第61話 酸素とサンゴとハント
「酸素ゲージ回復アイテムを見つけたぞー!」
「「「「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」
今日も今日とて海底を探索していると、興奮したプレイヤー達がアイテムを手に大興奮でやって来た。
「マジか! どこで見つけたんだ!?」
「サンゴのレアドロップがオキシサンゴって酸素回復アイテムだった!」
「マジか! あの面倒なのが落とすのかよ!」
サンゴとはホワイトウッドというサンゴのモンスターだ。
バブルブレスというノックバック効果のある弾ける泡を撃ってくるちょっと厄介なモンスターで、このブレスは扇状に放たれると真横だけでなく立体的に上にも広がってゆくので、地味に嫌らしいんだよな。
ただあんまり早く動けないから逃げる分には簡単だ。
「よし、サンゴ狩りだ!」
そんなモンスターが攻略に必須のアイテムを持っていると分かると、プレイヤー達のやる気は爆上りだ。
「これで姫が居ない日でもマグロを狩れるぞ!」
「狩るな狩るな」
「でも拙者は姫の発する酸素を吸って生存したいでゴザル」
「「「「それはそう」」」」
「さっさとサンゴ集めてくるのじゃバカモノ共が」
けど良かった、これで男プレイヤーが殺到する日々から解放される!!
◆
それからというもの、プレイヤー達の活動範囲は劇的に広がった。
オキシサンゴは生産職が加工するとより多く酸素ゲージが回復するオキシポーションになり、更に頭装備に組み込むと低レア装備でも酸素ゲージの減少が大きく減る効果が確認されたのだ。
「とはいえ、酸素ゲージは大事にしたいからタダで回復させてくれる姫は外せねーな」
「アイテム交換マグロと違って最前線で回復してくれる出張酸素回復所助かる」
「あんまり変わらんかったのじゃ……」
まぁタダで回復するならそっちの方が良いよね。
回復アイテム集めるのだって大変だし。
「おっ、サンゴハンターが戻って来たぞ」
プレイヤーの誰かが言った言葉に視線を向けると、海の向こうから大量のサンゴを抱えたプレイヤー達がやって来た。
彼等は通称サンゴハンター。サンゴ狩りに特化したスキルと装備構築で戦うサンゴ狩り専門のプレイヤー達だ。
曰く「ポーションと同じで必須アイテムの需要は長い! ゲージ減少無効装備が出るまでは安定して稼げる!」との事だった。
アイテムボックス限界までサンゴを詰めた彼等は更に紐で体にもサンゴを縛り付け、止めは両腕に束を抱えての帰還だ。
その姿はまさに動くサンゴ。偶にプレイヤーからモンスターと間違えられて遠距離攻撃されてるのは御愛嬌だ。
こういう普通のゲームなら出来ない輸送方法ができるのもILLの自由度の高さと言えるかもしれないな。その分動きが重くなるらしいけど。
「重いまぐろー」
そして何故かマグロの体にも大量のサンゴが括りつけられていた。
「保護したついでに運んでもらった。働かざる者救助されるべからず」
「動物虐待じゃね?」
「っていうか要救助モンスターにそんな事出来たんだ」
「テイムモンスターと思えばワンチャンありなのか?」
以後この輸送法を知ったプレイヤー達から、持ち切れないアイテムを運ぶ方法をマグロキャリーと呼ばれるようになるがそれは別の話。
「人間の欲望って怖いのじゃ」
◆
「ボスを見つけたぞー!」
探索を続けていると、プレイヤー達からボス発見の報告が来る。
何でわざわざ報告してくるかっていうと、ボス戦前に酸素ゲージを回復させる為だ。
それだと回復している間に他のプレイヤーに先を越される心配があるが、それは同じギルドとして最初に見つけたパーティに優先権を与える紳士協定が結ばれていた。
これはこのエリアが壁の無いフィールドでボス戦が見放題って理由もあった事が大きい。
先行者利益を求めてボスの性能が分からない状況で戦うか、先を越されるものの情報を得てから戦うか。
あとレイドだったら問答無用で全員参加になるからって意見もあった。
「じゃあ往ってくるぜ!」
酸素ゲージを回復させると最初にボスを見つけたパーティがボスへ向かってゆく。
ボスは頭が真横に伸びたいわゆるハンマーヘッドと呼ばれるサメの一種のようだ。
「シォォォォォォォォォッ!!」
ボスが雄たけびを上げると周囲の海水がビリビリと振動するのを感じる。
そして戦うバトル。
「頑張れよー!」
戦いに参加しないプレイヤー達は気楽な様子で観戦している。
とはいえ次は自分達が戦うかもしれないからボスの攻撃パターンの分析は真剣だ。
「水系の魔法は効いてないな。つーか回復してるな」
「まぁ水系のボスだしなぁ」
「火は使えねぇし風か土って事か」
「……くっ」
あっ、モヒカンが凄く黄昏た顔してる。
まぁ火魔法はコイツのアイデンティティだもんな。
……もしかしてコイツが火魔法にこだわるのってキャラメイクの時のディスティニースロットが関係してたり……いや関係ないな。
あの拘りようはただのマニアだわ。
その後、プレイヤ―達は善戦するが、ボスに及ばず敗北してしまった。
「おっしゃ次は俺らの版だ! 姫様酸素ゲージ回復オナシャス!」
何か俺の前に順番待ちが出来て、回復したプレイヤーからボスに挑む流れが出来ていた。
何だこの会場入り口受付状態。
「こりゃ酸素ゲージ回復料金を取ればよかったな」
正直俺もそう思う。
「マルスくんちゃんはいかないの?」
「あー、何か出遅れてのう、取り合えず今並んでいる者達が全員ハケるまで辞めておくのじゃ」
なんか自然と列が出来ちゃったからここで俺が戦おうとすると割込みみたいで気が引けるんだよな。
悲しきかな庶民の習性。
何故俺達は素直に列に並んでしまうのか。各種大規模オタクイベントで鍛えられたからだよ。
という訳でぼんやりボスと戦うプレイヤー達を観察していると、レフリスが何処から持ってきたのか椅子とテーブルを用意してくれる。
「待ち時間が暇だったからここで採れた素材で家具を作ってみたよ」
「うむ、感謝するのじゃ。というか生産職ってこんなものまで作れるんじゃの」
「本職の人達程じゃないけど、高性能な装備を作る為に色々スキルを習得していったら見様見真似で色々作れるようになったんだよね。リアルだとこんな都合よく作れないけど」
あー、裏技っていうか運営の想定外のスキルの使い方か。
確かにこのゲーム変にリアルなところがあるから、普通に戦わなくても崩落や酸欠とかで敵を倒す事も出来ちゃうからなぁ。自分達も死ぬ可能性もあるけど。
『一定人数のプレイヤーの治療を行った事で『聖女の祝福』を習得できるようになりました』
『一定回数の治療を行った事で『小聖女の歩み』を習得しました』
「何じゃ?」
突然目の前に二つのポップアップが出現して面食らう。しかも聖女?
「どうかされましたか姫?」
「何やら新しいスキルが習得可能になったのじゃ」
でも俺特に回復とかした覚え……いやもしかして酸素ゲージの補給も回復に当たるのか?
ともあれどんなスキル何だろう?
『聖女の祝福:パッシブスキル:魔力消費無し:自身の行うあらゆる他者への回復行為の回復量が1.5倍になる。回復速度が20%上昇する。聖なるオーラを発し、聖職者からの反応が良くなる:消費経験値5000』
『小聖女の歩み:パッシブスキル:消費魔力無し:他者へ回復行動をするとわずかだが経験値が手に入る:消費経験値5000』
「お、おおう、ぶっ壊れスキルが来たのじゃ……」
そして必要経験値も一気に増えたな。
でもこれヤバいぞ。あらゆる回復行為って事はポーションの回復量も上がるって事だよな。それに回復速度って事はリジェネ系の継続回復にも効果があるのか。
更に小聖女の歩み、回復する度に経験値が入るって事は酸素ゲージの回復をするだけでガンガンレベルアップできるようになるって事では!?
「とりあえず経験値に余裕はあるし習得しておくのじゃ」
まずは小聖女の歩みを優先して習得する。
だってこっちを先に習得しておけば、例え一人当たり1Pだとしてもここで数日も酸素ゲージを回復すれば5000なんてすぐに集まるだろう。
という訳で小聖女の歩みを習得した俺は、ステータス画面を表示し、皆が酸素ゲージを回復する度に画面を核にする。
すると少しずつ経験値が入っているのが確認できた。
「おお、本当に入っておるのじゃ」
獲得経験値はやっぱり一人当たり1ポイント。
ただパーティ単位で来るから大体4~6は貰える。
「これは美味しいのじゃ」
こうして俺はボス行列がハケるまで経験値を稼ぎ続けるのだった。
「ただ、どんどんサポートキャラになっていく気がするのじゃ……」




