第60話 鮪姫との幻想探検
「おー、全然楽になったな! マグロ系モンスターから簡単に逃げられるようになったぜ!」
俺が歌いだすと戦闘は劇的に楽になった。
『歌姫の祝福』で混乱状態になったモンスターは積極的に攻撃してこなくなるので、ランダムで向かってくる敵だけを範囲攻撃で迎撃すればよくなった。
問題らしい問題はたまにマグロが範囲攻撃の範囲内に入り込んでくる事くらいだ。
しかしそれも歌を聞かせ続けて魅了状態にすれば問題が無くなる。
『姫様の役にたつまぐろー!』
そして魅了状態になったマグロ達は俺の役に立とうとついてくるので、時間が経てば経つほど戦力は増強される。
「おーい酸素ゲージが限界だー!」
「姫様待ってくれー!」
そんな風に海域を進んでいると、酸素ゲージが限界に近付いたプレイヤー達が俺の所にやってくる。
「ふー、助かった。ただ姫様の進むスピードが速いからもうちっとゆっくり移動してくれると助かるんだが」
「あー、今のお嬢は人魚になってるからなぁ」
ああそういえば港で返信してからずっとそのままだったわ。
どうりで水中でもスイスイ動けた訳だ。
「でも海の中で人魚と一緒に泳げるのはかなり幻想的でイイよな」
「幻想的って言うにはちっと暗いけどな」
「バッカお前、そのおかげで姫様だけを見て居られるんだろうが!」
「天才かお前」
うう、変態が何か言ってるよぉ……
そんな俺の肩をモヒカンがポンと叩いて言う。
「これが現実だ」
「天丼のつもりかぁーっ!!」
◆
「こっちのモンスターの方が強いな。目的地はあっちのようだ」
今回のダンジョン海域の目的地はモンスターが一番狂暴なエリアの中心という事もあってある程度ゴールの方向が絞られるのもありがたい。
ただ通常のダンジョンと違い通路という壁がない為、最短ルートを目指すとモンスターが多くいる海域を突っ切る必要も出て来る。
多分ここでモンスターの数が少ないルートを選びながら、強い敵がいる方向に向かってグネグネ動くのが正規のルートなんだろうな。
「この辺はモンスターが多いな、お嬢歌を頼む!」
もっとも俺の歌でモンスターを混乱させる事ができるので、数の不利を気にせず最短ルートを進んでゆける。
「これなら海域のど真ん中にすぐに着きそうだな」
「マグロ達も味方になってるしボス戦も楽勝だろ」
が、その目算は中央に近づくにつれ崩れる事になる。
「キャーッ!? なになに!?」
初めにそれが起きたのはレフリスだった。
『マーグロー!!』
なんと味方になった筈のマグロ達が襲ってきたのである。
見れば魅了状態がランクダウンして混乱状態となっている。
おかしい、歌を聞き続けていれば最低でもランクダウンはしない筈なのに。
「うわっ!? こっちも急に攻撃して来たぞ!?」
「お、おいどこ行くんだ! 敵はあっちだぞ!」
そこかしこでマグロ達が魅了から混乱状態にランクダウンして不規則な行動をとり始める。
「どういうことだ? 姫の魅了が解除されているのか?」
「いや多分中心に近づいたからだな」
何かに気付いたのかモヒカンが皆に呼びかける。
「恐らくモンスターを狂暴化させる遺物の効果だ! 中心に近づくと遺物の効果が強くなってお嬢の歌と主導権の奪い合いが起きるんだ!」
マジか! そんなに遺物の効果は強いのか。
いやでもこれだけ広い海域のモンスターを纏めておかしくできるんだから、中心部は魅了を無効化できるくらい影響があってもおかしくないのか。
「ここからは魅了を過信するな。逃げるのが便利になるくらいに思っとけ!」
「分かった!」
その後はまだ魅了状態のマグロ達にここから離れるように告げ、俺達だけで中心に向かって進む。
「この辺まで来ると敵も相応に強くなってるからなかなか前に進めないな」
「マグロ達も魅了と混乱を行き来してるから頼れねぇしな」
既にマグロは味方ではなくどう動くか分からない第三勢力扱いだ。
俺が命令すれば魅了状態のマグロにここから離脱させられるんだけど、今は歌い続けてないと混乱状態のマグロのデバフが外れちゃうからなぁ。
「……思ったんだが海域の奥に行くにつれて魅了状態がランクダウンする速度が速くなっていないか?」
ふとヒメキが魅了状態のマグロ達のデバフ状態の変化に疑問を呈する。
言われてマグロ達を観察してみると、確かに混乱と魅了の状態表示が一定間隔で変化していた。
「姫、試しにに魅了したマグロ達をダンジョンの外の安全な海域まで避難させてはどうでしょうか」
何を考えたのかヒメキは実質的な後退を提案してくる。
「モンスターを避難させても意味なくねぇか? またこの辺にポップするだけだろ」
「だが保護系のクエストなら何か起きる可能性もある。どのみちこれ以上進むのは困難なんだ、試してみる価値はあるだろう」
確かに、普通の攻略ならわざわざ仲間を攻撃しないでくれとか言わないもんな。
連れ帰る事で何か新しい展開が発生するかもしれない。
よし、一旦案内マグロの所まで戻ろう!
◆
という訳で俺達はこの海域まで案内をしてくれたマグロのところまで戻ってきた。
この辺りまで来ると魅了状態が下がる事もなく、ヒメキの推測は正しかったと確信が持てた。
「お主の仲間を連れて来たのじゃー」
『わぁ! 兄弟達を連れて来てくれたまぐろー! ありがとうまぐろー!』
やっぱその語尾雑過ぎない?
「一緒に連れて行くと危ない故、安全な場所に逃げるように言ってほしいのじゃ」
『分かったまぐろー。これは兄弟達を助けてくれたお礼だまぐろー』
そう言うと案内マグロの体からキラキラと輝く鱗が出現する。
「これは?」
『この鱗を集めるとその枚数に応じたアイテムをプレゼントするまぐろー』
「おお! アイテムショップか!」
「ソシャゲの周回要素だな!!」
交換アイテムが貰えると分かり、一部のプレイヤー達が歓声を上げる。
成程、マグロ達を保護するとこういうメリットがあったのか。
そうなると連れ歩くよりも定期的に戻ってきた方が良さそうだな。
『鱗が溜まったらこっちのアイテムと交換するまぐろー』
ドンとどこからか出した巨大な貝が開くと、その内側には交換できるアイテムと交換に必要な鱗の枚数が刻まれていた。
「「「「おおーっ!!」」」」
「一番少ない枚数で消費アイテムと交換か。上位のアイテムは装備品かなこりゃ」
「成る程、ここでアイテムを揃えて強化してから進めという事か」
「それだと生産職が要らなくならないか?」
「いや、交換アイテムに素材もあるから生産職の仕事はあるだろ。生産職の伝手が無いソロ連中向けのフォローじゃないか? 後はユニーク装備とか」
あー、そりゃソロ用には助かるわ。
「よっしゃー! モチベ上がって来たー!」
「ご褒美があるのが良いよな! 誰か捕獲系スキル持ってたか!?」
「俺騎獣をテイムする為にとってる。ただ最近使ってなかったからスキルレベル上げないと」
「そうか、捕獲系のスキルを腐らせない為のクエストだったのか!」
あー成る程な。使いどころが少ないスキルを活躍させる為の運営の策略だったのか。
誰だって自分が取得したスキルは活躍させたいもんな。
「おっしゃ、マグロを集めるぞー!」
そうして、攻略よりもアイテム交換を目当てにマグロの捕獲に専念するプレイヤー達を人はマグロ漁師、マグロテイマーなどと呼ぶようになるのだった。
◆
定期的にマグロを保護しながら探索を続けていると、攻略サイトにプレイヤー達の新しい発見が報告される。
「おい! アイテム交換マグロの所に行くと酸素ゲージが回復するってよ!!」
「「「「な、なんだってーっ!?」」」」
たまたま俺がいない日にウロコを一枚でも交換しようと来ていた連中がアイテム交換マグロに触った時で気付けたらしい。
何故触ったのかは不明だ。
「おお! これなら姫が居ない日でも奥まで水中を探索できるな!!」
「行けるぜウロコ鬼周回!!」
が、世の中そんなに甘くはなかった。
「……だ、駄目だ。酸素ゲージが回復出来ても奥の方までは届かねぇ」
どうしても酸素ゲージの消費量が足りず、最短で奥に向かってもボス部屋までは届かなかったらしい。
「うーん、姫が来ない日はレベルを上げて攻略速度を地道に上げていくしかないのか?」
「それとも他に何か酸素ゲージの回復手段が隠されているかだな」
「でも交換アイテムにはそれらしいものが無いんだよな」
「もしや前線組の侵攻を送らせる開発側の地帯戦術なのでは?」
最後の方になると陰謀論まで発生する始末だった。
「おっしゃー! マグロ沢山捕まえて来たぜー! ウロコくれー!」
『仲間を助けてくれてありがとうまぐろー。これはお礼のウロコだまぐろー』
そんな中、マグロ漁師達だけは攻略状況に関係なく黙々とマグロを捕獲し続けていたのだった。
もはや交換できるアイテムは全部交換した筈なのにだ。
「うっひょー! BOX周回美味ちーーーっ!! 目指せ1000枚!!」
周回勢のやる気凄いなぁ……




