第20話 王様の呼び出し
コンビニで商品を物色していると、非常に聞き覚えのある歌詞が流れてくる。
―わらわに溺れよ―
―ここは闇のダンスホールー
「あっ、『なんだこの地獄」だ!」
「のじゃ姫の曲だ!」
俺、いやのじゃロリ姫ことマルシェラの歌はすっかり世間に浸透していた。
あの時、ILLの運営からマルシェラのコンサート動画とそこで歌った楽曲の配信の打診をされた俺は、色々と考えて申し出を受ける事にした。
理由は二つ。
一つはマルシェラ関連のロイヤリティを貰える事だ。
正確な額は売ってみないとはっきりとは言えないが、と前置きされてから見せられたおおよその金額は副業と言えるレベルの金額を超えていた。
この時点でかなり惹かれたのだが、引き受けた場合しばらくの間はマルシェラとしてゲームを続けて欲しいと頼まれた。
正直不満だったのだが、マルシェラが運営の想定以上にNPCとして有名になってしまい、本来の宣伝用NPCよりも人気になってこっちの方が公式と思われているのだとか。
もっと頑張れよ公式NPC。
更にゲームの宣伝配信として売り出す以上、その宣伝キャラがすぐいなくなっては困るという大人の事情もあった。
初めはマルシェラを買い取って中身を他のNPCと同じ人工知能にすげ替えるか、運営の用意したプレイヤーに変わって貰ったらどうだという意見が出たらしいが、どちらの場合でも俺というマルシェラの魂が無くなったらファンはすぐに違和感に気付くと別のスタッフ達から猛反発を受けたのだとか。
その代わり、俺が再キャラメイクする際には可能な限りマルシェラのデータを引き継いでくれると確約してくれた。
魔王国王女のアイデンティティなどといった部分はそもそも俺が男のキャラで遊ぶことを希望している為引き継ぐ意味もないしな。
またマルシェラが建てたギルドホームもそのまま使う訳にはいかない。
でないとプレイヤー達が自分達が推しの為に作った屋敷をぽっと出のプレイヤーに突然理不尽に奪われてしまう事になるからだ。
そうなれば運営も俺も大炎上間違いなしだ。
なので今後解放される予定の新しいエリアの町の貴族としてギルドホームを用意する予定だと言ってくれた。
ただし屋敷を作ったのは多くのプレイヤーの協力あっての事なので、個人の資産で作れるレベルまで下げる事になるとも言われた。
かなりの好待遇だが、それだけ運営はマルシェラに利益を感じたという事だろう。
そして一通り契約についての話を終えると、最後に運営から一言だけメッセージが送られてきた。
――――――――――――――――――――――――――
なお、再キャラメイクに際にやはりマルシェラで遊び続けたいと思われましたら、遠慮なくその旨お伝えください。
――――――――――――――――――――――――――
ぜってぇ男キャラでキャラメイクし直すっつーの!!
そんな訳で世間ではそこかしこで俺の歌がCMとして流れているのだった。
「……やっぱやめときゃ良かったかな」
◆
「陛下から城に来るようにとの命令があったット」
「父上から?」
ILLにログインすると、バットンから父親である魔王が読んでいると言われた。
「……もしかして勝手に城を出て屋敷を作った事を怒っておるのか?」
やっべー、よく考えたら王族が何も言わずに引っ越したらそら何事かって思われるよな。
「陛下はそんな事で怒ったりしないット。姫様の現状も理解しているから猶更だット」
って事は少なくとも怒られる事はなさそうだ。
「分かった。すぐに行くのじゃ」
流石に王様の呼び出しだしすぐに言った方が良いよな。
俺はすぐに城へ向かうと、そのまま謁見の間へと通される。
「おお、よく来たなマルシェラよ」
王様は今日も機嫌良さそうに俺を招くと膝の上にのせる。
もう完全に子猫扱いですよ。頭をグリグリとデカい手が撫でてくる。
これが人間に可愛がられる小動物の気持ちか!
「ふはははは、観たぞお前のコンサートを!」
「はぁ…はぁっっっ!?」
見たの!? 俺のコンサートを!?
「父は嬉しいぞ! お前がああも立派に民に輝きを見せた事に!」
「あ、ありがとうございます……」
ぐぉぉー! ゲーム内の設定とはいえ身内にアレを見られるとか最悪だぁー!
「と言う訳で褒美をやろう!」
『おこずかい500000モールを貰った』
『呼び声の彫像を貰った』
おお!? なんかアイテム貰えた! なんだコレ!?
呼び声の彫像:ギルドホームに設置し登録すると町や村などの安全地帯からギルドホームに転移が可能になる。
おおっ! ワープアイテムだ!
「ありがとうございますお父様!!」
帰りだけの片道ワープだがそれでも移動時間が大幅に短縮できるのは大きい!
「王族たるもの民の支持を得る事は重要だ。そういう意味ではお前も立派な王族になったという事だな!」
「そうなのでしょうか……?」
正直王族の面倒ごとには関わりたくないんだよな。
今でさえ暗殺者に狙われてる訳だし。
「うむ、だからこそお前にこの仕事を頼むことが出来る」
「仕事ですか?」
え? もしかしてこの呼び出し、イベントの導入だったのか!?
「お前には親善大使として他国に使者として行ってもらいたい」
「親善大使ですか?」
なんか責任重大双なんですけど!?
「そうだ。我が国、いや各大陸は数百年前の戦いによって疲弊した事で実質的な鎖国状態となった。そして限定的な魔法通信を除き、今日まで直接的な交流は行われてこなかった」
なるほど、このゲームで他の種族のエリアに行けない理由って事か。
と言う事はこれは……
「あれから長い月日が経った。状況も、そして人々の意識も当時とは違うと我等は判断し、国交を蘇らせる事を決断したのだ」
他の種族プレイヤー達のエリアに移動できるようになるイベントって事だな!
「そのきっかけの一つがお前のコンサートだ、マルシェラ」
「へ? わらわのコンサートが!?」
「うむ、お前のコンサート映像を見た他国の者達が、魔族とは過去の戦争の記録に記された恐るべき敵対者ではなく、もっと穏やかな交流が可能な存在なのではないかと考えるきっかけとなったのだ」
な、なるほど……?
「ゆえにお前が親善大使として他国に赴けば、相手も国交回復に前向きになってくれるだろう」
「前向き? 事前に相手国と相談しておらぬのですか?」
「当然しておる。だが上がこうすると決めても納得できない者はおる。感情論だったり既得権益だったりと理由は様々だがな。で、そのような者達を黙らせる為に大々的に国交の回復を宣伝する必要があるのだ。お前には期待しておるぞ」
これ、逆らえない流れだよなぁ……
「国交が回復した暁には、お前にも領地をやろう」
「領地!? わらわにですか!?」」
ILLって領主にもなれるのか!?
「王族として成果を上げたのなら領地くらい持っておかねばな。頑張るのだぞマルシェラよ!」
「わ、わかりましたのじゃ父上!」
こうして俺は王様の命令で親善大使として各国に赴くこととなった。
「まさか親善大使とはなぁ。しかもそれが成功したら領地まで貰えるなんて」
今だILLで領地を手に入れたプレイヤーの話は聞かない。
攻略サイトにもそういった話は無かった。
「領地か、手に入れたら何が出来るんだろうな。都市経営モードは確実にあるよな。その場合どんなメリットがあるんだろ? やっぱり不労所得か。それにどの土地を貰えるかモ重要だよな。海沿いの町なら港が作れるし海産物もゲットできる。山だったら鉱山運営が出来るかもしれないしそうなったら素材には事欠かないだろう」
うーん、夢が膨らむな。
経験値も大分残ってるし、都市運営に使えるスキルを習得するのもありだろう。
「よーし、頑張るぞー!」
◆
『新イベントが開催されます』
「おっ、運営からのお知らせか」
『この度他種族エリアへの行き来が可能になるイベント『親善大使を守れ!』が開催される事となりました』
「親善大使を守れ?」
親善大使って俺の事だよな? 俺を守れ?
『このイベントでは各国の親善大使が互いの国に赴き国交回復の調印式を行います。ですがそれを良しとしない勢力の妨害も予想される為、各種族のプレイヤーの皆さまに置かれましては、無事国交回復が出来るよう親善大使を守ってください』
なるほど、反対勢力から親善大使を守れって事か。
「ってそれ、わらわにも襲い掛かってくるという事か!?」
しかも俺、守られる側なの!?
「イベントの開催日時は……あんまり時間ないな。とにかくすぐにメンバーを集めて方針を立てないと!」
こうして、エリア解放のための新たなイベントが開催決定したのだった。
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