第40話 騎士はかく語りき
私はヒメキ。魔王国第三王女マルシェラ姫に仕える騎士だ。
元第3王位継承者であるカグランタ王子との戦いで功を上げた褒美として正式に姫の騎士に任命され、それによって『魔騎士』へとクラスチェンジする幸運にも恵まれた。
「だが第4王女との決闘の為にドラゴンを探さねば」
我が主が更なる進化をする為にはドラゴンを倒す必要がある。
それもレイドバトル級の強さのドラゴンを。
「仲間達の中で先んじてクラスチェンジした私が率先して手がかりを集めねば」
だが、既に冒険者ギルドと知人のプレイヤーに情報集めを依頼している為、他に出来る事と言えば噂を頼りに近隣のエリアを歩き回って足で探すくらいだった。
「ううむ、今日も見つからなかった」
やはり近場で行ける場所にはそれらしい影は見つからず、噂も所詮は噂だった。
「ビッグリザードの変種は惜しかったがアレはドラゴンではないからなぁ」
あんな巨大な通常モンスターが出て来た時には流石に驚いたが、残念な事にただの単発クエストどまりだった。
「あの、のじゃロリ王国の方ですか?」
と、そんな時だった。空振りを繰り返して肩を落としていた私に話しかけてきた者達がいたのだ。
「君達は?」
「あ、俺達はベイクードって言います。俺達この国の南の方で活動してるんですけど、この町の領主様がドラゴンの情報を集めてるって聞いてやってきたんです」
「という事はもしや」
「はい、ドラゴンっぽいモンスターの情報があるんです」
なんと! これは重畳!!
「是非聞かせてくれ! 情報料は払う!」
ベイクード、マーチャ、キャッサと名乗った三人組が言うには、南部の町の近隣を探索していたら大きな湖があり、その奥にドラゴンらしき巨大なモンスターの影を見たのだという。
「はっきりとは見えなかったんですけど、湖の中に巨大な生き物の姿が見えたんです」
「まるでクジラみたいな大きさで、でも常識で考えて湖にクジラなんていないだろうし。そうなると考えられるのは巨大なモンスターじゃないかって思ってさ」
「で、そんな巨大なモンスターと言えば……」
「ドラゴンの可能性が高いという訳か」
ベイクード達はその通りと頷く。
「確認はしなかったのか?」
「あー、それが俺達もその時はなんかやべぇのがいるなって思っただけだったんで。後になってこの町の領主様がドラゴンを探してるって聞いてもしかしてあのモンスターの事かなって思ってここまで来たんです」
「それに俺達のレベルだとあの場所にもう一度行くのはキツいんだよ」
「あの時は適正レベルが分からずに挑んだから酷い目に遭ったもんね。もう一度行くにはレベルがちょっと」
成程、偶然高レベル帯のエリアに迷い込んで発見したという事か。
「情報感謝する。具体的な場所について教えて貰えないか?」
情報料を渡しながら詳しい場所について尋ねるとベイクード達は困ったように顔を見合わせた。
「それが、ちょっと説明しにくい場所で。もし俺達をそこまで連れて行ってくれるなら直接案内するよ」
「む? だがレベルが足りないのだろう?」
するとベイクード達はへへへといかにも何かを企んでいそうな笑みを浮かべながらその理由を語る。
「敵が強ければ経験値もガッポガッポと入るかなって」
「ああそういう」
つまり私にキャリーしてほしいという事だろう。
しかしどうしたものかな。
キャリー行為は確かに経験値を得る分には良いが、プレイヤーの経験という意味ではあまり良い事ではない。
試行錯誤して成長する機会を失う事になってしまうからだ。
「駄目ですかね?」
「うーむ」
少しの間考え、私は結論を出す。
「分かった、君達の護衛をしよう」
「ありがとうございます!!」
パッと明るい顔になるベイクード達。
キャリーは褒められた事ではないが、今回だけの事と割り切れば学びの機会は他にもあるだろう。
「では案内を頼む」
「任せてください!!」
◆
魔王国南部に行く前にモヒカンとレフリスに声をかけたが、彼等は彼等でやる事が出来たようで断られてしまった。
おそらくはクラスチェンジに関するクエストを進めているのだろう。
となると私だけで動くしかあるまい。
姫に未確定情報で肩透かしをさせる訳にもいかないので、私達で情報の真偽を確認し、アタリなら魔通輪で連絡すればいいだろう。
「こっちです」
ベイクード達に案内され私は湖のほとりを進む。
道中モンスターが出現して襲ってくるが、クラスチェンジしているおかげで私だけでもベイクード達の護衛は出来ていた。
「ちゃんと攻撃を当てるんだぞ。でないと経験値を貰えないからな」
「はいっ!!」
こうして戦ってみると壁役の私がキャリーをするのは成程理に適っている。
私が敵を惹きつけている間にベイクード達が攻撃を担当して倒す。
これで戦闘中の貢献度が上がり経験値が均等に分配される事になる。
「おおー、やっぱキャリーしてもらうと経験値がすげぇなぁ!」
「ありがたいねぇ」
「へへへ、ありがとうございます」
「気にするな、持ちつ持たれつだ。それよりも案内を頼むぞ」
「任せてくださいよ! 影を見たのは湖のもっと奥の方です!!」
私達はモンスターと闘いながら湖の奥へと進んでゆく。
正直そろそろポーション類が怪しくなってきたが、あのスキルのお陰でまだ持ちそうだ。
◆
「大分奥まで来たな」
「ですね」
気が付けば周囲にはうっすらと霧が漂っていた。
「霧が出てきたな。視界が悪くなると敵に襲われる危険も増す。気を付けろよ」
「そうですね、アンタみたいな目には遭いたくないからな!『カースブレード』!!」
「なっ!?」
突然背後から攻撃を受けて驚きの声を上げてしまう。
『状態:血の呪い』
「何のつもりだ!?」
攻撃してきたのはモンスター……ではなくベイクード達だった。
「へへへ、まんまと騙されたな」
「騙しただと!?」
「そうよ、ドラゴンを見たなんぞ大嘘も大嘘! 俺達ゃテメェをぶっ殺したくてここに誘い込んだのよ!!」
「私を誘い込んだ!? 何のために!?」
ベイクード達は私を狙っていると言ったが、正直何の理由で狙われたのか見当もつかない。
品行方正とは言わないにしても今日初めて会ったばかりの相手に恨まれる理由が思いつかない。
「ま、分かんねぇだろうな。お前みたいな運よく激レアイベントに参加できただけのラッキー野郎にはよ」
「?」
コイツ等が何を言っているのか全く意味が分からん。
「コイツマジで分かってないみたいよ。バカ過ぎ~」
「理由も言わずに人をバカ呼ばわりする方が品性に欠ける発言なのだが、それに気づかないのは哀れだな」
「何ですって!?」
「挑発に乗るな」
激昂して前に出ようとしマーチャをキャッサが止める。
「へっ、お姫様を口先三寸でだまくらかしただけあって口は達者だな」
「ああ、そういう事か」
姫の名前を出されてようやくベイクード達の言いたいことが理解できた。
彼等の言う激レアイベントとはマルシェラ姫のクエストに参加した事を言っているのだろう。
確かにマルシェラ姫のイベントは色々な意味で規格外だ。
リリース後初のレイドバトル、国家を巻き込んだ王位継承権争い、他種族の暮らす別大陸との国交回復イベントなど数え上げればキリがない。
更にマルシェラ姫の傍でクエストに参加していた我々はレベル上げ、新装備の開発など最前線にいる攻略組に匹敵するほどの恩恵を受けていたのだから。
それは確かに関われなかった者達としては嫉妬もしたくなるというものだろう。
が、それはそれだ。
「要は上手い話に乗り遅れて嫉妬心でだまし討ちをしたわけか。私がただのラッキー野郎ならお前達は見当違いの逆恨み野郎だな」
「手前ぇ、この状況で強がってんじゃねぇよ!」
「本当の事を言っただけだ。お前達と違って後から参加してきたギルドメンバー達は十分な恩恵にあずかっている。私達だけではない。なのになぜお前達は我等と共に戦わなかった? 答えは簡単だ。他人と一緒の事をするのが気に入らなくて逆張りで参加しなかっただけだろう?」
「「「っ!?」」」
図星か。やれやれ、そこでひねくれるなら最後までひねくれ通せば良いものを。
半端に格好をつけるからこんな見当ちがいな逆恨みをする事になるのだ。
「前々から我がギルドはやる気のあるものを募集している。今すぐ謝るなら参加を受け入れても良いぞ?」
勿論挑発だ。不意打ちを成功させて調子に乗っている連中が素直に言う事を聞く訳がない。
「強がってんじゃねぇぞ! お前の魂胆は分かってるんだ。そうやって俺達を迷わせようってハラだろ! だがな、ステータスをよく見てみな!お前のHPがとんでもない事になってるぜ!!」
「ステータス?」
ベイクード達に警戒をしつつステータスを見るとバッドステータスに『血の呪い』というものが付与されていた。
「俺のスキルカースブレードは当たった相手に『血の呪い』状態を付与する! この呪いにかかったヤツは毎ターンHPが下がっていき最後には0になるのさ!」
なるほど、だから血の呪いか。
「呪い状態のダメージは装備の防御力じゃカバーできねぇぜ! 俺達に倒されるのが先か、HPが尽きるのが先か! どっちだろうなぁ~!!」
ベイクード達が散開して私を囲む。
が、正直私は全く脅威を感じていなかった。
というのも私のHPは殆ど減っていなかったからだ。
いや、正しくはダメージを受ける端から回復しているというべきか。
『苦痛の中の慈悲:受けたダメージの30%が回復する』
魔騎士になった際に習得したこのスキル『苦痛の中の慈悲』によって毎ターンダメージが回復するからだ。
流石に全快ではないが何割かが回復するので継続ダメージの影響も少ない。
カグランタ王子ほどではないが、私も継戦能力が高くなっていたのである。
「だが、一番の問題はお前だ!!」
私は散開したうちの一人、マーチャに襲い掛かる。
「魔法使いが前衛も無しに包囲してどうする!!」
「キャアッ!!」
シールドタックルで思いっきり押し倒すとそのまま体重をかけて剣をマーチャの体に突き刺す。
「痛ぁぁぁぁいっ!!」
ILLは痛覚ダメージは減少させてある筈なんだがな。
「慌てるな! 集中攻撃だ!!」
マーチャを助けるべくベイクード達が私に攻撃を集中させる。
だがこちらは防御に定評のある騎士の上位職魔騎士。
スキルで防御力にバフを掛ければたった二人の攻撃程度を耐えるなど造作もない!!
私は背後からの攻撃を無視してマーチャを徹底的に攻撃する。
「キャァァァァッ!!」
「マーチャ!! くそっ、何で倒せねぇんだ!!」
「落ち着け! ダメージは蓄積している! やせ我慢だ!」
すまんな、まだ1割も削れていないんだ。
このあたりもっと彼等が冷静なら気付けただろうに。
やはりキャリーはプレイヤーの健全な成長を妨げてしまうか。
「あ、ああっ!!」
そうこうしている間にマーチャのHPが0になり死亡する。
こうなるとベイクード達に町まで連れて行ってもらって教会で回復するか、全滅してデスペナルティを受けるかの二択だ。
「そういえば私が生きている状態で全滅するとどうなるんだろう? わたしが生きているから復活しないのか、それとも不意打ちをしてきた瞬間から別パーティ扱いになるのか?」
「知るかよ!」
私の独り言に対しベイクードは自分への質問と思ったのか律義に返事を返してくる。
「さて、残りはお前達二人か。じゃあ……お前からだな」
私はキャッサに狙いを定めると最速で飛び掛かる。
「うぉぉっ! バックスライド!!」
回避スキルを使って慌てて真後ろにスライドするように回避するキャッサ。
ほう、そのようなスキルがあるのだな。興味深い。
「が、無駄だ。ストライドソード!!」
スキルの発動と共に私が繰り出した突きが不自然に伸びる。
「ぐわぁっ!!」
ストライドソード、突き系の戦闘スキルで効果は剣などの物理武器が一時的に伸びて射程を伸ばすという面白い効果だ。
一応はオーラの刃が伸びている設定らしい。
これに見事に引っかかったキャッサが大きなダメージをうける。
「騎士として射程の短さを言い訳にするわけにはいかないのでな」
このスキルはスキルレベルが延長距離に影響してくる。
最終的には上位スキルも習得して十数キロ先まで貫きたいものだ。
「さて、キャリーの欠点も理解できたことだろうし、そろそろお仕置きを終わらせようか」
情報がデタラメだった以上、コイツ等と関わっても得るものはないだろうからな。
「舐めるなよ! 俺達にはまだ他の奥の手……え?」
その時だった。突然周囲が暗くなったのだ。
まるで夕立が鳴り響く直前の空模様のような暗さ。
「な。なんだ!?」
一瞬ベイクード達の仕業かと思ったが、彼等の戸惑う様子を見る感じ違うようだ。
「ヴォォォォォォォ」
続いて横から聞こえてきたボーンとした轟音。
ベイクード達がその音に釣られて視線を向けた瞬間、彼らは全てを失うことになった。
「え?」」
ベイクード達の体が一瞬で半分になる。
「なっ!?」
直後、残った部分がようやく自分がどうなったのかを理解して血を吹き出し崩れ落ちる。
その惨状に驚きつつも影が通り過ぎた先を見ればそこには細長い巨大な蛇のような姿が見えた。
いや、胴体の当たりが膨らみ、四肢と思しきヒレが見える。
その姿はまるで巨大の地球で繁栄していた恐竜、いや海を支配していた巨大水棲爬虫類プレシオサウルスのような姿をしていた。
「恐竜!? いやまさかドラゴンか!?」
嘘から出た誠。本物のドラゴンが全てをかっさらっていったのだった。
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