第33話 マルシェラ領始動!!
「ここがわらわの領地か」
王都から馬車に乗る事ゲーム時間で3日間、俺は第三王子カグランタの領都にやってきた。
「うわー、すっごい壁だね!」
レフリスの言う通りカグランタ王子の領都は大きな壁に覆われていた。
まるで戦争でもするのかというレベルで頑丈そうな壁だ。
「鉱山街にも防衛用の壁はあったが、あれの比ではないな。魔物相手だとしても少し過剰ではないか?」
「そりゃいざという時は他の王子と王位継承権を奪い合って争うんだ。守りは固めておくだろうよ」
ヒメキの疑問に対し、モヒカンは身内同士の争いで必要なんだろうと吐き捨てる。
そして領都の入り口である巨大な門に近づくとそこには何十人もの騎士達が整列して待っていた。
「新たな領主マルシェラ姫様に敬礼!!」
号令に従い一糸乱れぬ動きで敬礼のポーズをとる騎士達。
正直凄いが同時に気恥ずかしい。
わざわざ俺なんかの為にこんなことしなくていいっての。
「おおー、歓迎されてるねぇマルスくんちゃん」
「どうかな。ここは第三王子のお膝元だぜ。権力を失ったとはいえ、主から全てを奪ったお嬢を恨んでいる奴はいるだろうよ」
「怖いことを言うでない」
とはいえ、モヒカンの言う通りだ。
一から育てていく領地と違い、元敵の治めていた領地とかトラブルの予感しかしない。
仮にカグランタ王子が悪政を敷いていて民が俺を歓迎してくれたとしても、それはそれで裏で甘い汁を吸っていた連中には逆恨みされるだろうしなぁ。
内心で戦々恐々としつつ騎士達の間を通って町の中に入ると……
「「「「マルシェラ姫ばんざーいっ!!」」」」
市民からの猛烈な歓迎を受けた。
「めっちゃ歓迎されておるのう」
「めっちゃ歓迎されてるねぇ」
「これで全員演技してるとしたら滅茶苦茶怖ぇな」
「市民全てから襲われるとかそれはもうホラーゲームだろう」
多分生物災害系ゲームのゾンビなんだわそれ。
「お嬢、手を振ってやれよ」
「はぁ!? なんでわらわが!?」
「姫を歓迎しているのですから、上に立つものとして愛想を良くしても罰は当たらないと思いますよ」
「そうそう!」
「お主等、人事だと思って」
「人事だしな」
「人事ですから」
「人事だもーん」
コ、コイツ等……
「はぁ、しかたあるまい」
面白がられてるのは間違いないが、確かに新しくやって来た新領主の愛想が悪かったら民は不安になるだろうな。
俺は不本意極まりないがアイドル活動で鍛えた笑顔を浮かべて市民に手を振る。
「「「「きゃ―――――――っ!! 姫様―――――っ!!」」」」
市民の反応が更にヒートアップする。なんか怖いんですけど。
「うぉぉーっ! 歌姫様が俺に手を振ってくれた!」
「馬鹿野郎! 俺に決まってるだろう!」
なんか変な幻聴が聞こえて来た。
「あー、これアレか。お嬢のコンサートにハマッた連中が混じってんな」
やめろ、気付かないフリしてたのに。
「くくく、やはりこの町に引っ越してきて正解でしたな!」
「ええ、その通りですな! 今後はこの町が姫様のコンサート最前線となるでしょう!!」
おい! そこのお前等プレイヤーだろ絶対!!
「くくく、カグランタ領の不動産価値は爆上がりよ! これを見越して即この町の空き家を買いまくって大・正・解!! 歌姫バブル万歳っ!!」
……身内がインサイダー取引してるんだけど、どこに通報すればいいですかね?
もはやパレードの様相を呈した街中を抜けると、漸く領主の館に到着する。
そして敷地の中に入ると、先ほどと同じように今度は使用人達が中庭にずらりと並び、屋敷の入り口まで道を作っていた。
「「「「ようこそおいでくださいました新たな領主様」」」」
躾が行き届き過ぎてて怖ーい。こちとら中身は平民なんだよ。
館の手前に到着して馬車を降りると、入り口の前に立っていた執事っぽい老人が一礼をしてくる。
「ようこそおいでくださいましたマルシェラ姫様。わたくしこの屋敷の執務全般を担当する家令のセバスティアンと申します」
「家令?」
「執事達のトップ、王宮における宰相のような存在という事です」
こっそりヒメキが教えてくれた。成る程、使用人のリーダーって訳か。
「うむ、マルシェラじゃ。皆よろしく頼むぞ」
「ははーっ、それでは屋敷をご案内いたします」
俺達はセバスティアンに案内され領主の館をグルリと見て回る。
「こうしてみると使用人のエリアが大きいのじゃな」
「屋敷が大きくなるとどうしても働く人間の数が増えますから。宿舎と労働スペースが広くなります」
「成る程、道理じゃな」
つまりここは社員寮ありの会社って事か。徒歩0秒で会社に到着!! うん、切ないので現実に変換するのは止めよう、
「こちらは騎士の方など上級の家臣のエリアです。護衛の騎士殿にはこちらの部屋を用意いたします」
「感謝します」
「そちらの女性は……生産職の方ですか」
「はい! 専属職人です!」
「では作業音などありますから、敷地内の工房に近い部屋をご用意しましょう」
「工房があるんですか!?」
「領主様が身に付ける特注品を作る為の専用工房です」
おおー、流石第三王子の館だけあって設備が豊富だなぁ。
「そしてそちらの珍妙な格好の方は……この方も騎士なのですか?」
これまで粛々と対応していたセバスティアンだったが、モヒカンの世紀末ファッションだけはどう対応して良いのか分からず困っているみたいだ。
「はっ、俺は騎士なんてお上品なもんじゃねぇよ! 単に金で雇われた傭兵さ!」
「こう見えて結構な知恵者じゃ。見た目はイカれておるが頼りにしておる」
「へっ、イカれているたぁ随分と持ち上げてくれるじゃねぇの!」
それ、褒めてる判定になるんだ。
真面目な有能ムーブが多いから忘れてたけどやっぱこいつもおかしいわ。
うん、普通の人はファンタジーゲームでチンピラモヒカンヒャッハーなんてしないよね。
……何でお前このゲーム選んだの?
「承知しました、では屋敷の手ごろな部屋を……」
「いや、俺は街中の適当な宿で暮らすから気にしないでくれ」
「ですが領主様の重鎮にたいし……」
「あー、構わん構わん。それがこやつのスタイルなのじゃ。代わりに領主の館には顔パスで入れる権利と宿代を立て替えてやれ」
「はっ、領主様がそうおっしゃるのでしたら」
「おお、宿代タダとはありがたいねぇ!」
「では最後に領主様の執務室にご案内いたします」
最後に案内された執務室は、無駄に豪勢な部屋だった。
「これは酷いのじゃ」
「ヒューッ! 絵に描いたような成金の部屋だぜ!
いやホント酷い。
あの頭の中武力全振りみたいな見た目で部屋はこんなギラギラとかキャラ造形おかしいだろ。
「目がチカチカするよぉ」
「ここで執務を行うのですか姫?」
「出来るか! あとで不要な品を仕分けて適当に売るのじゃ!」
「姫様! その際はわたくしめにお任せを!!」
うわ出たガメッツ。そういやさっきから声聞こえてきてたわ。
「品物のチェックは任せるのじゃ。ただ何かありそうなものは一旦分けておいて後で報告して欲しいのじゃ」
「畏まりました! すぐに鑑定作業に入ります!!」
よし、これですこしはこの部屋もすっきりするだろう。
「しかし領主の仕事と言っても何をすれば良いのか見当もつかんのう」
自分の体には大きいな領主の椅子にドカッと座って引き出しの中に領主の仕事に関する書類でもないか漁ろうしたその時だった。
ブンッという音と共に目の前に現れるステータス画面のような映像が現れた。
「おおっ!?」
マルシェラ領
領地育成段階:13
市民感情:やや悪い
開拓率:45%
軍備:65%
税率:35%
収益:500000モール
公共施設の維持費:245000モール
修理が必要な設備の数:45
領地予算:31459234モール
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「これは領主コマンドか!?」
他にも建築コマンドや開拓コマンドなどがあり、色々な事が出来そうに見える。
「成る程、これで色々な命令をするのじゃな」
ただ現状だとこの数字がどうなのか分からんな。
そして燦然と輝く市民感情『やや悪い』
やっぱ俺が領主になった事に不満を持っているのか!?
あんなに歓迎してくれてたのもフリをしていただけって事!?
うおお、人間不信になりそう!!
なんとかしてこの部分を『良い』にしないとっ!!
「のうセバスティアン。市民の感情をよくするにはどうすれば良いと思う?」
とりあえずこの町に昔からいるセバスティアンに改善して欲しいところは無いか聞いてみる。
「そうですな。まずは食事と酒をふるまってはいかがかと」
「食事と酒?」
「はい。領内で大きな祝い事があった時は料理や酒をふるまう事が多いです。特に今回は新しい領主様の着任という大きな出来事が起きましたから、領民にこれは良い事だと印象付ける為に振舞った方がよろしいかと」
「成る程なのじゃ、ではセバスティアン、お主の裁量で民に食事を振舞ってくれ」
「ははっ!」
そして料理が振舞われたという報告を受けてから改めて市民感情をチェックすると『やや悪い』から中立へと変化していた。
おお、振る舞い酒様々だな!
出来れば市民感情を『良い』寄りにしたいからもう一手欲しいな。
「のうバットン。税率35%というのは高いのか安いのかどっちなんじゃ?」
現実だと棒税金10%でも高くなったなって感じたし、更にいろんな事に税金がかかっていると聞く。
ただゲーム内の税がどういう計算で成り立ってるのか分からないからバットンに聞くのが一番だろうな。
リアルな中世近代の税率なのか、ファンタジー特有の税率でおかしくないのか。
「35%はありえないット! それはもはや搾取と言っていいレベルだット」
めっちゃドン引きされた。
そっかー、ゲーム世界の住人から見ても高いのか。
「では一般的な税率はどのくらいなのじゃ?」
「土地の事情もあるから一概には言えないけれど、王都で確認できた情報なら15%もあれば維持できるット」
15%!? 半分以下じゃん!
「開発を考えて余裕を持たせるとしたらどうじゃ?」
「うーん、それでも20~25くらいだット」
開発予算を考えてもかなり下がるな。
うん、この部屋があんなにギラギラだった理由が分かった気がする。
「よし、それでは20%まで税率を下げるのじゃ」
俺の指示を受けて使用人達が町に報告に向かってゆき、少ししてから領主コマンドを再確認するとそこには……
市民感情『非常に良い』
めっちゃ劇的に良くなっていた。
「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」
そして彼方から聞こえてくる雄叫びのような歓声。
皆そんなに重税にあえいでいたのか……
「税率を大幅に下げた事で一時的に税収が下がりますが、この町が暮らしやすくなったという噂が広がれば他の領地から移住者がやってくるかもしれません」
「移住者などいるのか?」
「はい、領地の繁栄度合い、重税、魔物の脅威、盗賊、食糧不足、そして領主の横暴などその土地で暮らすことが困難になると領民は命懸けで他の領地へと逃げ出す事があります。領主様もご注意を」
おおう、迂闊な経営をすると領民が減って収入が悪化するのか。おっかねぇなぁ。
「じゃがわらわは政治などろくに分からんぞ。どうすれば良いのじゃ?」
そもそもゲームを楽しむためにログインしてる訳だし、領地経営ゲームになるとそれはそれで面白そうだが俺のやりたい事とズレてしまう。
最近アイドルやったりしてその傾向が強くなってるしなぁ。
「ご安心を。文官や騎士団に政務や防衛を担わせれば良いのです。領主が全てを行う必要はありません。勿論領主様が手ずから運営をしてもかまいません」
おお、NPCに運営を一任できるんだな。そりゃありがたい。
経営ゲームがしたいときは領主の仕事を主導で行って、それが面倒なプレイヤーはNPCに任せればよいと。
そうなると優秀なNPCを雇いたいところだな。
「ではセバスティアン、優秀な者に領地の運営を頼みたい」
「かしこまりました。丁度カグランタ王子に遠ざけらえていた者達が暇をしておりますので、その者達に任せましょう」
「兄上に? もしかして窓際に追いやられておったのか?」
「はい、真面目な者達でしたので」
あー、都合の悪い連中を追い出して好き勝手やってたのか。
そりゃ領民の感情も悪くなるよね。
「ただお気を付けください。家臣達も人間です。酷使したり待遇が悪ければ他の貴族に引き抜かれてしまいます」
「うむ、気を付けるのじゃ。待遇と給金についてもお主に一任するのじゃ」
「はっ、お任せください」
今の話、一見経営ゲームの引き抜きイベントへの注意って感じだったけけど、本来は俺や他のプレイヤーが窓際に追いやられたNPCを引き抜きして領地を反映させるシステムなんだろうな。
今回はカグランタ王子の領地を丸ごとゲットしたからヘッドハンティングの手間が省けた訳だけど。
『経営のカリスマを習得可能になりました』
経営のカリスマLv1:消費魔魔力無し:領地、商店を運営する際に家臣、従業員のステータスが5%上昇する。好感度が上がりやすく下がりにくくなる。
おお! いい感じのスキルが生えた!
が、必要経験値が1000!? 今までで一番高いぞ!?
「それだけ領地経営があとから解放されるコンテンツじゃったという事か」
だがNPCに経営を丸投げするなら覚えておいて損はない。俺は経営のカリスマスキルを習得する。
「ついでにレベルも上げておくか」
経営のカリスマを5Lvまで上げ国交回復イベントで得た経験値がガッツリ減る。
「よし、これなら領地運営もなんとかなるじゃろう」
ありがとうカグランタ王子。アンタの圧政のお陰で俺は良い領主としてスタートできそうだよ。
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