第43話 カッシー討伐戦
「クォォォォォォォン!!」
遂にカッシーの戦いが幕を開けた。
「姫のバフが掛かっている臆せず進め!!」
我先にとプレイヤー達がスキルを発動してカッシー殺到する。
対してカッシーもやられるばかりではなく巨体を生かしてヒレや尻尾、それに水を操ってプレイヤー達を吹き飛ばす。
「成る程、カッシーは水を操るのか」
戦況を観察していたモヒカンがカッシーの攻撃パターンを分析する。
「周囲に4本の水の柱を作ってそこから水を放ち、一定時間が経過すると柱は消える。カッシー本体はヒレを使った近距離の打ち下ろしと尻尾を振り回す中距離の回転攻撃と遠中近取り揃えているな」
「うっとおしいんだよ! フレイムバスター!!」
水の柱に業を煮やしたプレイヤーが炎属性のスキルで攻撃するが、水の柱は破壊される事無く反撃を行ってくる。
「ふむ、対応は時間経過のみの破壊不可オブジェクト扱いか。ならアレは無視で良いな。お前等、柱の攻撃は壁を出して遮れ!!」
「分かった! ウォーターウォール!!」
するとプレイヤー達がスキルで柱の周囲に土や水の壁を出現させて柱の攻撃が広がるのを阻止する。
「おおー、頭が良いのう」
「貫通系攻撃でもない限りこれで問題ない。あとなお嬢」
「うむ?」
「早く歌でバフかけてやれよ」
「今クールタイム中なんじゃよ」
うん、そうなんだ。実はカッシーが出現した時にライブに夢中になってた連中にツッコミを入れてしまった所為で『歌姫の加護』が切れていたりする。
なので今はクールタイムが切れるのを待っている訳だ。
無差別な突っ込み良くない。
「そろそろクールタイム終わるんじゃない?」
「おお、そのようじゃな。ではお主等も頼むぞ!」
「「「おおーっ!!」」」
再び歌姫の加護を発動して戦場にバフをかけるとヒメキが前線に向かって突撃を行う。
その姿はどことは言わないがバインバイン動いて後ろから見てもわかるのが本当に凄い。あと尻。
「こっちもバフポーション撒くよー!!『遠投』!!」
そしてヒメキに負けず劣らすキワどい水着姿のレフリスも仲間達に届くようにおおきく振りかぶってポーションを放り投げるのでこちらも迫力が凄い。
ちなみにレフリスの遠投は物を遠くに投げるスキルで攻撃以外にもロープを遠くにひっかけたり、今みたいに離れた位置にいる仲間にポーションを与えるのにも役立つ地味に便利なスキルだ。
後衛キャラが前衛キャラに回復アイテムを使える理由が可視化されたような使い方だと感心したものある。
「そんじゃ俺もやりますか! メーザーフレイム!!」
モヒカンの放った輝く炎がカッシーに命中するとカッシーがひと際痛そうな悲鳴を上げる。
「やっぱ水の中の敵は火属性が弱点だよな!!」
それに耐えられなくなったのか慌てて水の中に逃げ込むカッシー。
おお、もう後半戦か!?
「よし! 追うぞ! 水着部隊飛び込め!!」
「「「「おおーっ!!」」」」
ヒメキを始めとした水着装備のプレイヤー達が水中のカッシーを追って湖に飛び込んでゆく。
その光景は海水浴で一番に海へ飛び込もうと駆け出すキッズか、はたまたヒメキの背中と尻を追いかけるスケベ男の集団かと言わんばかりの光景だ。
「ヒメキお姉様のうなじ!!」
「ヒメキお姉様の臀部!」
「ヒメキお姉様の鎖骨!!」
うん、女性プレイヤーにも色んな癖の人がいるよね。
「私は姫様のお子様体形もイケる」
おい誰だ事案発言したのは!? 運営にチクるぞ!!
水中に飛び込んだプレイヤー達がカッシーに挑んでゆく様はさしずめ大型魚に群がる小魚と言った風情だ。
ただしその小魚達は餌ではなく獰猛なピラニアの群れだが。
「そういえば最近の研究だとピラニアってそんなに獰猛じゃないらしいな」
「え? そうなんですか?」
「実は臆病な生き物らしいぜ。ラーテルはライオンにも挑むのにな」
「なんだか知らないけどラーテルって凄いんですねぇ」
お前等話が逸れてるぞ。
などとやっていると水中が波打ちプレイヤー達が空中に放り出される。
「うわぁぁぁぁっ!!」
へぇ、あんな攻撃方法を持っていたんだな。
「グワッ!!」
「ぐえっ!」
高所から地面に叩き落されたプレイヤー達のHPゲージが一気に削れてゆく。
「ダメージの多い奴は後方に下がって姫様のバフで回復を待て!」
「わ、分かった」
その間にも水中で戦っているプレイヤー達がカッシーにダメージを与えていき、湖がカッシーの血で染まってゆく。
するとカッシーがプレイヤー達を引き離し湖の中央方向へと逃げてゆく。
「まさか逃げる気か!?」
慌てて水中のプレイヤー達が追いかけてゆくが、それを狙っていたとばかりにカッシーがくるりと反転すると、真後ろから猛烈な勢いで水を噴射し猛スピードで突っ込んでくる。
これにはプレイヤー達も避けきれず、吹き飛んだり弾かれたのち動かなくなって水面に浮かび上がってゆく。
「モーターボートみたいだな、やっかいな攻撃してきやがるな」
幾ら水中装備をしていてもあれを避けるのは至難の業だろう。
「ああっ! ヒメキさんもやられたみたいで浮いてます!」
観ればヒメキもぐったりした様子で水面に浮かび上がっているんだが……
「凄いのう、胸が浮いているのじゃ」
「ああ、胸が浮いているな」
うん、あおむけで浮かび上がったヒメキは顔面と胸を自ら突き出してプカプカしていたんだ。浮くって本当だったんだな。
「ああいうのが目撃者にUMAとして勘違いされるんじゃろうな」
「新種の生物発見だな」
「そんな事言ってる場合じゃないですよ!!」
「そうじゃった。救出してくる故カッシーの注意を逸らしておいてくれ」
「任せろ」
余りに刺激的な光景についうっかり歌を中断してしまった俺は、クールタイムが明けるまでヒメキ達の救出に向かう事にする。
水着の背中から羽を生やし、グライダーの要領でヒメキの下へと向かう。
こうして上から見ると水中組の被害が大きいな。
いったん下がって回復に専念しつつ水中戦の対策をしないとマズそうだ。
「親方! 空から白スク水幼女が!!」
「何ぃ!? スクショしろお前等!!」
「「「「へいっ!!」」」」
パシャパシャとスクショを取るプレイヤー達。って、そんな事言っとる場合かお前等!!
すると俺の怒りが通じたのか、カッシーが岸に近づいて陸上のプレイヤー達を攻撃し始める。
偉いぞカッシー!! このままぶっ飛ばしちまえ!!
「クォォ?」
と思ったらなんかカッシーがこっち見てきた。
首をかしげて妙に可愛らしいのは何なんだ。
「クォォ……」
ええと、明らかにプレイヤー達の攻撃を無視してこっちに近づいて来てるんですけど?
「クォォォォォォォッ!!」
「うぉぉっー!? こっちに来るのじゃ!?」
突如猛烈な勢いで向かってくるカッシー。
俺はその攻撃を慌てて回避する。
が、滑空をしている為徐々に高度が下がり水面がドンドン近づいてくる。
「くぉぉーっ!! 上がれぇー!!」
羽を羽ばたかせて上昇しようとするが、俺の羽はそんなに大きくない為滑空以上の事が出来ない。
次第に水面が近づき、水面に浮いてるヒメキの姿が見え……
「っていかーん!!」
このままだとヒメキを巻き込むと思った俺は翼を大きく動かして軌道を変更する。
そしてそれが止どめとなってしまい、俺は一気に失速して水面に落ちてしまった。
「くっ! とにかく離れないと!!」
新装備のお陰でかなり陸上に近い早さで動くことが出来る。
が、やはり水の中では硬い地面が無い為速度があがらない。
「こんな事なら水中での速度が上がるスキルを習得しておくんじゃった!!」
今すぐスキルを習得するか? いや無理! そんな余裕ない!!」
いっそ反撃するか!? なんて思っている間にカッシーの頭が俺の真上まで追いついてくる。
「こうなったら!!」
覚悟を決めて武器を抜いた瞬間、カッシーの頭が水中に消えた。
「え?」
あれ? 攻撃してこないの?
と思った途端、突然俺の尻に何かが触れた。
「うわっ!?」
そのまま俺の体が空高く舞い上がる。
「いや違う、持ち上げられておるのか!?」
それはカッシーの頭だった。
水面に潜ったカッシーは俺を頭の上に乗せて頭を上げたのだ。
「何のつもりじゃ?」
襲ってくるつもりなら反撃できない所に俺を乗せる訳がない。
一体何を考えているんだ?
「クォォォッ、クォォォッ!!」
するとカッシーが妙に人懐っこい感じで鳴き始める。
さっきまでのプレイヤー達に対する鳴き声とは大違いの声音だ。
「敵対する意志は無いという事か?」
なにがなんだかわからないままカッシーは俺を乗せたまま湖をグルリとクルーズ船の様に回ると、岸に俺をおろす。
「クォォォォッ」
「何がどうなっておるのじゃ?」
さっぱり分からんのだが。
「多分カッシーは姫様を仲間だと思ってるんだット」
と、最近喋らなかったバットンが声を発する。
「わらわを仲間? 何でじゃ?」
寧ろ俺は襲った方で敵なんですけど!?
「姫様はアースドラゴンの魔王核を取り込んでドラゴンの力を得ているット。それに姫様の有する属性スキルは水系が多いット」
言われてみれば確かに水系が多いかも。
「さらに言えば姫様は水属性の魔王小核も有しているット。ここまで来たら水属性のドラゴンの仲間と思われてもおかしくないット」
あー、マリンブルーツナのヤツな。
でもマグロとドラゴンが同じ枠で良いのか?
「そしてこれが決定打だと思うんだけど、姫様自身はカッシーを攻撃していなかったット。だから攻撃せずに近づいて来た姫様を友好的な同族と思ったんじゃないかット……多分」
おい、最後にこっそり多分ってつけるな。台無しになるだろ。
「うーむ、真偽はともかく敵対するつもりは無いという事か……」
正直戦線が崩壊しかけたこの状況で攻撃してこないのはありがたいけど、それはそれでこの後困るんだよなぁ。
だって俺はコイツの魔王核が欲しくて討伐にやってきたんだし……
現状戦闘は完全に止まっていて、プレイヤー達も回復しつつどうするのか見守っている状況だ。
で、プレイヤー達は皆俺を見ている。
どうするんだって。
うぐぐ、俺が決めるのコレ!?
いや確かにこのギルドのリーダーは俺だし、なにより皆この戦いをNPCの俺が
イベントとして進めているって思い込んでるから俺の選択を待っているのはある意味当然なのかもしれない。
「……すまんなカッシー、お主は静かに暮らしていただけじゃったのに。じゃがな、わらわはどうしてもお主の魔王核が必要なんじゃ。その為に皆にお主を襲わせたのじゃ。まこと申し訳ないと思っておる」
第4王女と戦う為にこのままカッシーと戦うか、それともカッシーに攻撃の意志がない事を知って魔王核を諦め不利な戦いに挑むか、正直決められない。
だからまずは仁義を通すことにした。
正直に事情を話し、カッシーが許してくれるなら撤退を宣言しよう。
ウサミミを着けた時のマールビット達の様に敵対意志のないモンスターと戦うのは俺には難しい。
だがカッシーがいまさら何をぬかすかと真相を知って怒ったら戦おう。
正直今の俺達で勝つのは難しいだろうが。
「クゥゥ……クゥ!!」
首をかしげて何かを考えていたカッシーだったが、突然湖の中に体を沈めて姿を消してしまった。
「これは、許してくれたという事なのかの?」
「え? 何? レイド終わりなのか?」
「でも倒してないよな? 素材はどうなるんだ?」
カッシーが消えた事でプレイヤー達から不満の声が上がりだす。
戦いが中断された事で消化不良になっている奴らもいるみたいだ。
「良いのかお嬢?」
「流石に敵意が無いと分かった相手と戦うのはのう」
「そうか、まぁお嬢がそういうのなら俺は従うぜ。だがあいつ等はどうするんだ?」
と不満を漏らしているプレイヤー達を指差すモヒカン。
「仕方あるまい。わらわの予算から十分な報酬を支払うのじゃ」
正直懐が痛くなるが、我が儘の代償と受け入れよう。
そうして撤収しようとしたその時だった。
突然湖の水が激しく吹きあがった。
「って、カッシー!?」
そう、カッシーがまたしても姿を見せたのである。
「どうしたんじゃお主!? 帰ったのではなかったのか!?」
まさかやっぱ許せねぇから戦うわって事か!?
が、カッシーは警戒する俺達を無視する様に頭を陸地に近づけると、口を開いて中から大量の何かをまき散らす。
「なんじゃ!? ゲロか!?」
「お姫様がゲロとかいうなよ」
何事かと皆で近づくと、そのゲロはキラキラと輝いているのが見える。
「おい、あれゲロじゃなくてお宝じゃねぇか?」
「お宝?」
誰かの言葉にプレイヤー達が一斉にゲロに殺到してゆく。が、
「クォォォォォォォォン!!」
カッシーが雄たけびを上げてプレイヤー達を追い散らす。
「お嬢以外近づくなって言ってるんじゃねぇ?」
「わらわに?」
「まぁマルスくんちゃん以外近づける理由もないしねぇ」
皆に促されておっかなびっくりゲロに近づいてゆくと、確かにそれはゲロではなくキラキラと輝くお宝だった。
何故湖の中にこんなお宝が? と思いながらもお宝を調べると、その中にキラキラと輝く巨大な魔石が見つかる。
「これはもしや!?」
『カッシーの魔王核』
「魔王核なのじゃ!?」
「「「「おおおおーーーっ!!」」」」
まさかの魔王核ゲット。
「じゃが何故魔王核が!? カッシーは討伐されておらんのじゃぞ!?」
「もしかして、カッシーのお父さんかお母さんの魔王核なんじゃないの?」
あ、成る程。確かにそれなら辻褄が合うか。
「よもやこんな入手法があったとは……」
と思ったがよく考えたら魔王核の入手方法は戦闘以外にも他人から譲ってもらう事でも手に入ると言われていたんだった。
ヴィロゥはそういう方法だと本来得られる筈だった経験を得られなくなると推奨しないみたいだったが……
「もらって良いのか?」
「クォォッ!!」
カッシーが勿論とばかりに首を縦に振る。
「感謝するのじゃカッシーよ!」
俺はありがたくカッシーの魔王核を頂くと残りのお宝を掲げてプレイヤー達に話しかける。
「皆のお陰でカッシーの魔王核を手に入れる事が出来たのじゃ! 感謝する! じゃが戦いが中途半端に終わって不満のある者達もおろう! そこでこのカッシーから受け取った財宝をお主達に下賜するのじゃ!!」
「「「「おぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」
「そう言うことなら文句はねぇぜ!」
「詳しい分配方法はガメッツに一任するのじゃ。そして足りない分の報酬はわらわのポケットマネーから捻出するのじゃ!!」
流石にここに集まったプレイヤー全員に分配できる程のお宝はないからな。
このくらいは必要経費としておこう。
「「「「おぉぉぉぉぉぉっ! 姫様最高――――――っ!!」」」」
「姫様! 俺達頑張ったしレアな財宝が貰えなかった連中にもう一つご褒美をください!!」
「んん? 何が欲しいんじゃ?」
「野外ライブの続きをお願いしまーす!!」
「「「「お願いしまーーーーーす!!」」」」
ひっくり返った。
お前等この期に及んでまだ歌が聴きたいのかよ!!
「クォォォォォッ!!」
「ほらカッシーも聞きたいって!」
お前等適当言ってんなよ!?
「もしかしてカッシーが出てきたのってマジで姫様の歌に引き寄せられた可能性があんじゃね?」
いやいやまさかそんな……
「クォォォォォォッ!!」
カッシーが期待に満ちた眼差しでこっちを見つめてくる。
おいおい、まさかマジなの……か?
「ラーイッブ! ラーイッブ!!」
「クォォォォォ! クォォォォォ!」
「ああもう分かったのじゃ!!」
魔王核も手に入ったし歌ってやるよ!!
こうして、何とも締まらないながらも俺達は戦うことなく魔王核を手に入れる事が出来た……のだが、ある禍根を残す事となってしまった。
◆
「ほう、私達が気絶デバフを喰らっていた時にそんな楽しい事が」
「……いやその」
帰りの馬車の中で、じっとりした視線を向けてくるヒメキ。
「水着で浮いていた私達を放って、随分と楽しい事をしていらっしゃったのですねぇ」
「ええと……そのじゃね」
そう、あの時カッシーに吹っ飛ばされたヒメキ達は、気絶という特殊なデバフを喰らって意識を失ったまま水面を漂っていたのである。
それもアンコールを終えてさぁ帰るかってタイミングになって気付くまで。
「ほーん、ふーん」
「すいませんっでしたぁぁぁぁぁぁっ!!」
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