第29話 国交回復は帰るまでが国交回復です
「ようやく帰れるのじゃ」
調印式も無事終わり、コンサートも襲撃されたもののなんとか歌いきることが出来た。
後は船に必要な物資を積み込めば出港という状況だ。
その間に俺は各国の親善大使達と別れの挨拶を交わす。
「マルシェラ姫、次はぜひ我が国でコンサートを行ってください」
「大事な会議を終えて最後に言う言葉がそれでいいのか?」
「それ以外に何か必要な事がありますか?」
もう人族の国は終わりだよ。
「今回は舌戦ばかりで退屈だったが、我が国に来たらぜひ腕試しの大会に参加するがいい!」
「あー、そのうち行かせてもらうとする」
獣族は血の気が多いなぁ。
でも腕試しの大会か、なかなか面白そうなイベントしてるんだな。
「よそ者に荒らされたくないから用事があっても儂らの国には来るなよ」
分かっていたけどビックリするくらい閉鎖的だな妖精は。
「そのうち観光に行ってやるから美味い料理でも用意して待っておれ」
でもま、ゲームである以上妖精の大陸でも何かしらイベントがあるだろうから行く事になるだろうな。
「ドラゴンの使者様、ぜひ我が国に遊びに来て欲しい。我等は貴方を歓迎する」
「近いうちに遊びに行くのじゃ」
「船を修理してくれた事も凄く感謝しています。この礼は必ずさせて貰う」
「あまり気にせんでいいぞ」
この中で一番普通に歓迎してくれたのが鱗族というのが皮肉だよなぁ。
今回の件でバットンに過去の歴史をいくつか教えて貰ったけど、魔族と鱗族の間には人族と獣族の確執並の因縁があったんだよな。
今回の会議じゃその辺でトラブルが起きると思っていたんだが、アースドラゴンの魔王核のお陰で一番平穏に乗り切れたのは予想外だった。
まぁこの辺りの因縁については鱗族の大陸に行ったときに何かしらクエストが発生するだろう。
このゲーム、歴史を調べるとそこら中に火種があるんだよな。
一通り挨拶を終えたところで荷物の積み込みも終わり、俺達は出港する為に船に乗り込む。
「皆さま、お疲れ様でした」
船着き場では島の管理人である守り人達が見送りにやってきてくれた。
「お主達にも世話になったのじゃ。感謝するのじゃ」
守り人達に見送られ、俺達は各々の国に向けて出港する。
なんか人間の国の船の甲板で変な連中が光ってる気がするが俺は何も見なかった。
◆
帰りの船旅はとても平和だった。
魔物の襲撃こそあるものの、調印式前の暗殺者の襲撃連発や、コンサートを妨害に来た反対派の襲撃のような大規模な攻撃も起きない。
「もうイベントは終わりなのかねぇ」
「いや、帰りに油断した時こそなにか起こるんじゃね?」
退屈を持て余しだらけるプレイヤーをまだ何かあるかもと警戒するプレイヤーが窘めている。
「さて、反対派は襲ってくるかどうか」
「どうだろうねぇ、コンサートで一度襲われてるし」
「だが帰り道に襲ってくる可能性は十分あるだろうな。」
俺のつぶやきにレフリス達がそれぞれの見解を述べる。
「来るとしても海の上なら大規模な戦力にはならないだろう。我々を数で圧倒しようと思ったら相応の数か大きさの船を出さないといけない。この状況でそれだけの大船団を出せば、国に反対派が動いていると教えるようなものだからな」
となると敵は小規模精鋭で襲ってくるか、もしくは……
「陸に戻ってから襲ってくるかもな」
どちらであっても襲ってくるだろうというのがモヒカンとヒメキの予想みたいだ。
まぁ俺も同じ予想だけど。
問題は何時くるか分からないからなかなか緊張を保てない事か……
ドカァァァァァァァン!!
「ってなんじゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「反対派の敵襲だぁぁぁぁぁっ!!」
噂をすれば影ってか。
だが周囲を見回しても反対派の船の姿はない。
「船が無い? では身内か!?」
プレイヤーは基本俺の家臣だから味方だ。勿論裏切者が居る可能性もあるが、転移装置を使えるメリットを考えれば裏切るとは思えない。
となると護衛の騎士達の中に居たのか?
船内から顔を隠した襲撃者達が飛び出してくる。
「みな迎撃じゃ!!」
「「「「おおーーーーっ!!」」」」
襲ってきた暗殺者達との戦いが始まる。
ただし船内から甲板に出る出入り口は狭い為、出てくる暗殺者の数に比べて甲板のプレイヤーの数の方が多くて完全にリンチ状態だ。
「ははっ、楽勝じゃん!」
「ハメ技みたいになってんな」
バァン! バァン!
だがプレイヤー達が余裕のセリフをかました直後、船が揺れる。
「ヤバいぞ、アイツ等中で破壊工作してやがる!」
「はぁっ!? 船が沈んだら自分も死ぬだろ!」
「NPCの考える事なんて分からねぇよ!」
「言い争ってる場合か! 船内に突入して破壊活動を止めるぞ!」
プレイヤー達が慌てて船内に入ろうとするも、今度は自分達が少数で中に入らないといけない為、戦闘のプレイヤーが船内で待ち構えている暗殺者達から一斉攻撃を受けてなかなか奥に進めない。
「俺に変われ! 突貫する!『ドリルランサー』!!」
槍の先端をドリルのように回転させながら自分自身も弾丸のような速度で中に飛び込んでいくプレイヤー。
その凄まじい突貫力に耐えきれず道を譲ってしまった暗殺者達が壁に叩きつけられる。
「いまだ! 突撃系のスキル持ちは突っ込め!」
「「「「おうっ!!」」」」
攻撃をしながら高速で突っ込む突撃系スキルを持つプレイヤー達が我先にと船内に突入し、他のプレイヤー達の道を切り開く。
「よし、俺達も行くぞ!」
「マルスくんちゃんは安全な甲板で護衛の人達と一緒に待ってて!」
「馬鹿を言うでない! 船が破壊されたら安全も減ったくれもないのじゃ! 急ぎ敵の破壊活動を止めるのが最も安全な選択じゃ!」
俺がイベントNPCと勘違いしているレフリスは安全な場所でじっとしていて欲しいんだろうが、俺としてはコンサートで戦えなかった分の経験値を稼ぎたい。
それに船の破壊阻止もある。
「なにより、誰が敵か分からん状況ではお主等と共にいた方が安全じゃ」
「それもそうだな。お嬢は俺達と一緒にいた方が安全だろ」
同行を認めて貰った事で俺達は船内に入ってゆくと、内部は既に乱戦状態となっていた。
「回復頼む!」
「もっと集まらないとMPが勿体ないだろ!」
「狭い船内で集まれるか!」
船内への突貫でダメージを喰らい過ぎたプレイヤー達が回復を求めるが、通路が狭くて回復役が纏めて回復できずにMP消費で悲鳴を上げる。
「こりゃマジで動きづらいな。下手に先行したら敵に袋叩きにされるぞ」
「ならわらわが敵の動きを止める!『ウォーターバック』!!」
水のノックバック魔法で暗殺者達の行動を纏めて阻止する。
「今のうちに回復するのじゃ!」
「助かる!!」
船内が狭いから範囲ノックバック魔法が輝くな。
俺は前に進みつつ、乱戦になっている場所でウォーターバックを唱えてプレイヤー達の援護をしてまわる。
「しかし数が多いな。明らかに護衛としてついてきた騎士の数より多いぞ」
モヒカンの言う通りだ。護衛の騎士達は船のサイズもあってそこまで大量には乗っていない。
数隻の船団で異動しているから総数は多いが他の船に乗っているプレイヤーも応戦してくれているから他の船から乗り込んできている感じじゃない。
「それだけではありません。会場の小島で襲ってきた数も合わせるととっくにマイナスになっている筈です」
「あとさ、暗殺者の格好なのもおかしくない?」
とレフリスが暗殺者達の格好についても疑問を呈する。
「それはどういう意味じゃ?」
「私達を阻止したいなら全力で戦う為にも騎士の装備の方が強いと思うんだよね。なのに暗殺者装備で襲ってきてる。これってもしかして、護衛の騎士達じゃないんじゃないかな?」
ゲームとして考えたら護衛の騎士が裏切ったとかでもおかしくないが、リアルさを重視するILLだと皆の疑問はきっと正しいと思う。
「何か大量の敵が現れるからくりがあるという事か!」
「こういうパターンだとよくあるのは雑魚が無限湧きするゲートなり転移アイテムがあるとかだろうな。問題はどこにあるのかだが……」
「そんなもの考えるまでも無かろう。こういう時に最重要なアイテムがある場所は二つ。一つは船長室、もう一つは船倉じゃ!」
「だな! お嬢はどっちだと思う?」
「ボスと大立ち回りするなら船倉じゃろう!」
「そういう事なら俺達が船長室に行くぜ!」
と、話を聞いていたパーティが船長室を担当すると言ってきた。
「正直手が足りんから助かる」
「どっちがボスでも恨みっこなしだぜ!」
「うむ!」
目的地を定めた俺達は船倉に向かって駆けだす。
「お前等聞いてたか! 俺達もボス部屋に急ぐぞ!」
「追い越されるな!」
他のプレイヤー達も船長室と船倉へ向かって駆けだしてゆく。
そして暗殺者を蹴散らしながら船倉にやってくると、そこには大きな彫像から次々と現れる暗殺者達の姿があった。
「こっちが当たりじゃったか」
俺達の姿を確認した暗殺者達が迎撃態勢を整える。
「戦うぞ皆の衆!!」
「「「「おうっ!!」」」」
全員が一斉に暗殺者達に魔法やスキルを叩き込む。
ドガァ!! バキンッ! ザァァァァァァッ!!
「って船底に穴がぁぁぁぁっ!! 塞げ塞げーー!」
あまりにも勢いよく攻撃したせいで外れた攻撃が船を傷つけてしまった。
「船を破壊するような攻撃は禁止じゃ! 自滅するぞ!!」
「生産職は穴を塞げ! 手の空いてる奴は生産職を守れ!」
船倉での戦いは厄介な事になっていた。
敵の数が多くまとめて倒したくとも強い攻撃をしたら船底に穴が開いてしまう。
そうなると生産職に修理して盛らないといけないが放っておくと生産職が背中から着られるため護衛も必要になる。
「うぉっ!? なんか強いのが混ざってるぞ!!」
しかも暗殺者の中には強い個体も混じっているらしく猶更戦闘の余波で船を破壊してしまいかねない。
その隙に一部の暗殺者が船倉を抜けて上の階へと飛び出してゆく。
「ウォーターバック!」
ノックバック魔法で敵の動きを一瞬止めている間にプレイヤー達が前に突貫する。
「ウォーターバッ「だめだよマルスくんちゃん! 船倉にダメージが溜まってる!」
「くっ!」
ウォーターバックの攻撃力は低いが、数を使えばそのダメージもバカにならない。
少なくともレフリス達の修理が完了するまでは使えそうにない。
「すまん、これ以上のサポートは無理じゃ!」
すぐさま双短剣を構えて俺も直接攻撃に参加する。
「なんのなんの! おかげでだいぶ前に出られたぜ!」
「援護のバフを頼む! 素殴りでこじ開ける!!」
「分かった!」
強力な攻撃スキルを使えない為、援護魔法によるバフで攻撃力を上げて強引にこじ開けようとする。
「ぐあっ! 回復頼む!」
「バフと回復で手が回らん!」
「他の所にいる連中から連絡があった! コイツ等が船を破壊するペースが速いって! 早くしないと他の所が破壊される!」
「もう一手足りねぇ! バフと回復同時に使えるスキルはねぇのかよ!」
「そんな都合の良いスキルある訳ねーだろ!」
バフと回復を同時に使えるスキル……あるにはあるがアレのバフ効果は低い。
使って役に立つかどうか。
「……お主等、攻撃手が増えるのと全員に小さいバフが入るのどっちが良い!?」
「「「「全員にバフ!!」」」」
全員答えが一致する。
「一人分手が増えるより全員少しでも強くなった方が総合的に戦力が増す!」
むぅ、はっきり言われてしまった。
「しかたない、すまんがわらわの護衛も頼むぞ!!」
俺は『歌姫の加護』を発動させて全員にバフをかける。
「おおっ! バフが付いて回復もしてる!」
「コンサートの時の奴か! あれってスキル効果だったんだな!」
「俺もこのスキル欲しいぞ!」
「お前等歌下手じゃん。姫様見るにこのスキル歌が必須っぽいぞ」
「げっ、無理だ」
即座にスキルについて考察が始まるのはゲーマーだなぁ。
ともあれ回復とバフがかかった事で多少楽になったのか、プレイヤー達の進行速度が増す。
「よし、ここまで来たら一撃で鏡を壊す! 船が壊れたら修理頼む!」
「仕方ねぇ、やれっ!!」
戦闘のプレイヤーが生産職に頼みつつ、突撃系スキルを発動して鏡を貫く。
ついでに勢い余って背後の壁を破壊してしまうが、待機していた生産職が一斉に穴を塞ぎに殺到する。
「よっしゃ! 残りを掃討だ!!」
こうなると後はもう……
バキン!!
鏡を破壊した事で楽勝ムードになっていた船倉に何かを割る音が響く。
何の音かと見れば、生き残っていた暗殺者が積み荷の箱を破壊した音だった。
「なんじゃ?」
今更積み荷を破壊してなんになる?
暗殺者は箱の中に手を伸ばすと、その中からコードの繋がったスイッチのようなものを取り出す。
「なんじゃ? スイッチ……ってまさか!」
「止めろーっ!!」
同じことを考えた誰かが叫び、近くにいたプレイヤー達が一斉に暗殺者へと駆け出す。
だが暗殺者はニヤリと笑い、手にしたスイッチを押した。
「逃げろーっ!!」
果たして何人が逃げ延びたのか、背後から凄まじい爆音と衝撃が俺達の背中に叩きつけられる。
「ぐあっ!!」
その衝撃に吹き飛ばされるように俺達は階段から上の階へと転がり出る。
「ぐぅ……皆無事か?」
「……なんとか」
「無事です……」
「生きてるよぉ」
とりあえず俺のパーティは無事だったか。
ただ他の冒険者には逃げ遅れた連中もいたみたいだな。
まぁゲームなので後で復活できるけど。
「しかしまさかあんなものまで持ち込んでいたとは……」
差し詰め魔法爆弾ってところか。
問題は船底から聞こえてくるザァザァゴボゴボという音だ。
そして凄い勢いで船倉から水が上がってくる。
「生産職、早く修理を!」
「無理だよもう! 材料もほとんどないし階段まで水が来てるから完全に水没しちゃってるよ!」
「とにかく上に逃げろ!!」
俺達は中で戦っている奴らに避難を促しつつ甲板に飛び出す。
「他の船に逃げるんだ!!」
だが、他の護衛船に逃げようと周囲を見回して俺達は絶望に包まれる。
「他の船も沈みかけておるじゃと!?」
信じられない事に、周りの護衛戦も大きく船体が裂けて今にも真っ二つになろうとしていた。
「どうなっているんですか! 急に周りの船が爆発してあんな事になってしまったぞ!」
甲板に逃げてきていた使節団が周囲の惨状に慌てふためく。
「船倉に暗殺者が出現する転移装置が設置されておったのじゃ。そしてそれを破壊したらわらわ達を道連れにしようと自爆しおった! この船もじきに沈む!!」
「なんですって!?」
「そうだ! 脱出ボートだ!」
プレイヤーの一人が脱出船に乗って逃げようと提案する。
「駄目だ! 脱出ボートが破壊されてる!」
だがご丁寧にも脱出ボートまで破壊されていた。
いや甲板に暗殺者は上がってこれなかったから出港前から破壊されていたのか?
「小島まで泳いでいけば……」
「無理だ! 今更泳いで戻るなんて無理だぞ!」
くっ、襲撃のタイミングも考えられていたって事か。
「ちくしょう! 調印式が成功しようが失敗しようが最初から俺達を始末するつもりだったって事か!」
他の船も駄目、ボートも駄目、小島に戻る事も不可能。
完全に詰んだ。
「おいお前! 何で転移装置を壊したんだよ! アレが残ってれば逃げられたかもしれねぇのによ!」
そんな中、プレイヤー達が船倉の転移装置を破壊したプレイヤーを攻め始める。
「なっ、そんなことわかる訳ねーだろ! それにあの状況じゃ壊すしかなかったし誰も反対しなかっただろ!」
そりゃそうだ。あの状況で今の状況を予想なんて出来る訳がない。
出来たとしても無限湧きする敵を止める方法も無かったんだから攻める方が酷だ。
そんな風に皆が口論をしている間にも怪獣の叫び声のような亀裂が広がる音は大きくなってゆく。
「駄目だ、船が割れる!!」
そうして、俺達の乗った使節船は真っ二つに割れた。
◆
「いやー、死んだかと思ったのじゃ」
床にへたり込みながら俺達は命からがら助かった事に安堵する。
そこはよく見たいつもの光景。
王都の俺の屋敷の大ホールの床の模様。
「イベント参加者を呼び声の彫像とリンクさせておいてよかったのじゃ」
そう、俺達は屋敷に設置された呼び声の彫像の転移機能を使い、沈みゆく船からワープで帰還したのだった。
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