第23話 小さな積み重ねと御用聞き
「という事があったんじゃ」
配達依頼で中級魔導書を手に入れた俺は、仲間達と情報の共有をしていた。
「お嬢もか。こっちも騎乗スキルに関するアイテムが貰えたぜ」
「おっ、何が貰えたんじゃ?」
「曲乗りだ! これで魔物の上に立って炎をまき散らせるぜ!」
絵面が完全に敵なのよそれ。
「私も! 糸の心ってアイテム貰ったよ! 布に関する生産をする時に質の高いアイテムが出来上がる確率が高くなるアイテムなんだよ!」
「おお、それは良いな!」
俺はアイデンティティの縛りで高クオリティアイテムしか装備できない弱点があるからな。
レフリスの高クオリティ品の性能が上がるなら願ったりだ。
「私は騎士の心得という本を手に入れました。どうもチェーンクエストらしく関連するアイテムを集めると騎士にクラスチェンジ出来るアイテムのようです」
「ほほう、それは凄いのう!」
ヒメキはクラスチェンジアイテムか。
ただ俺の時と違って他にも条件があるんだな。
「しかし妙だな。攻略サイトにゃこんな情報無かったが」
「皆秘匿しているのではないか?」
有利な情報を得た時、優位性を高めるために誰にも教えず秘匿するプレイヤーは多い。
俺も銀のマールビット関連の情報は隠していたしな。
「いや、スキルが関係しておるのかもしれん」
「スキル? どういうことマルスくんちゃん?」
「わらわが担当した受取人はこちらの礼儀作法に反応した。恐らくお主等の場合もスキルに反応したのではないかの」
「って事は俺の場合は騎乗スキルって事か」
「私は生産かな?」
「しかし私は何故ピンポイントにクラスチェンジアイテムなのでしょう。騎士を目指している事は言わなかったのですが」
ヒメキはあまりにもドンピシャなアイテムが与えられた事に戸惑っている。
「能力値かもしれねーぞ。騎士にクラスチェンジする為に必要なステータスやスキル構成って縛りがあるのかもよ」
「む、その可能性もあるか。確かに私は騎士になる為にスキルビルドを調整しているからな」
「こりゃあ面白いな。シティクエストなんざ初心者の時に少しでも稼ぐために受ける依頼でそこそこ強くなったら見向きもされないもんだ。あとは売れない生産職とかな」
「うぐっ!」
モヒカンのセリフにレフリスが悲鳴を上げる。
俺に出会うまで高クオリティアイテムが高すぎて売れなかったもんなぁ。
「他の依頼も何か隠し要素がありそうだな」
「うむ、まだ誰も気づいていない今がチャンスじゃ! お手柄じゃぞモヒカン! お主が意見をくれなんだら気付かなんだところじゃ」
「へへっ、これでも旅行好きなんでな。現地の人との交流も醍醐味なんだよ」
「「「モヒカンが旅行……」」」
ポワポワポワ~と脳裏に浮かぶのはバイクに乗って旅をするモヒカンの姿。
顔出しボードに頭を入れて写真を撮ってもらうモヒカンの姿。
ご当地グルメに舌鼓を打つモヒカンの姿。
土産物売り場で友人に渡す土産を物色するモヒカンの姿。
あのビジュアルで観光地に行くのは凄い光景だろうなぁ。
あ、いや、リアルのモヒカンはモヒカンじゃないか! ……ないよね?
「まずは検証だ。他の依頼を受けてもアイテムやスキルが手に入るかの確認をする必要がある。だが組み合わせを考えるとかなりの数になるか。ギルドメンバーにも協力して貰うべきだな」
そうか、俺達はギルドだもんな。仲間にも情報共有するのは当然か。
ちょっと数が増えすぎて仲間って実感が湧かないんだけど……
「おっと、口の軽い連中は誘うなよ。外部にバレたら依頼の奪い合いになるからな」
「一度発生したクエストが次から発生しなくなるかもしれないしね」
「そうだな。有用性が確認されたら信頼できるメンバーを優先して情報を開示しよう」
「あっ、それなら前回のお屋敷建築に貢献した人達も入れて良いんじゃないかな。姫様に貢献した人程優先的に教えて貰える先行情報って事にすれば皆やる気になるよ!」
「しかし他人にマウントを取る為に漏らす者が出そうだぞ」
あー絶対出そう。
「それはそれで良いんじゃねーの? お嬢の役に立つ奴は優遇されるって情報に信憑性が増す。ついでにお漏らし野郎にはペナルティを与える事で一定期間情報開示を禁止すれば他の連中も折角のお得情報が貰えなくなることを警戒して漏らす奴も減るだろうよ」
成程、情報漏洩も織り込み済みで流すのか。
「よし、メンバーの選出はお主等に任せるのじゃ」
「任せな。とりあえずガメッツには教えねぇよ!」
「あー、あやつはのう……」
アイツは金の亡者だからな。漏らすか漏らさないかで言えば高確率で漏らす気がする。
大金と引き換えで。
◆
「姫様に耳寄りなお話があるんですが」
「うぉっ!? ガメッツ!?」
会議が終わって大ホールに出て来ると、あまりにもタイムリーなタイミングでガメッツが現れ思わずビビってしまう。
盗聴スキルとか使ってないよね!?
「おや、どうされましたか?」
「い、いや、何でもない。それで何のようじゃ?」
「はい、実は姫様に耳寄りなお話があるのです。会議室でお話をさせて貰えませんか?」
あいも変わらず金の欲望に濁ったギラギラとした笑みでガメッツが揉み手ですり寄ってくる。
「……」
チラリとまだ検証に向かっていなかったヒメキに目配せをするとヒメキも頷いて返す。
「姫様の護衛として私も同席することになるが良いか?」
「……まぁ良いだろう。だが口外禁止だぜ」
「お前が言うか」
いや全く。
「へへっ、俺は商人だぜ。情報だって商品なんだ。みだりに言いふらしたりはしないぜ」
それ、金になるならみだりに言いふらすって事じゃん。
再び会議室に戻ってくると、ガメッツがさっそく話題を切り出してくる。
「この度姫様にお目通り願ったのは他でもありません。私を姫様の御用商人に任命して欲しいのです」
「御用商人?」
なんだっけそれ?
「貴族のお抱え商人の事ですよ。直接店に出向かなくても商人の方から商品を持ってくるのです」
あー、通販みたいなもんか。
ちなみに後で気になって調べたんだが、どちらかといえば訪問販売って奴の方が近かったらしい。
なんでも昔は直接家まで来て商品を持ってきて買ってくれっていう売り方があったんだとか。
「で、何故そんなものになりたいのじゃ?」
「勿論姫様の将来性を見越してです。本当ならばもっと早くに申し出たかったのですが、姫様が王族と分かってすぐに売り込みに行くのはいかにも印象が悪い。ですので私の商人としての有用さを知って貰ってから売り込もうと考えたのです」
そう言ってこれ見よがしに部屋を見回すガメッツ。
つまりこう言いたいのだ。この屋敷を建てる事が出来たのも自分の尽力のお陰だと。
確かにガメッツの働きが大きかったのは事実だ。だが……
「ガメッツ、勘違いするなよ。この屋敷を建てたのは職人達で金を出したのは皆の協力あっての事じゃ。お主一人の手柄のように語るでない」
流石に全てを自分の手柄のように言われては気分が良くない。
「おお、これは手厳しい。勿論分かっております。ですが予算不測の際にすぐにコンサートを立案し、その為のスタッフを素早く集めた功績は認めて頂きたいと……」
「確かに、その手腕は認める。認めるが……あんな恥ずかしい真似をさせられた恨みも忘れておらんからな!」
そもそもコイツがあんな事を言い出さなかったらあんな恥ずかしい目に遭わずに済んだんだよっっっ!!
つーかよくよく考えたら全部コイツが諸悪の根源じゃねーか!!
それでよく御用商人になりたいなんて言えたもんだな! とんでもねぇ面の皮の厚さだよ!!
「これは藪蛇。しかし短期間に大きなものを得る為には代償が必要な事も事実です。姫様は一時の恥と引き換えに命の保証を得たではないですか」
「ぐぬぬ、ああ言えばこう言う」
この言葉通りの奴が居るなんて思わなかったよ!
「その辺りにしておけガメッツ。度を越せば本気で嫌われるぞ」
「へへ、分かってるよ。まぁつまりですな。姫様が欲しい物があれば私が必ず入手してきます。物であれ情報であれ王位継承に必要な品であれ、ね。そして必要なら嫌われ者役だってこなしてみせましょう」
「金次第でか?」
「はい!」
これまた満面の胡散臭い笑顔で答えるガメッツ。
嫌われる事すら金の為とは恐れ入ったぜ。
「それだけではありません。私を雇う事は姫様にとってもう一つ重要な利点があります」
「もう一つ? それは何じゃ?」
ここまで胡散臭いムーヴをしておきながらそれ以上のセールスポイントがあると?
「私は他の王子派閥の者では無いという事です」
いやお前なら他の王子のスパイでしたーってオチも十分ありそうなんだけど。
「いえ、その点においては信用できるかと」
あからさまに胡散臭そうな顔をしていたのか、珍しくヒメキがガメッツを庇う。
「この男は間違いなく新参の商人です。説明が難しいのですが、元々この国の民ではないのです。それゆえに既得権益が出来上がっている他の王子派閥に入れず新興勢力である姫の下に来たのでしょう」
ヒメキの保証ってのはプレイヤーだからというメタ視点からだろうな。
「その通り! 私の見立てでは姫様はこれから必ず勢力を拡大させます! そう見込んだからこそ他の王子派閥を敵に回してでも姫様の下にはせ参じたのです!」
本音を言えば俺の王位継承権争い参加が運営の用意したイベントだと勘違いしているからだろう。
クエストで王位継承権の低い王女が立ち上がったとなればイベントを進めるうちに大派閥になるのはゲームの流れ的に当然と考えるのがプレイヤー心理だ。
つまりメタ視点ではガメッツはシロ。
なんだが俺hNPCという体なのでガメッツを疑う演技をしないといけない。
ホントにスパイの可能性もあるしな。
「姫、この男が胡散臭いのは事実ですが、御用商人に任命すれば迂闊な事は出来なくなります。後ろ盾になる貴族の名に泥を塗るような真似をすれば客が寄り付かなくなりますから」
「そういうマイナスな評判を握りつぶす為に権力に擦り寄るのではないのか?」
「こう言っては何ですが、姫様の派閥は戦闘力はともかく政治的な根回しには向いていませんので」
それは本当にそう。俺の派閥の大半はプレイヤーなので基本戦闘か生産に特化して交渉事に向いているメンバーが少ない。
さすがにゲームの中で官僚として出世したいなんて酔狂なプレイヤーがいるとも思えないしなぁ。
「それはそれでこやつが何かしでかしたらわらわの責任問題にならんか?」
「その時は責任を取って首を落とせばよいかと、物理的に」
わー、物騒。
「そういう訳です! 首を落とされるのは勘弁ですが。ああ勿論タダでとは言いません。我が商会の売り上げの5%を姫様へ上納金として差し出しますし掘り出し物が見つかったら真っ先に姫様に回します。あとは季節の贈り物も欠かしません!」
途中からお中元みたいな事言い出した。
ここまで必死だといっそ清々しいな。
「どうしたものかのう」
条件は悪くないしいざという時の首輪もある。
お中元はともかく売り上げの5%と掘り出し物は良いな。
ただ、ガメッツなんだよなぁ。この濁り切った笑顔を信用して良いものか……
でもまぁ、いいか。所詮ゲームだし。そこまで深く疑いだしたらどのプレイヤーも信用できなくなる。
万が一ガメッツが裏切ったらイベントの振りをしてガメッツ狩り大会でも開催してやろう。
「よかろう、ガメッツよ、お主をわらわの御用商人に任命するのじゃ」
「ありがたき幸せ!!」
ガメッツが額を床にこすり付けて礼を言ってくる。やめて、胡散臭いおっさんのエキス
絨毯に染みちゃう。
「ではガメッツよ、最初の商談じゃ。魔王核、もしくはそれを入手できるモンスターの情報を集めてくるのじゃ」
「ははーっ! お任せください!」
こうしてガメッツは俺の御用商人になったのだった。
そして次の日から、聞いたことない俺の公認グッズが販売され始めた。
「いらっしゃいいらっしゃい! マルシェル姫公認の御用商人ガメッツ商店限定の姫様グッズだよ! 他の店では売っていない限定グッズだよーっ!!」
「姫様の限定グッズだって!?」
「買う買う! 売ってくれー!!」
屋敷の中庭に勝手に設置された販売コーナーに長蛇の列が出来上がる。
「ぐへへ、小売りを通さずに定価で売れるなんざ最高だぜぇー! 公式直売様々よ!」
「これが狙いかーっ!」
あまりにもえげつないECサイト商法を始めたガメッツの姿に、俺はまたしてもスッ転ぶ羽目になるのだった……
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