第38話 とある服飾師のゲーム風景
◆レフリス◆
「よーし、それじゃあ素材集め頑張るぞー!!」
今日も私は町に出て露店で素材探しに勤しむ。
NPCのお店って偶に掘り出し物があるんだよね。
まだ解放されていないエリアの素材とかランダムで売ってたりするんだよ。
あ、私はレフリス、という名前でILLをやっているプレイヤーです。
ちゃんと中身は本物の女の子だよ!
こういうゲームだと見た目は可愛い女の子でも実は男の人って多いからね。
特にILLはボイスもエディットで調整できるから本人がお漏らししない限り全然わかんないんだよ。
「でもマルスくんちゃんはNPCだから本物の女の子キャラだけどね」
データの存在に本物も偽物もあるのかは別として。
「はぁ~、今度はどんな格好をマルスくんちゃんにさせようかな」
マルスくんちゃんとの出会いは私にとって運命だった。
ウチの会社はトップデザイナーの人達は本当に凄いんだけど、その下では年功序列やゴマすりの上手さで仕事の割り振りが決まる悪習が横行していて、私みたいな世渡りの下手な下っ端にはとても厳しい世界だったんだ。
それに対する不満を書いたら本一冊分の業界の闇が書けちゃうから割愛するとして、そんな諸々の不満を解消するためにILLを始めたんだけど……
「ゲームはゲームでお金の問題が付きまとったんだよねぇ」
生産職は戦闘職じゃないからある程度育つまで金策が大変だったのだ。
レア素材を使った装備なんてもってのほか。
その問題を解決する手っ取り早い方法はどこかのパーティに所属して兼業で装備を作る事……なんだけど私は自分のこだわりの所為でどうしてもクオリティを高くせずにはいられないせいでどこのパーティにも所属できなかった。
だってアレだよ。下手な物作ったらゲーム内に駄作のデータが残っちゃうんだもん!
そんなのデジタルタトゥーだよ!!
「これじゃリアルと変わらないよぉー!」
そんな鬱屈とした日々を送っていた私に変化が起きた。
「ほう、悪くないクオリティじゃな」
絵にかいたような美少年ショタが現れたのだ。
その美少年ショタことマルスくんちゃんは私の作ったお高い装備を即決で買ってくれた。
あまりにも都合が良すぎて自分でも信じられなかったくらいだ。
向こうから話しかけて来たこともあって最初はマルスくんちゃんの事を同じプレイヤーなのかと思ったけど、あんな大金を即決で払うなんて当時のプレイヤーのお財布事情じゃありえない。
ディスティニースロットでギャンブルをして貴族になったプレイヤーもいたらしいけど、だとしてもクオリティ優先の装備に金を使う余裕なんてあの頃は皆無かった筈だ。
更に次も高クオリティ装備を作ってくれと言われた事で、私はマルスくんちゃんが特別なクエストのNPCだと確信した。
「多分高クオリティ装備を自作して売ると現れる貴族NPCそれもイベントが複数続くチェーンクエストのキャラ!!」
事実マルスくんちゃんに関わるようになって私は様々なクエストに遭遇する事になった。
「正体がお姫様だったことには驚いたけど、そう考えるとまるで人間みたいに会話が出来るのも納得だよね。きっと重要キャラだからプレイヤーが単調な会話で冷めないように高性能な人工知能を採用したんだろうね」
このゲーム、適当なNPCは反応が雑だったりするからなぁ。
定期的にアップデートしてるいるらしいんだけど。
「今じゃアイドルになってリアルでも大人気だし、運営もマルスくんちゃんの開発に相当予算を使ったんだろうなぁ」
マルスくんちゃんの可愛さは私の会社でも評判で、彼女をモデルにした服をデザインしたいと皆言っているくらいだ。
その分あの子のデザインをする私へのやっかみも凄いけど、そんな嫌味も私は心の中で「ふふん! 私があの子の専属デザイナーなんだぞ!」という優越感をこっそり自慢する事で平静を保ち黙っていた。
もしバレたら嫉妬されて大変な事になるからね。
ゴマすり社員の中には私と同じくILLをプレイしているプレイヤーがいるみたいだけど、彼女が売れ行きが良いと自慢していた装備のスクショ画像を横目で見たけど、いかにも予算に妥協しているのが見え見えのデザインだった。
あれじゃあクオリティも低いだろうしマルスくんちゃんも見向きもしなかっただろうなぁ。
きっとあの子は運営が用意した生産職の救済キャラだったんじゃないかと思う。
「攻略だけがこのゲームの楽しみ方じゃないって伝える為の」
そして今、私は上級職へのクラスチェンジイベントにたどり着いた。
「きっと生産職で上級職イベントにたどり着いたのは私が初めてなんじゃないかな!」
問題はまだ上級職になる為の方法が分からないんだけどね!!
「でもヒメキさんはマルスくんちゃんから魔騎士にクラスチェンジさせて貰ったし、多分私もマルスくんちゃんが満足する装備を作ればクラスチェンジできる筈!!」
マルスくんちゃんのイベントに深くかかわったプレイヤーは彼女を軸にしてクラスチェンジできるようにシナリオが進んでいるんだと思う、思うんだけど……
「モヒカンさんはどうやってクラスチェンジするんだろう?」
正直あの人だけは予想が出来ない。だって一人だけ世界観が違うんだもん。
そんな事を考えていると、いつもの露天商どおりに到着する。
「おじさーん、何か珍しい素材はない?」
「おお、いつものお嬢ちゃんか、今日も良い品が入ってるぜ」
この露天のおじさんはNPCだけど、頻繁に通っていたら私の事を常連と認識するようになった。
「それまではおんなじセリフしか喋らなかったのにねー」
「今日も高い奴を沢山買っていってくれよな」
露店の前にしゃがみ込むと今日の売り物をチェックする。
「この辺りはいつも通りかー。目新しいのは……とくにいらない奴かな」
ランダムだけにいつも出物がある訳じゃないのが残念だ。
「今日はいいや。欲しい物ないし」
「そりゃ残念だ」
いつもの取引切り上げの会話……が今日は違った。
「ところでこんなモノを仕入れたんだが、興味あるかい?」
「え?」
おじさんが袋の中からキラキラと輝く素材を取りだす。
「何で商品に並べてなかったの?」
「この通りいかにもな感じでキラキラしてるからな。不用心に並べてたら盗まれちまう」
成程、私から見てもあからさまにレアっぽいエフェクトが出ているしね。
「悪いが常連の嬢ちゃんでも手に取るのは勘弁してくれ。買うか買わないかだ」
警戒心バリバリでおじさんは鑑定を拒否してくる。
後略wikiだとこういう取引って詐欺が多いらしいんだけど……
「いくら?」
知り合いの露店な事と上級職へのクラスチェンジイベントの最中だという事実が私の背中を押した。
「金貨15000枚だ」
「たっか!」
あまりの金額に目玉が飛び出そうになる。
「割引交渉無しだ。どうする?」
「~~~っ! 買った!」
「毎度!」
かなりの出費を強いられつつも私は手に入れたアイテムを確認する。
『宮廷への糸:クラスチェンジアイテム:遥かな高みを目指す糸の繰り手は迷宮をさ迷う英雄のごとく細い糸を手繰って出口を目指す。出口の先には更に険しい迷宮が広がっている事を覚悟しながら』
「来たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
まさかのクラスチェンジアイテム!! やっぱりマルスくんちゃんのイベントだったんだ!!
さっそく使うコマンドを選択する……が、
『必要なアイテムが足りません』
「え?」
必要なアイテム? これだけじゃクラスチェンジできないの!?
糸の他に必要なアイテムと言うと……針?
私は通りの露店を手当たり次第に探して回る。
「おっ、いらっしゃい嬢ちゃん。今日は何を買っていってくれるんだ?」
「珍しいもの!!」
その結果見つかったのは……
『宮廷へのハサミ:クラスチェンジアイテム:遥かな高みを目指す裁断の手は果断な意志をもって生地に刃を入れる。僅かな手の震えが全てを台無しにするとしても、その手を止める事は許されない』
『宮廷への型紙:クラスチェンジアイテム:遥かな高みを目指す創造の絵図。理想を形にする為の地図は、しかし書き手の理想が未熟であれば明後日の方向に迷走するだろう』
二つのアイテムが手に入った。けれど明らかに足りない。
「ここまで揃って針がないのはありえないよね」
実際にこれらのアイテムを使おうとしてもまだ足りないと表示される。
「でも露天のお店は全部巡ったし、どこに行けばいいんだろう? ……もしかしてもう誰かが買った後!?」
いや、マルスくんちゃんのイベントだからそれはありえない筈。でもILLは変なところでリアルだから、掘り出し物が他の常連プレイヤーの手に渡っている可能性も否定できない。
その時はどうしよう? ころしてでもうばいとる?」
いや、まだそうと決まったわけじゃない。
「とにかく他のお店も探してみよう!」
品ぞろえの種類が違うけど他の通りにも露天はあるし、普通のお店もある。
私は町中を歩き回ってクラスチェンジアイテムを探し回った……んだけど、
「どこにもないぃ……」
これだけ探してないとなると、もしかしてこの町にはない!?
王都か鉱山街、はたまたまだ解放されていない町?
「もしかして国交回復クエストに絡めて外国とか!?」
そうなったらもうどこにあるか分かんないよ!!
いくら何でもめぼしも付けられないって事は無い筈!!
「とにかくもう一度探してみよう!!」
私はもう一度町中を探しまわった。
けれどやはりどこを探してもアイテムは見つからない。
結局、明日の仕事に障るからと今日は諦める事になってしまった。
「もしかしたら時間経過でイベントが進むかもしれないし、明日また探しに行こう」
私はログアウトの為にマルスくんちゃんの屋敷の自分の工房に戻ってくる。
ここは工房兼私の部屋になっているから、奥の部屋にベッドがあるんだよね。
「ん?」
と、その時だった。工房の壁がキラリと光った気がした。
「なんだろ?」
壁には何もなく、一見して光る要素はない。
「釘でも刺さってるのかな?」
壁に近づいていくと何もない。
けれど角度を変えてみると再びキラリと光が反射する。
「壁の奥に何かある?」
この光が気になった私は隙間を広げようと工具を引っかける。
すると思った以上に簡単に壁の隙間が動いた。
「あれ!? このパーツ固定されていない!?」
もしかしてこの壁、隠し部屋か何か!?
ある程度開いて隙間が出来たところで私は手を突っ込んで力を入れて引っ張る。
すると隙間が完全に開き中に小さな空間が現れた。
「これってもしかして隠し金庫!?」
ファンタジーの定番の隠し場所だ!
そこには小さな箱と共に何かのメモ書きが見つかった。
『力を求めるカグランタ王子の要求は日に日に厳しくなってくる。これ以上の品を探すには私も覚醒して力の底上げをしないといけない。だがようやく見つけたこのアイテムだけでは進化できない事が分かった。一体どこに残りのアイテムがあるのか……』
「これってもしかして!!」
私は震える手で小箱を開ける。その中には……
『宮廷への針:クラスチェンジアイテム:遥かな高みを目指す紡ぎ手は無数の布片を紡いで天上へと至る芸術を生み出すだろう。だが心せよ、心無き翼が天に至る前に解け散るのだから』
「きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
見つけた最後の針!! 最後だよね!?
私は震える手で針全てのアイテムを選択する、すると……
『宮廷服飾師道具を揃えました。特殊クラスチェンジが始まります』
「特殊クラスチェンジ!? わわわっ!?」
まるで魔法少女の変身シーみたいに体が不思議な光に包まれていく。
「わぷっ!?」
そして光が私の顔まで包みこんだときエフェクトが消滅した。
『クラスチェンジ完了。ドレッシーデイムに進化しました』
「ドレッシーデイム!?」
『ドレッシーデイムに進化したことで『お抱え服飾師』『デザイナー』を習得しました』
「固有スキルだ!!」
一体どんなスキルなんだろう!
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
お抱え服飾師:一定期間行動を共にした所属ギルドおよびパーティメンバーの装備品を作る際に成功率、性能が15%UP。
デザイナー:新規デザインの装備を作る際、ごく稀にランダムな能力が付与される。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「おおーっ!! 凄いのきたーっ!!」
仲間の装備性能を上げるスキルと低確立だけどランダム能力付与は凄いよ!!
「毎回新デザインじゃないといけないけど、むしろ私にとってはいつもの事だからデメリットになってないね!」
毎日仕事でもプライベートでもデザイン描いてるのは伊達じゃないんだぞー!!
「でもまさかこんなところに最後のクラスチェンジアイテムがあったなんて驚いたなぁ」
しかも自分の部屋の壁に隠し金庫なんて……って、あれ? ちょっと待って。
「手紙の内容、これもしかして工房の隠し金庫に気付いてから町に残りのアイテムを探しに行く流れだった!?」
だってそうだよね。針に関しては全然情報が無かったのに、針には他のアイテムを示唆する手紙がセットになってたんだから。
「じゃあ、今日一日探していたのは時間の無駄だったってわけぇーーーーっ!?」
ようやくクラスチェンジできた私だったけれど、たった一つのボタンの掛け違いでこんな遠回りをする羽目になってしまった事に思わず脱力してしまったのだった……
面白い、もっと読みたいと思ってくださった方は、感想や評価、またはブクマなどをしてくださるととても喜びます。




