第21話 珍妙使節団(入会特典付き)
国王に呼ばれた俺は、各国との国交回復の為の親善大使に任命された。
「なんか凄い事になったのじゃ」
予想以上の大役に驚いてはいるが、それはそれとして他のプレイヤーが所属する国家に遠征できるのは純粋に楽しみだ。
それにこれに成功すれば領地を貰えるのもデカい。
「やぁマルシェラ姫」
と、そこにヴィロゥが声をかけて……あれ?いない?
ヴィロゥの声が聞こえた気がしたんだが。
「ここだよ、ここ」
その声に振りむくと、窓際に小さな水の鳥が羽ばたいていた。
「私の使い魔さ。悪いんだが私の部屋まで来てくれないかい? お茶くらいはご馳走するからさ」
「まぁ、構わんが」
「ありがとう。お茶菓子も付けてあげよう」
妙に楽しそうなヴィロゥの声に首を傾げながら俺は水の鳥についてゆく。
ヴィロゥから用事とは何事だろうか? やはり今さっき受けた親善大使の件か?
「やぁいらっしゃいマルシェラ姫! 観たよ君のコンサート!!」
思いっきりスッ転んだ。
「何でお前まで観ておるんじゃーっ!!」
「はははっ、気持ちいいリアクションありがとう。王位継承権争いに躍り出た君の事は王宮中が注目しているからね。当然コンサートも皆チェックしてるさ!」
「マジかーっ!?」
「マジさ」
おいおいおいおい、父親だけじゃなく家族全員に見られてたのか!?
しかも城中!? って事は騎士や使用人までアレを見たってのか!?
うぐぉぉぉぉっ! いや落ち着け、コイツ等は皆NPC、あくまでプログラムだ! 決してアレを見て楽しんだ訳じゃない!
プログラムの反応としてこういうリアクションをしてるに過ぎない! 過ぎないよね!?
「いやー、可愛らしかったよ。たしかこうだったかな? キュンキュンラビッツ!」
俺の歌声を真似ながら頭に手を当てて兎のポーズをとるヴィロゥ。
「ぐぉぉぉぉぉっ! やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
ホントにただのプログラムなんですかこの人達ぃーーーっ!!
「ははは、凄く愛らしかったよ。陛下も相当お気に召したようで会場限定グッズを持って私の所まで自慢しに来たくらいだからね!」
「いやじゃぁぁぁぁぁっ!」
何が悲しくて家族が自分のグッズを買って自慢する姿なんか想像せにゃならんのだ!
もしこれがリアルの両親だったとしたら……俺は死ぬっっっ!!
「いやー、長い魔王国の歴史の中でもこんな凄い事をした子はキミくらいだよ。ある意味始祖の建国魔王を越えたね!!」
「そんな事で越えたくないわーーーーーっ!!」
ご先祖の様の顔に泥を塗ってごめんなさーーーーーいっ!!
「いやー、彼なら喜んだと思うよ。間違いなく」
何て嫌なご先祖様なんだ。
「さて、冗談はこの辺にしておいて……9割冗談じゃないけどね」
「1割の真面目な要件に謝れ!」
はははとまったく悪びれずに笑うとヴィロゥは本題に入る。
「まずは親善大使任命おめでとう。大役を任じられて緊張しているかい?」
「そうじゃな。かなり責任のある立場なのは間違いないからのう」
「そんなに緊張しなくていいよ。各国の重鎮とは既に魔法通信で交渉済みだからね。君の役目は調印式にサインをするくらいさ。いや、もう一つあったな」
「む? 他に何かあるのか?」
おいおい、国家間の交渉をただのプレイヤーに一任するのは流石に責任重大過ぎないか?
「君の場合、国交回復コンサートの方が大事な仕事だったね!」
「聞いとらんのじゃがーーーーっ!?」
「おお凄い! スッ転びながらツッコミを入れて来るなんて君もなかなかの芸人だね!」
そんなものになった覚えはねぇーーーーっ!!
「コンサートってなんじゃ!? 本当に聞いとらんのじゃが!?」
「おやそうなのかい? まぁ今回の呼び出しは君を褒める為だっただろうから、後から正式に勅命が下るんだろう。という訳で頑張ってくれたまえ。私も期待しているよ」
「いやじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
何でまたあんな地獄みたいな事をせにゃならんのだぁぁぁぁぁぁぁっ!!
これも運営の仕込みって事か、クソがぁっ!!
「まぁそう拗ねないで。君を呼んだ用件は別にあるんだから」
「わらわをからかう為に呼んだのではないと?」
「ははは、流石に私もそこまで暇ではないよ。君を呼んだのは他でもない。親善大使として他国に出発する為に護衛を雇う事を勧める為に呼んだのさ」
「護衛? 国から出るのではないのか?」
正式な式典なら国からちゃんとした護衛が出ると思うんだけど……いやそうか!
確か今回の国交回復イベントのタイトルは『親善大使を守れ』だった。
という事は……
「確かに正規の騎士から護衛は出る。だが国内外の反対勢力の事を考えると、君の裁量で動かせる独自の戦力を集めておいた方が良い。特に君は命を狙われている訳だしね。自身の家臣に命じるだけでなく、冒険者ギルドにも依頼を出すべきだろう」
成程、イベントである事を考えると確かに戦力が多い方が良いもんな。
「じゃが解せんな。確かお主はもうアドバイスをしないのではなかったか?」
確かにヴィロゥはそう言った。なのに何故だ?
「これは王位継承権争いとは関係ないからね。全くの無関係じゃないけれど国益を考えたらこの程度のアドバイスはしてもいいだろうさ。ま、コンサート代と思っておくといい」
「それはもうええんじゃ!」
しかし護衛か、もしかしてお小遣いもこのためにくれたのか?
◆
屋敷に帰って来た俺は、まずはパーティのメンバーであるレフリス達を呼んで事情を説明する。
「あのイベントの親善大使ってマルスくんちゃんの事だったんだね!」
「重大な使命を背負った可憐な姫君の護衛! これは騎士の誇りが滾るな!」
「偉いさんの事情はともかく、他のエリアに行けるようになるのは楽しみだよな」
三者三様の反応を見せる仲間達。
「でじゃ、どうやって人を集めたものかのう」
魔王からお小遣いは貰ったが、護衛代金の相場とかよくわからんのよな。
冒険者ギルドに張ってある護衛依頼と同じ額で良いのか、王族だからもうちょっと色を付けた方が良いのか。
でもあんまり高くすると今度は雇える人数が減る問題も出て来る。
「まぁ報酬はそこそこでいいだろうぜ。俺達にとって重要なのは他国との道が繋がって行動範囲が広がる事だからな」
やっぱりそうだよな。
後は運営が開催する正式な大規模イベントという事もあって別途イベント報酬が出る事にも期待ができる。
「心配があるとすれば他の連中が反対勢力に雇われる可能性だな」
「むっ、それは確かに」
そうか、色んな遊び方が推奨されるゲームだから同じイベントでも敵対勢力に雇われるプレイヤーが現れる可能性があるのか。
モヒカンのようにアウトローサイドとして遊ぶプレイヤーは、現実のモラルを無視して利益だけを追求して動く可能性が高い。
「結局金を多く払うしかないのかのう」
「そういう連中が出るのも織り込み済みで動くくらいでいいだろう。いくら金を積まれても気に入らない仕事は受けないって連中はいるもんだぜ」
結局報酬はそこそこで後はプレイヤーのやる気に任せようという事になった。
「あとは家臣達じゃな。家臣達にも報酬を用意するとして、ギルドへの募集との差別化をどうするか……」
「家臣だけの特典があると嬉しいよね。コンサートとか」
「それはもうやらん!」
式典でやることになったけど教えるつもりはないぞ!
コイツ等に教えたら絶対大騒ぎになるからな!
「あー、そういえば家臣で思い出したのじゃが」
俺は話題を変える為に魔王から貰った帰還アイテム『呼び声の彫像』の事を話す。
「という訳で屋敷のホールに設置して家臣の皆が使えるようにしようと思うのじゃ」
「「「……」」」
呼び声の彫像の話を聞いたレフリス達が茫然とした顔になる。
ふふふ、だろうな。プレイヤーとして移動距離の短縮は凄くありがたいもんな!
「「「それだぁぁぁぁぁぁっ!!」」」
「え!? 何じゃいきなり!?」
突然レフリス達が立ち上がって叫ぶものだからびっくりしてしまった。
「それだよマルスくんちゃん!」
「ええ、それです姫様!」
「何がそれなんじゃ!?」
「その帰還アイテムだよ! そいつを餌にすれば護衛問題は全部解決だろ!!」
「へ?」
「つまりですね姫。護衛依頼を募集する際、依頼に加え姫様の家臣となった者に限り帰還アイテムの使用が出来るようになると大々的に宣伝すればいいのです!」
「そうすりゃ帰還アイテム使いたさにギルド加入者は増える! ギルドに加入する時にお嬢に敵対しないって誓約書を書かせれば帰還アイテムを使いたいだけでやる気のない連中も最低限敵対勢力の依頼を受けにくくなる。もしその恩恵を受けておきながら敵対勢力側につく奴らが居たら、ギルドから追放すりゃいいだけだからな!」
「成る程、敵対勢力に参加する者を減らす為の策という訳か」
「そうそう。それにイベント終了後も帰還アイテムが使えるって考えたら、今回の報酬が安くても皆家臣になってくれるだろうし依頼も受けてくれる人はいっぱいいると思うよ!」
思った以上に帰還アイテムが重要な役割を担う事になったな。
「最近は社会人だけじゃなく学生でも時間は大事だからね。移動時間が短縮できるアイテムは皆喉から手が出るほど欲しいよ」
「抑制効果があるのはこの国のプレイヤーくらいだが、それでも馬鹿にならない効果だと思うぜ。いけるぜお嬢!」
「うむ、ではそうするか」
レフリス達との相談を済ませた俺は、冒険者ギルドに依頼を出すと屋敷の大ホールにギルドメンバーを呼び出してから改めて話をする事にした。
「という訳で護衛依頼への参加、敵対勢力からの依頼の拒否を頼みたいのじゃ。その対価として報酬以外に片道じゃが転移アイテムの使用を許可する!」
「「「「おおおおっ!?」」」」
転移アイテムの言葉にどよめきが走る。
ふふふ、驚いているな皆。
俺は呼び声の彫像の効果を説明し、今後家臣は自由に使用できると伝える。
勿論俺を裏切ったら追放とも釘も刺しておくが。
「以上じゃ。質問のある者はおるか?」
「はいっ!」
家臣の一人が元気よく手を上げる。
「姫様の新衣装は実装されるんですか?」
「んな訳あ「ありますっ!!」るかーっ!! ……え?」
「あります! マルスくんちゃんの式典コンサート衣装はあります!」
「な、何言っとるんじゃレフリス!?」
っていうか何で式典コンサートのことを知ってるんだ!?
「ついさっきガメッツさんから連絡があったの。マルスくんちゃんが親善大使として調印式でコンサートをするって」
「あの悪徳商人がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
どこから聞きつけたんだあの野郎っ!!
「「「「うぉぉぉぉぉっ!! セカンドライブきたーっ!!」」」」
「新曲! 新曲!」
「新衣装! 新衣装!」
「いや待て、衣装などこの間のコンサート衣装でよいではないか!」
「何言ってるのマルスくんちゃん! 貴族女性にとって一度着たドレスを何度も使いまわすのは恥ずかしい事なんだよ! パーティの度に新しいドレスを用意するが常識な何だから!(諸説あります)」
「そうなのか!?」
「そうだよ!(諸説あります)」
マジかよ、貴族社会ってめっちゃもったいないことするんだなぁ。
「では一度来たドレスはどうするんじゃ? 捨てるのはもったいないじゃろ」
「家臣に下賜って形で下げ渡すんじゃねーの?」
「うぉぉぉぉーっ!! 姫様の使用済みドレスッッ!!」
「絶対男にはやらんぞっ!!」
「つまりハートがレディにならいけるって事ですね」
それゲームシステムはどう判断するんだ?
「そう言う訳なのでマルスくんちゃんが親善大使として参加するイベントでは全ての日程で違う衣装になります!」
「それは頑張り過ぎではないか!?」
「私頑張る!!」
いや無理しないでホント!
「全日程新衣装!? 絶対全日チケット取らないと!!」
「落ち着けコンサートではないわ!」
「そうだぜ、お嬢の護衛として依頼を受ければタダで見られるんだ。しかも報酬まで貰えるんだからお得だろう?」
お得、なのかなぁ……?
「そ、そんな、タダで新衣装を見せて貰えるだけじゃなくお金まで貰えるなんて! 寧ろ俺達の方がお金を払わないといけないヤツじゃないのか!?」
「落ち着け、護衛依頼だと言っておろうが」
いかん、ショックのあまり錯乱している。
「あの、投げ銭はどこに入れれば?」
「赤スパしたいんですけど!?」
「だから護衛依頼だっちゅーとろーが!」
コイツ等、こないだのコンサートの空気が抜けてねぇ!
「とにかく、わらわの家臣となって護衛を受けてくれれば帰還アイテムが好きに使えるようになるという事じゃ」
「あの、そのアイテムってどこに設置されるんですか?」
「ああ、それはこの大ホールの入り口付近に置く予定じゃ」
「折角だから今設置しちゃったら? 皆も実物を見たら護衛参加のモチベーションあがるかもだし」
「そういうもんかのう? まぁ良いか」
ステータスのアイテム欄から呼び声の彫像を選択すると、設置位置を示す光の柱が現れる。
『呼び声の彫像を設置する場所を指定してください』
「ではこの辺りに設置するか」
入り口付近の壁際に指定をすると、呼び声の彫像が出現した……のだが、
「って、なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「わー、マルスくんちゃんだ」
現れた彫像の顔は、あろうことか俺だった。
「しかもコンサート衣装だな」
「ううむ、なんという躍動感。これを作った彫刻家は相当の腕前だな」
余計なことに才能を発揮するなぁぁぁぁぁっ!
「ってなんでわらわの顔なんじゃ!?」
「そらまぁ、我が子の活躍が嬉しかったんじゃねーの?」
「親バカって奴だね」
「バカ親の間違いじゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
何で寄りにもよってコンサートの瞬間を切り取ったんだよ! 出来が無駄に良いのが腹立つ!
「ええい撤去じゃ撤去!!」
『一度設置されたモニュメントは撤去不可能オブジェクトになります』
「なんじゃとぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「おお、なんと神々しい!」
「ありがたやありがたや」
「拝むな! 跪くな!」
彫像を見たプレイヤー達が一斉に跪いて拝み始める。
「ご神体出来ちゃったなぁ」
「できちゃったねぇ」
「素晴らしいご神体だな」
「ご神体言うなー!」
◆数か月後◆
屋敷入口の大ホールに設置された呼び声の彫像の前にプレイヤーが出現する。
どこかの町から転移してきたんだろう。
だが彼等はすぐに移動せず懐からコインを取りだすと彫像の前の箱に投げ入れた。
チャリーン。
ペコペコ、パンパン、
「姫様、今日もありがとうございます」
二礼二拍手一礼を終えると彼等は去って行った。
「なんか賽銭箱が設置されとるんじゃが」
「すっかり信仰されてるねぇ」
「参拝マナーも徹底してるよな。海外プレイヤーもやってるぜ」
「なんなら王都の新たな観光名所として登録されていますよ。ほら町のご老人も参拝しています」
とても冒険者とは思えない普通の格好の老夫婦は、彫像を拝むと屋敷の中庭に設置されたベンチに座って仲良く日向ぼっこを始める。
よく見ると他のベンチには年若いカップルが膝の上にお弁当を広げてご近所デートを楽しんでいた。
「タッチ! 次の鬼お前な!姫様の所で10数えろよ!」
「屋敷の中に隠れたらだめだからねー! いーちにーさーん」
そして彫像の前で鬼になった子供が数を数えている間に他の子供達が隠れる場所を探して駆けまわる。
「すっかり憩いの場だねぇ」
「何でこんな事になっとるんじゃーーーーーっ!!」
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