第52話 『あくのおうじょさま』の暗躍
歌い続けてたら何か『心酔』とかいうデバフが発生した。
「なんじゃこれは」
「『心酔』は心の底から対象に服従した状態だット。姫様の歌声に魅了され続けた結果、こころの底から姫様のファンになったんだット」
「成る程つまりいつも通りだな」
「人工知能が人間の感情に追いついたね」
それは言い過ぎでは!?
「この状態になると都度魅了する必要は無くなったット」
完全洗脳状態ってことぉ!?
まじかー、洗脳怖い。
「興味ないアイドルの歌がお店で流れてて、毎日聞いてたら好きになってたみたいなものかな?」
「やってる事は椅子に拘束してヘッドホンで歌を聞かせ続けたようなものだがな」
君達辛辣じゃない? あと昔そんなシーンが流れるアニメあったなぁ。
「まぁ毎回魅了せんでも良くなったの良い事じゃが、実際心酔ってどんな感じなんじゃ?」
「本人に聞いてみたらいいット」
それもそうか。俺は頬を赤らめてこちらを見つめているバーソンに聞いてみる事にする。
「のうバーソンよ」
「は、はい! なんでございましょう!?」
うーん、挙動不審。
「おぬしわらわの事はどう思っておるのじゃ?」
「ひ、ひひひ姫様の事をですか!? そ、それはもちろんとてもお美しく聡明で歌声は天使のごとく八面玲瓏花容月貌仙姿玉資擲果満車迦陵頻伽」
「ああ、もういいもういい」
というかこのゲーム熟語の語彙が多すぎでは?
「では国家転覆とわらわはどちらを優先するんじゃ? お主は完全鎖国派なんじゃろ?」
「姫様の歌声より重要な事などありませぬ!!」
「わー、強火ファンだー」
「完全鎖国派だと同担拒否になるのか?」
「握手会のCDを100枚単位で買いそうな勢いだな」
やめて、リアルで考えると普通に怖いのよ。
俺の中身はただの会社帰りにジムに通うのが趣味な成人男性のマッチョマンなんだぞ!!
「あー、ではこれからは完全鎖国派を辞めてわらわに協力してくれるか?」
「「「「はい! 完全鎖国派を辞めます!!」」」」
わーこわーい。
なんか他の連中も一斉に辞めちゃった。
「とりあえず暫くは完全鎖国派の真似をして情報を集めて貰わねぇとな」
「あとはまだ未洗脳の完全鎖国派を集めて全員魅了しないと!!」
「当たり前のように洗脳が手段に加わってるの怖すぎるんじゃよ」
「あっそうだ! コンサートの名目で妖精達の重鎮を集めて大陸を乗っ取るとかどう!?」
「却下――――っ!! それわらわ達が完全鎖国派にとってかわってるだけじゃろ!!」
「実際そうだけどな」
「カタギに迷惑をかけるのは駄目じゃー!」
「部分鎖国派までならセーフなのでは?」
「アウトじゃー!」
「そんなヒットも無しに盗塁だけで点を稼いで試合に勝つような真似をしたいのかお主等ー!」
「それはそれで伝説になりそうだけどな」
まぁ伝説にはなると思う。伝説の珍試合として。
そんな訳でバーソン達を完全に支配した俺達は引き続き情報収集と素材集めに勤しんでいた。
「うひひ、ここに居たらレア素材がガンガン入ってくるよう」
レフリスがよだれを垂らしながらバーソン達がもってくる素材に頬擦りをする姿はちょっと人に見せられない光景だ。
「頼めば遺物以外の素材も持ってきてくれるから最高だね!」
そんな事しとったんかコイツ。
「新装備ガンガン作るよー!!」
まぁアレはアレで役に立つから好きにさせておこう。
たまに遺物取扱いに失敗して爆発してるけど。
「まさか遺物を扱う為の専用スキルがあったとはのう」
「攻略WIKIに載ってないスキルだったからびっくりしたよ。遺物は素材として使うのに数が必要だから、スキルの習得条件が達成されるまで生産出来てる人は少ないんじゃないかな」
実はこの遺物、物によってランクがあったらしく、『遺物取扱い』スキルを習得した事で成功率が上がるだけでなく装備品のクオリティの様に遺物の品質が分かるようになったのだとか。
「ある意味ではこれもクオリティだね。新古品からジャンクまでって感じといったら伝わりやすいかな? 中古ショップで動作保証してない品を買う感じだね。で、ランクが高いアイテムは数十年前に生産終了した品の良品を手に入れるようなものだから、このスキルを上げて成功率を上げておかないと大惨事だよ」
「姫、他のエリアからの使者が来ました。歌の御準備を」
と、レフリスと遺物について話していたら、ヒメキが足早に報告にやって来た。
「ついに来たか」
完全鎖国派同士は情報漏洩を避けあまりお互いの情報を漏らしていない。
だから他の完全鎖国派の情報については手詰まりだったが、ようやく向こうからやってきてくれた。
「では言ってくる。レフリスも装備の生産頼むぞ」
「まっかせて!」
指定された部屋にやってくると妖精達からの合図を待つ。
この部屋は使者のいる部屋のすぐ隣で、意図的に穴を開けて音が通りやすく加工されていた。
そして合図がくると俺は歌い始める。
「ん? なんだこの歌声は?」
隣の部屋から怪訝そうな声が聞こえる。
「ああ、捕らえた捕虜が歌っているんだろう。特に無害だから気にしないでくれ」
「捕虜だと? 黙らせればいいだろうに」
「仲間に助けを求めようと歌っているみたいだが、どうせ外に音は漏れん。部下の評判もいいから暇つぶしを兼ねて歌わせている。捕虜だから代金もかからんし丁度良い娯楽だ」
「酔狂な事だ」
その後も隣りから妖精達の話し合いが聞こえてくるが、次第に言葉が途切れ途切れになり、最期には声が聞こえなくなった。
「魅了成功です」
隣の部屋に様子を見に行ったヒメキが魅了の完了を確認すると俺は歌を止めてこれから始まる尋問を見に行く。
「お主等のアジトの構造、メンバーの人数、能力、装備、現在行っている活動内容を教えるのじゃ」
魅了した直後は俺の言うことしか聞かないので直接命令を下し情報を吐かせる。後はモヒカン達の言う事を聞くように命令して細かい情報をさらに集めさせる。
「一通り情報は集まった。それじゃあ相手に疑われる前に攻め込むとしようぜ」
「うむ」
「新装備も出来てるよー!」
「漸く動けるな」
このまま使者を心酔するまで歌い続けると、中々仲間が帰ってこない事に他エリアの完全鎖国派を警戒させてしまう恐れがある。
だから魅了して情報を集めたら即攻め込むと俺達は計画していたのだ。
「「「「姫様お気をつけて!!」」」」
心酔した妖精達に見送られ、俺達は次のエリアに向かう。
道中魅了した妖精に歌を聞かせ続け『心酔』状態すると向こうの砦に侵入する為の命令を下す。
「お任せください」
道中は襲ってくる妖精国のモンスターを迎撃しつつ、砦が近づくと俺達は荷物に隠れてやり過ごす事にする。
「今回は遅かったな」
「いつもより魔物が多く襲って来てな。その所為で手間取った」
この辺りは妖精達の間でもいつもの事なのか慣れた様子だ。
「じゃあ一応荷物のチェックをする」
え? 荷物のチェック。
「え? あ、ああ、けど要らなくないか? いつもの事だろ」
「そうもいかん、帰りが遅れたら念のため荷物のチェックはリポナ様から言明されているだろ」
マジか!? しまった魅了状態だとそこまで細かい情報を自主的に教えてくれないのか!
どうする? 今すぐ飛び出して不意打ちするか。
俺は魔通輪でタイミングを合わせようとして止まる。アカン、これを使うと声を聞かれちまう。
「ぐわっ!? 何をする!?」
が、その時外から鈍い音と共に妖精の困惑する声が聞こえて来た。
「今じゃ!!」
俺は荷物の蓋を蹴とばすと目に入った妖精目がけて突っ込み地面に叩きつける。
「グアッ!?」
間を置かず鈍い音が三度聞こえる。どうやら皆も同じ判断をしたらしい。
「侵入者っ!?」
仲間を呼ばせるわけにはいかない!
「マッスルパワー!!」
瞬間的に筋力を三倍にした俺は即座にまだ立っている妖精を切り飛ばす。
視界に入ったのは俺が心酔させた妖精が他の妖精に取り押さえられている姿。
どうやらあいつが俺達を助けようとして仲間に襲い掛かって隙が生まれたらしい。
「はぁっ!!」
「せい!」
「たぁ!」
俺とレフリスとヒメキの攻撃が残った妖精達に叩き込まれ戦いは決する。
が、ギギギガチャンという音と共に扉が閉まる音がする。
見れば砦の扉の上部から妖精達がこちらに向けて弓を引き絞る姿が見えた。
「敵襲だーっ!!」
「うぉぉっ!!」
俺達は慌てて物陰に隠れて妖精達の一斉射から逃れる。
「しまったのじゃ、門番以外にも見張りが居たのじゃ」
「まぁ普通に考えればそうだよな」
だがこうなるとどうしたものか。
完全に敵に警戒されちまった。
「でもこの距離ならマルスくんちゃんの歌で洗脳すれば一発だよね」
「……あっ」
はい、門は無血開城しました。
「よーしお主達、わらわ達を守って砦を制圧するのじゃ!!」
「「「「ははーっ!!」」」」
従えた妖精達を引き連れ、俺達は魅了をバラ撒きながら進む。
移動する度に味方が増えるので阿鼻叫喚ですよ。
「な、なんでお前が!? うぎゃー! ……姫様ばんざーい」
「わーゾンビゲームみたーい」
「噛まれなくても感染するあたりゲームとして崩壊してるな」
「聞こえるだけでアウトなのはもうホラーだろう」
い、一応抵抗はできるし……
「いたぞ! あの娘だ! 黙らせろ!」
と、新たな妖精達がやって来たので歌を聞かせ……あれ? 魅了できない。
「はははっ! 残念だったな! こちらは精神デバフ耐性のアイテムを装備しているのだ!!」
おお、今まさに思っていた耐性アップアイテムだ!
「まぁ普通にあるわな。それなら普通に攻撃するだけだ。ブレスファイヤ!!」
「「「「ぎゃぁぁぁぁぁっ!!」」」」
モヒカンが通路いっぱいに広がる新呪文の炎を叩き込み妖精達から悲鳴が上がる
うーん逃げ場のない通路で使われるとどうしようねぇなぁ。
「シールドダッシュ!!」
ヒメキが盾を構えて高速突撃を行い敵を吹き飛ばす。
「ぐはっ!!」
「はっ!!」
そして止めの一撃を決められ勝負は決した。
「あった! 精神デバフ耐性アップ装備だよ! 効果は、耐性確率アップで無効化じゃないみたいだね」
「流石に無効化アイテムを雑魚が大量に持ってたらバランス崩壊モンだしな」
「とはいえ、耐性アップアイテム持ちが出て来ると姫の力に頼りきりになれなくなってきたな。我々も気を引き締めなければ」
「なぁに、出番が増えるってもんよ」
ようやく出番が回って来たとモヒカンがモヒカンを整えて気合を入れる。
うん、紛らわしいなこの言い回し。
だが、そんな気合に反してデバフ耐性アイテム持ちはあまり出てこなかった。
「もしかしてデバフ耐性アップアイテムの数も少ないんじゃないかな?」
うん、俺もそう思った。
「なんだよ歯応えがねぇな」
そんな訳で俺達は肩透かしを食らいながらも時折現れるデバフ耐性持ちの相手をしつつ、味方を増やし続け、遂に砦のボスの部屋の前までやってきた。
「さて、このまま入ると準備万端の敵から先制攻撃を喰らうのは間違いないがどうする?」
「そら数の利を有効活用するしかないだろ」
「良いのか? 詰まらん戦いになるぞ?」
「せっかく有利を取れるんだ。貴重な無敵モードと思って活用させてもらうさ」
こういうところはゲーマーだよな。
「では確認じゃ。わらわ達は射線に入らない様に外で待機して妖精達に突撃させる。敵の体力を削りつつダメージを与える」
「で、隙を見て魅了耐性アップアイテムを奪い取って魅了をかけるだね」
「想定外の事態で魅了が不可能ならそのまま倒す」
俺達は互いに頷くと、妖精達に指示を出し扉を開けさせる。
直後、扉を破壊せんほどの威力の魔法が放たれ正面にいた妖精達が吹き飛ばされる。
「うわっ、モヒカンさんの魔法並の大きさだ!」
「へっ、俺の方が威力も範囲もあるぜ!」
張り合わんでもよろしい。
「妖精達! ひるまず突っ込め!!」
「「「「はっ!!」」」」
ヒメキの号令を受けて妖精達が突入する。
「今の威力なら次の発動までのクールタイムがある! 相手の懐に飛び込め!!」
当然敵もそれは理解しているようで中規模の威力の攻撃を連発し、侵入を遮る。
そして暫くするとまた先ほどの攻撃が放たれた。
「クールタイムは約40秒!! 全員強引に突っ込め!!」
次の攻撃までの時間を数えていたモヒカンが指示を出す。
その間も俺は仲間が敵のデバフ耐性アイテムを取り上げる事を信じて歌い続ける。
あとあくまで耐性アップなので、効果が発揮される場合もあるしな。
俺も戦いたいなぁ。
「うぉぉぉぉっ! 姫様の為に!」
「姫様ばんざーい!」
やめて! 私の為に争わないで!
「ウッ! うう……姫様ばんざーい!」
「リッツェ!! くそ、コイツはもうダメだ!」
壁の向こうで何かドラマが生まれてる。
「うわぁぁぁぁっ!! 助け! 助けて! 嫌だぁぁぁぁ……うた きれい」
何でホラー調なんだよ。
「おのれ、よくも部下を! かくなるうえは!!」
「転移の遺物だ! 使わせるな!!」
「もう遅い!!」
「しまった!」
あっ、やべっ、逃げられそう。
「ふはははっ!! さらばだ!!」
ヴォンという音と光と共に俺の前に現れるポーズをつけた見知らぬ妖精。
「……あれ?」
「……」
お互いに目が合い、一瞬何が起きているのか理解出来なかった。
「ロイヤルスラッシュ!!」
「ぐわーーーーっ!!」
なのでとりあえず攻撃しておきました。
「なるほどー、遺物の転移に失敗するとこういう事が起きるんじゃな」
憐れ、砦のボスは望み通り部屋の外へ脱出したにも関わらず敗北してしまったのだった。
やっぱ保証のない中古品を信用しちゃいけないね。
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