、ボスの巨大サメは上に逃げて柱の攻撃を回避する。
「射撃系でないと不利じゃの」
「ううん、これは防御狙いだからこれで良いの」
「ほう?」
巨大サメが今度はこちらの番だと円錐状の柱をへし折りながら突っ込んでくる。
「全然効いとらんぞ!」
「大丈夫、ちゃんとスピードが落ちてる!」
ああ成る程、ボスの突撃速度を送らせる目的か。
更に円錐状の柱にぶつかって身を乗り上げたボスの体にほかの柱の先端が引っかかって体の表面を引き裂いてゆく。
「ポインテッドピラーは攻撃よりも敵の攻撃妨害とカウンターダメージがメインの魔法なんだよ」
「ほほう、面白いのう」
「魔法の説明文は柱で串刺しにする攻撃魔法扱いなんだけど、戦闘中は柱が長時間消えないから皆地形トラップとして使うんだよね」
とコレステロールケーキがミルフィーユブンの説明を補足してくれる。
成る程、変なところでリアルなILLらしい魔法の利用法だ。
運営の想定外の使用なのかここまで考えての性能なのか。
「歯が飛んでくるぞ! 柱の陰に隠れろ!」
プリンタインの指示にすぐさま円錐状の柱の陰に隠れると、巨大ザメが口から大量の歯を吐きだしてくる。
「サメは無数の歯があって折れてもすぐに次の歯に変えられるって聞いたことあるけど、ゲームだとマシンガンみたいに連射してくるからいつ補充されるのか不思議になるよね」
まぁそこはゲームだからな。
「よし、今だ!」
歯の掃射が終わると再発動までのクールタイムを狙って接近戦を挑む。
「ロイヤルスラッシュ!!」
「ぬぅん! パワーハンマー!」
「ラインエッジ!」
斬撃、打撃、切断特化のスキルがサメ肌を切り、傷口を叩き潰し、部位破壊を行う。
「攻撃来るよ! 新しい柱に隠れて!」
俺達が攻撃している間にミルフィーユブンは新しい円錐状の柱を生成して防御陣地を再構築していた。
再び巨大サメが雄たけびを上げて突撃してくる。
柱を破壊しながら時折棘が刺さってダメージを受ける事で減速し、次いで歯の掃射を避けたら再度一斉攻撃。
何度も見て来たプレイヤー達の戦いをなぞるように攻撃を続けていると巨大ザメの目が真っ赤に変わり全身がボコンと膨れ上がる。
そして金切り声のような雄たけびを上げる巨大サメ。
「後半戦は歯のマシンガンが多くなる! 当たらない様に気を付けろよ!」
「分かったのじゃ!」
ここから先は攻撃パターンを知っていてもレベルやプレイスキルの不足、それにスキル構成の相性によっては敗北する可能性が高くなる。
攻撃パターンの変わったボスは全身をドリルの様に回転させながら突撃してくる。
「柱が! ダメージが増えてる!」
新しい攻撃パターンの攻撃力はかなり高くなっているようで、防御用の柱が変化前よりも大量に破壊される。
次いで歯の掃射が行われるが、前半は一度の掃射で終わっていたのに後半は複数回の掃射にパワーアップしている。
「キャッ!」
「大丈夫かミルフィーユブン!」
「な、なんとか!」
「こりゃイカン、俺は回復に専念するぜ!」
攻撃力が増した事で防壁だった柱がドンドン破壊され、皆がダメージを受けてしまう。
慌ててプリンタインが回復に専念するが、それは攻撃の際のダメージ量が減るので討伐速度が落ちるジレンマ。
「こうなると姫様の攻撃が要だね。なんとかボスの注意を逸らすからダメージよろしく!」
「任せるのじゃ!」
コレステロールケーキが危険を顧みず巨大サメの懐に入り注意を引くと俺はボスの背後からバフをかけたロイヤルスラッシュを叩き込む。
するとボスがグルリと全身を回転させて俺達を弾く。
「ノックバック攻撃!?」
「初めて見るパターンだ!」
俺達の戦いを見ていたプレイヤー達が騒然となる。
何しろこのパターンは今までの戦いで一度も発生しなかったからだ。
「多分真後ろから攻撃したからじゃないか? 前後からの同時攻撃に反応して出すんだろう」
つまり下手に死角から攻撃すると手痛い反撃を喰らうって事か!
そしてノックバックで動けなくなっているコレステロールケーキにボスがローリング突撃を叩き込む。
「うわぁぁぁぁっ!」
幸いにもHPがゼロになる事はなかったが、ダメージはかなり高そうだ。
「コレステロールケーキ! これを!」
俺はコレステロールケーキのポーションをかける。回復職の魔法程じゃないが『聖女の祝福』の効果で回復量が上がっている筈だ。
「助かったよ。けど思った以上に痛いねこの攻撃」
「ぼやぼやするな! 歯のマシンガンが来るぞ!」
プリンタインの回復と指示に俺達は慌てて柱の陰に隠れる。
だがボスの掃射を受けて柱があっという間に限界になる。
不味いな、このままだとコレステロールケーキが削り倒される。
何かこの攻撃を防ぐ範囲防御は……そうだ、アレなら!
『ディープシーティア!』
海底の水が大きくうねると俺を中心に放射上に水が動く。
その波を受けたサメの歯は途端に勢いを失って海底へと落ちる。
更にダメージを受けていた皆の傷が回復する。
「上手くいったのじゃ! これも水魔法じゃがダメージが無い故ボスを回復させる事も無い! お主達、サメの歯攻撃はわらわに任せよ!」
「ノックバックと味方の回復の二重効果!? なのに何だこの回復量!?」
ああ、聖女の祝福効果で回復量上がってるからな。
「よーし! これなら私も攻撃に参加できるよ! ソーンフォレスト!」
円錐の柱よりは細いが、より背が高く棘だらけの岩の林が形成され巨大ザメを串刺しにしてゆく。
ミルフィーユブンが防御から攻撃にシフトしたことでプリンタインが抜けた分のダメージ量が戻る。
「止めなのじゃ!! ロイヤルスラッシュ!」
バフを持った最大ダメージを一斉に叩き込み遂に俺達はボスである巨大ザメを倒したのだった。
「ふー、すっきりしたのじゃ」
やっぱゲームはガンガン攻撃に参加したいよな。
『戦闘に勝利しました』
『経験値:7000』
『メガロドリングの歯、メガロドリングのサメ肌。メガロドリングの肝臓エキス、メガロドリングの頭骨、メガロドリングのの軟骨、メガロドリングのフカヒレを手に入れた』
流石サメ、フカヒレがドロップなのか。
経験値とボスドロップをゲットしてバトルフィールドを出るとプレイヤー達が殺到してくる。
あー、戦闘中か酸素ゲージ回復ができなかったからか。
「「「姫様! 次は俺達とパーティ組んでください!!」」」
「は?」
何で?
「俺達歯のマシンガンに削られて回復が追いつかなくなってボスを倒せなかったんです! でも姫様のスキルがあれば回復しながらボスの歯の攻撃を無効化できる! 一緒に戦ってください!」
「あー、確かにアレは便利だったよね。途中から壁を作らなくて良くなったもん」
「だな、あのままだと俺も回復が追いつかなくなるところだったからな」
とミルフィーユブン達もうんうんと頷く。
「「「よろしくお願いしますっっっ!!」」」
あと少しでボスを倒せないプレイヤー達が一斉に頭を下げて懇願してくる。
「……う、歌がノックバックになっただけなのじゃ」
効率って突き詰めると作業になるよね……




