第44話 第二の覚醒
『ウォータードラゴン(カッシー)の魔王核を完食しました。特殊クラスチェンジが始まります』
「これ、運営もカッシーが公称だったんかのう?」
カッシーの魔王核を手にいれた俺は早速クラスチェンジを行った。
今回は青い光に包まれ、やはりSFアニメでスキャンされるようなエフェクトが足元から胸元まで上がってくる。
そのままスキャン光が俺の頭を超えるとクラスチェンジが完了した。
『クラスチェンジ完了。魔王剣姫は魔王歌姫に進化しました』
「って歌姫ぇーっ!? 何でじゃーーーっ!!」
「いや普通に納得だと思うぜ」
「攻撃よりも歌の方が活躍してたよね」
「むしろ歌姫以外の何になると?」
「ぐわーっ正論!!」
ぐうの音も出ないくらい正論過ぎて痛い!!
だってしょうがないじゃん! レイドで全体回復バフとかゲーム的に便利過ぎるんだもん!!
皆だってそんなぶっ壊れユニットが居たら使うよな!?
『魔王歌姫に進化したことでロイヤルスキルの倍率が変化、魔姫角が魔姫中角に、魔姫翼が魔姫中翼に強化されました。『魔姫咆哮』を習得しました』
おっ、スキル強化と新スキルも来たか!
ロイヤルスキルの倍率はどれだけ上がったんだろう?
――――――――――――――――――
大いなる血統:全ステータスが40%上昇。
ロイヤルスラッシュ:攻撃スキル:消費MP200:ダメージが1500%増加。
ディープシーティア:特殊回復スキル:消費MP150:膨大な水で全てを流し癒す魔法、水を浴びた敵は通常よりも遠くへノックバックされ、味方はHPを500回復する。
魔姫中角:最大魔力が25%UP、魔法威力が25%UP
魔姫中翼:すこし大きくなった翼で滑空中に上昇が可能。羽は小型化が出来る。
おおー全体的に倍率が上がってるな。その分消費MPも増えてるけど。
そしてパッシブスキルの性能が確実に上がっているのもありがたい。
羽の性能が上がったのは地味に嬉しいな。どの程度上昇できるのかは検証しないと分からないが高低差のあるステージではかなり使い勝手が良さそうだ。
「倍率がかなりバカにならん数字じゃが、これもドラゴン素材の恩恵なんじゃろうな」
カグランタ王子との戦いの後でも言われたが、貴血への覚醒は使用した魔王核の性能が影響しているっぽい。
だからこそ次の進化素材を見つけるのが大変なんだが、その見返りは十分にあるという事なんだろうな。
「問題は進化先が歌姫になったことじゃな」
水属性のカッシーの魔王核を使ったのに水属性への進化をしなかったのには訳がある筈だ。
歌というあまりにも偏った属性は間違いなくこれまで俺がILLで歩んできた道に関わり過ぎている。
「これまでの行動が進化に影響を与えていたとするならば……」
俺はその事実が示す可能性に着目する。
「ひたすらに筋力と体力を鍛えて戦いまくれば次の進化先はきっと筋肉ムキムキのマッチョマンになる筈じゃ!!」
これは今ののじゃロリぺったんボディの可能性だけではなく、いずれキャラメイクをやり直す時の冒険の方向性に大きく影響する事になる。
「よーし! 経験値を溜めまくって体を鍛えるのじゃ―っ!!」
うぉぉー! 未来のマッチョな俺の姿、燃えてきたぜー!
「それは良いんだけどスキルは何か覚えなかったの?」
「む、そうじゃった。魔姫咆哮というスキルを習得しておった。どんなスキルなんじゃろうな」
魔姫咆哮:戦闘スキル:MP消費100(1分):声の聞こえる範囲内の敵を確率でスタン状態に出来る。繰り返しスタン状態が成功すると精神に影響を与え混乱状態になる。さらにスタン状態が成功すると魅了状態になる。魅了状態になった敵はそのまま味方になる。クールタイム300秒
「んん? なんじゃこれ?」
いまいちスキルの内容がよく分からない。
歌姫の加護と同じように歌う事で発動するスキルっぽいんだが、繰り返しというのが不明瞭なんだよな。
「どうも歌を聞かせると確率でスタン状態になるらしいんじゃが、繰り返しスタンが成功すると状態が変化してゆくらしい。ただ二度目以降のスタンをどうやって成功させるのかがよく分からんのじゃ」
攻撃スキルなら回数攻撃すればいいけど、これは歌なんだよなぁ。しかもクールタイムが300秒と5分は長い。
「なら実際に使って検証すればいいだろ」
「そうじゃな」
と言う訳で俺達は領地内にあるサバンナにやって来た。
周囲にはそこそこの数のモンスターが歩き回っている。
「この辺で良いじゃろう。皆護衛は頼むぞ」
「まかせて!」
「おう、新スキル見学させてもらうぜ」
「護衛は我々にお任せを!」
「では行くぞ! 『魔姫咆哮』!!」
がスキルを発動させても何も起きない。
「どうなっとるんじゃ?」
スキルが失敗したのだろうか。見ればクールタイムゲージが発動しているのでスキル自体は発動したっぽい。
「咆哮っていうからお嬢が叫ばないといけないんじゃねーか、歌姫の加護みたいに」
単純にスキルを選択で発動しないのはちょっとめんどうだな。
クールタイムが明けた事で改めてスキルを発動させる。
「改めて『魔姫咆哮』!! ウォォォォォォォォォォォッ!!」
「「「ッッッ!?」」」
俺の声が聞こえていたモンスター達がビクリと体を震わせて動かなくなる。
「おお! 止まったのじゃ!!」
成程、モヒカンの言った通り叫ぶ必要があるのか。
これでスタン状態の検証は出来た。
次は混乱状態だが、これが困難を極めた。
「スタンが切れると攻撃されたと判断して襲ってくるのじゃ!!」
「クールタイムが明けるまで凌ぐもの大変ですね。凌ぐよりも倒した方が速い」
「じゃあボス戦で使うようなのかな?」
とりあえず俺達は混乱がかかるまで検証を続けてみる。
が、いつまで経っても混乱状態にはならなかった。
「どういう事なんじゃ?」
「もしかしてバグスキルなんじゃねえのか?」
「バグスキル? それは裏技みたいなものか?」
「そっちじゃなくてプログラムミスで本来の機能が発揮しないスキルの方だな。攻撃力アップスキルの筈がエフェクトだけ発動して実際には上がってなかったなんてのもある」
「それは運営に通報案件だな」
まさか本当にバグスキルなのか?
「うーん、そうじゃなくてさ、やり方が違うんじゃない」
「やり方?」
バグではないかと疑うモヒカン達に対してレフリスはそれは違うのではないかと反論する。
「うん、マルスくんちゃんの戦い方がクラスチェンジに影響したんでしょ? だったら叫ぶとかスキルのバグっていうよりもいつもやってることをやった方が良いと思うんだよね」
「わらわがいつもやっている事とはなんじゃ?」
自分では普通に戦っているつもりだから、特別他のプレイヤーと違う事はしてないと思うんだが……
「歌だよ!!」
「「ああ!」」
「ああ?」
なんでそこで歌?
「言われてみればそうだ」
「成程、スキルの説明に明記されていなかったせいでうっかりしていたな」
何故かモヒカン達は納得の声を上げている。
「いやいや、待つのじゃ。確かにわらわは歌った事があるが、実際には戦闘と関係ないコンサートなどばかりじゃろ」
「多分戦闘だけじゃないと思うんだよ。でないと私みたいな生産職も戦闘の行動だけで判断されちゃうし」
「む、それは……」
そう言われるとちょっと否定しにくい。
「だからさ、試しに歌いながらスキルを使ってみようよ!!」
「検証と言う意味じゃありだと思うぜ」
「むぅ…」
そんな訳で今度は歌いながらスキルを試す事になった訳だが……
「あっ、スタン入ったよ!」
そのまま歌い続けると敵に変化が起きる。
『混乱』
「おお! 来たぞ!」
混乱状態になったモンスターはフラフラと体を揺らしたり味方同士で攻撃したりあっちこっち無軌道に動き出す。
「こりゃいいな。運が良ければ敵同士で戦いもするのか」
そうして歌が佳境に入ると、混乱状態だった敵の一体に『魅了』のエフェクトが現れる。
「グルルゥ」
そして魅了状態になったモンスターは甘えた声をあげながら尻尾を振って俺の下にやってくる。
「攻撃する様子もないし、 友好的な感じだな」
そして歌を歌い終えた事でスキルがクールタイムに入る。
「歌い終えるまでクールタイムも追加のMP消費も発生しなかったのじゃ」
「そして魅了状態のモンスターも未だ魅了状態ですね。このままずっと魅了状態なのか、一定時間が経過すると切れるのか」
皆が改めてスキルの考察を始める。
「混乱や魅了になるまでに個体差があったな。同じ種族なのに違うのは個体ごとに判定をしているのかもしれん」
「叫ぶよりも歌った方が効果が続くんならマルスくんちゃんには歌って貰った方がいいね!」
「待て待て、よほど大量の敵が襲ってきたのなら話は別じゃが、普段の戦いでは攻撃した方が速いじゃろ」
それに効果が発揮するかはランダムなのも怖い。
戦闘で信頼して使うにはちょっと不安要素が強すぎる。
「まぁ良いじゃねぇか。使えないスキルって訳でもないんだし。そのうち活躍する機会があるだろうよ」
「あると良いのじゃが」
その時だった。
ゴゴゴゴゴという低い音と振動が聞こえてきたのだ。
「クォォォォォォン!!」
次いで聞こえてきたのは聞き覚えのある高い鳴き声。
「何じゃ?」
「あっ! あれ見て! 何か来る!!」
振り向くと、彼方から大量の水が押し寄せてくるのが見えた。
「なんじゃあ!?」
「こんな平地で津波!? いや洪水か!?」
「高台に逃げろ!!」
俺達は高台を探して周囲を見回すが、あいにくとここはサバンナ地帯。
洪水を回避するほどの高度のある場所は近くにはなかった。
「とにかく走るのじゃ!!」
俺達は急いで洪水から逃れるべく、そして高台を探して走る。
すると魅了状態になっていたモンスターも一緒になってついてくる。
だが水の勢いは俺達の足の速さよりも遥かに上でどんどん近づいてくる。
「クォォォォォォン!」
なんじゃあの鳴き声は!?
「モンスターがあの水を操っているのでは!?」
「もしや野良ボスか!?」
ILLでは稀にフィールド上をボス並の強さのモンスターが徘徊している事がある。
それをプレイヤー達は野良ボスと呼んでいた。
「そうだ! 水着装備! あれなら洪水に巻き込まれても助かるかも!!」
「そうか!」
俺達は走りながら水着装備に着替えてサバンナを走る。
はたから見ると平野を水着姿で全力疾走する変質者集団だ。特にモヒカン。
「うぉぉ! 追いつかれる!!」
遂に洪水は俺達の背後まで迫って来た。
もうすぐ完全に飲み込まれてしまうだろう。
なんとか水着装備が力を発揮してくれれば!!
「クォォォォォォン!!」
そう思った時、洪水の中から巨大な蛇が飛び出してきた。
いや違う、蛇じゃない。コイツは……
「「「「カッシー!?」」」」
「クォォォォォォン!!」
なんと洪水の中からカッシーが飛び出してきたのである。
「何でカッシーが!?」
カッシーが地面に着地すると、洪水はあっという間に緩やかな水の流れになって周囲を水浸しにする。
「カッシーがこの水を操っていたのか」
だが一体何のためにやって来たんだ!?
「クォォォォン」
カッシーは俺に近づくと嬉しそうに頬を摺り寄せてくる。
「わわっ、なんじゃいきなり」
カッシーはこちらの質問に答えずやたらと俺にすり寄ってくるばかり。
「もしかしてマルスくんちゃんに会いに来たの?」
「クォォォォォン」
そうしたらレフリスの言葉を肯定するように鳴くカッシー。
「まさか本当にそうなのか?」
「クォォォン!」
頷くカッシー。
マジかよ。その為に南部からやって来たのか。
「随分と懐かれたもんだなぁ」
「まさに姫の人徳のなせる業ですな」
人徳は関係なくない?
「きっと寂しかったんだよ。ほらあの湖でカッシーの魔石を貰ったでしょ。あれってきっとカッシーの家族の魔石だったんだよ」
「つまりカッシーはあの湖の最後の一匹だったという事か」
「メタな事を抜きにすりゃ、確かに群れの仲間が襲われたってのに助けに来ないのはおかしいもんな」
そう言われるとカッシーの家族はもしかしたら俺達のようなカッシーの魔石を狙う連中に襲われたのかもしれないな。
魔王核と一緒に渡された財宝はそんな侵入者の成れの果てなのかもしれない。
「なるほど、今回はそういうストーリーだった訳か。お嬢が和解を選ぶことでカッシーがこの領地に来る流れと」
なんてことを考えていたら、なんかモヒカン達が勝手にストーリーの予測を始める。
「もしかしたらカッシーとは和解だけではなく戦闘継続のシナリオもあったのかもしれないな」
「じゃあ私達の選択が和解ルートに入ったってこと? でもどこから?」
「どこからと言ったら……」
とヒメキの視線がモヒカンに向く。
「俺ぇ!? 俺は盗賊の首を渡しただけだぞ!? それがなんで和解エンドになるんだよ!?」
正直俺もそう思う。
「盗賊の首を渡したことで姫の兄に湖への侵入を黙認して貰っただろう? で、それを行った本来の理由は第4王女の妨害を回避する為だ。そう考えると王子の協力を得ないで討伐に向かえば第4王女の横槍を受けていただろう。場合によってはカッシーの魔石の奪い合いになっていたかもしれん」
「あー、第4王女派閥がカッシーを襲っていたら先を越されないようにカッシーと第4王女派閥と三つ巴の戦いになってたわけか。そりゃカッシーと落ち着いて和解なんて出来ねぇわ」
「なるほどー、そうだったんですね」
ほえー、そうだったんだー。ってマジで?
ぶっちゃけ俺がNPCじゃない以上、勘違いだと思うんだけどなぁ。
まぁバレたら困るから考察を楽しんでもらおう。
「クォォォォン」
そんな考察がされているなど露知らず、カッシーは俺に身を寄せてくる。
その姿は旅行や出張で何日も家を空けていた飼い主に再会できたペットのような甘えぶりだ。
「やれやれそんなに寂しかったんじゃのう。ならいっそわらわの領地に暮らすか?」
なんて冗談交じりで提案したその瞬間、
「クォォォォォン!!」
『カッシーが貴方の提案を受け入れました。カッシーはあなたの従魔になりました』
「え?」
突然目の前にポップアップ画面が現れ、カッシーが俺の従魔とかになったという表示が現れた。
「どうしたよお嬢、何騒いでるんだ?」
そこに考察を中断したモヒカン達がやってくる。
「いやなんかカッシーがわらわの従魔になったみたいなんじゃよ」
「「「カッシーが!?」」」
まぁ驚くよね。
「レイドボスをテイム出来るのか!?」
「それってヤバくない!?」
いやマジでな。
『従魔が暮らす為の場所と食事を用意して最後まで責任をもって飼育してください』
「ペットか!!」
いや言ってることは正しいけどさ!!
しかし暮らす場所はともかく、カッシーの食事ってなんだ?
まぁ見た目恐竜だし肉だろうなぁ。
「餌のう、この巨体の必要量の肉を与えるのは結構大変な気が……」
「……クォォォン!!」
その瞬間、ヒョイパクっと近くにいたモンスターを食べるカッシー。
「「「「あっ」」」」
更に近くにいたモンスター達を次々に食べてゆく。
「なぁ、あれお嬢が魅了したモンスターじゃね?」
「あっ、言われてみれば確かに」
「ふむ、どうやら姫の歌があればカッシーの餌は問題なく用意できそうだ。
「それありなのか!?」
予想外の用途が見つかる『魔姫咆哮』のスキル。
いやいや、絶対こういう用途で作ってないと思うんだよ運営。
「クォォォォォン!!」
そんな俺のツッコミなど露知らず、カッシーは美味しそうに魔物達を食べていた。
そしてこの出来事が、のちの第4王女との戦いで大きな影響を及ぼすことになるのだが、この時の俺達には知る由もないのだった。
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