第15話 新装備と新提案
「マルスくんちゃん! 新装備ができたよ!」
ギルドホームの建設目指して資金と素材集めをすることになった翌日、レフリスが興奮した様子で飛び込んできた。
「おお、もう出来たのか!」
「うん! 経験値を関連スキルと器用さにつぎ込んだからね! これがマルスくんちゃんの新装備だよ! さっそく装備してみて!」
「う、うむ」
レフリスの勢いに押されつつ、俺は渡された装備を装着する。
『金と銀の兎革鎧:防御力30:魔法防御力30:素早さ+10、回避率20%UP』
『金と銀の兎ブーツ:防御力10:魔法防御力10:素早さ+10、移動速度20%UP』
『金と銀の兎手袋:防御力10:魔法防御力10:素早さ+10、稀に攻撃回数が増える』
『金と銀の兎ハーフマント:防御力20:素早さ+10:固有スキル『逃亡』を使えるようになる』
「おおー!これは凄いのう!」
全ての装備に素早さアップが付いているし、早さに関する特殊能力も付与されている。
この逃亡ってなんだろう?
『逃亡:戦闘スキル:自分よりも素早い相手からも逃げだせる確率が上がる。ただし物理的に逃亡が出来ない地形や一部ボス戦では使用できない』
成程、密室で逃げたりとかはできないっぽい。
合計値を考えるとロイヤル装備の方が性能が良いが、補助効果があるから使い分けをする感じの運用法になりそうだ。
魔法防御力もあるのが嬉しい所だ。
「ところで頭の装備は無いのかの?」
このゲームは基本全身に装備が可能だ。淑女のリボンを作れた以上頭装備も作れるはずなんだが。
「えっとね、頭にはウサ耳を着けて欲しいなって思って。聞いたよ、マルスくんちゃんってウサ耳装備持ってるんだよね!」
「まぁあるにはあるがアレには防御力が無いぞ」
謎のマールビットに懐かれる機能があるだけのネタ装備なんだよな。
「お願い! 身に付けてみて! ネットに流れてるスクショ見てアレに合うように作ったの!」
待て、俺のウサ耳姿がネットに拡散されてるのか!?
いやアバターだから俺って訳じゃないんだけど、なんかこう……
「お願い!」
「……分かったのじゃ」
しゃーない、装備を作って貰った礼と思おう。戦闘時はリボンに付け替えれば良いだけだし。
「キャー可愛いーーーーっ!」
「こ、こら! 撮影するな!!」
興奮していきなりスクショを取り始めたレフリスを俺は慌てて止める。
「あとね、あとね! 武器も作ったんだよ! 兎武器もあるよ!」
と、興奮気味のレフリスは二本、いや三本の武器を差し出してくる。
片方はドラゴンのレリーフがカッコいい片手剣。
もう片方は金色と銀色のお揃いの兎モチーフの短剣だ。
「マルスくんちゃんから預かった素材で作った地龍の魔剣と金銀の兎双短剣だよ」
ああ、こっちの二本の短剣はセット装備なのか。
試しに装備してみると、
『地龍の魔剣:攻撃力30:大地の魔力を有した魔剣でアイテムとして使うと大地を砕く魔法を放つ:クールタイム30秒』
「おお! マジックアイテムか!」
これは面白いな。消費MPが表示されないから完全に武器由来の魔法って扱いなのか。
その分クールタイムがあるが探索中にMPを節約したい時に便利だ。
「流石はレイドボスのドロップ素材で作った装備だけあるのう!」
もう一つの兎双短剣はどうかな?
『金銀の兎双短剣:攻撃力17:素早き双兎の猛攻は目にも止まらない速さで敵を切り裂く:二回攻撃を行う』
「ほう、こちらも面白いな!
地龍の魔剣よりも攻撃力は下がるけど二回攻撃は面白そうだ。
『ウサギ属性フル装備の共鳴効果が発動しました。『ウサギ姫の突撃命令』が使用可能になります』
「なんじゃこれ?」
なんか装備を統一した事で何か隠し要素が発生したっぽい。
『ウサギ姫の突撃命令:攻撃スキル:一戦闘に一回:マールビットの群れが現れ敵を踏み荒らしてゆく。現れるマールビットの種類によって効果は増減する』
攻撃スキルっぽいな。内容的にマールビットを呼んで攻撃してくれる召喚スキルみたいなもかな。
うーん、これどっちを使うか悩むな。
地龍の剣は一撃が強いからロイヤルスラッシュの威力が高くなるし、金銀兎の双短剣は威力は下がるが二回攻撃で特殊スキルを使用できるようになる。
ロイヤルスラッシュと二回攻撃の相性次第なところはあるが、総合的に見ると金銀兎の双短剣がいいかな。
「うむ、ではわらわは金銀兎の双短剣を使う故、地龍の魔剣はヒメキが使うとよい」
「良いのですか!? 希少なドロップ素材を使った武器ですよ!?」
「構わん。それにお主は盾役に専念して攻撃力に難があるじゃろ? 有用な攻撃スキルを覚えるまで装備で補うと良い」
「はっ、ありがたき幸せ!!」
うん、良い装備をタンスの肥やしにする理由は無いもんな。仲間内で必要に応じて配分するのが一番だ。いざとなったら借りればいいし。
「その、姫様」
と、ヒメキが何やら申し訳なさそうに視線を向けてくる。
「この剣なのですが、できれは授与式で改めて与えて頂けますか?」
「授与式?」
何だそりゃ?
「覚えていらっしゃいますか? アースドラゴンとの戦いで姫様は功労を上げた者に褒美を与えると仰ったことを」
「仰ったのはお主等じゃがな」
いやマジで俺はやるって言った覚えないのよ。
「だがアレで参加者の士気が高まったのは事実だ。だからお嬢には公約通り活躍した連中にご褒美をあげて欲しいのさ」
むむむ、モヒカンの言う事も一理ある……か?
「んー、確かに皆頑張ってくれた故構わんが、わらわもあまり金は無いぞ。流石に参加した人数が多すぎる」
「大丈夫! ご褒美は私が作ったアイテムを出すから!」
「良いのか?」
折角作ったアイテムなのに。
「うん! 元々スキルの実績解除の為に大量生産したものばかりだから!」
「生産職の実績解除とは何をするんじゃ?」
「えっとね、例えばポーションを100個作ると一括生産っていう纏めて消費アイテムを作るスキルが解放されるの。他にも色々条件を満たすスキルがあるんだよ」
なるほど、戦闘職の〇〇を何体倒せみたいなもんか。
「その通りです。姫の特訓で大量の経験値を得た我々は他のプレイヤーよりも一歩も二歩も先に進んでいます。レイドの時もそれを実感しました。ですからレフリスの型落ち装備は前線プレイヤーにとっても不足はありません」
おおー、ヒメキのお墨付きとはレフリスも成長してるんだな。
「どのみち最新装備を作るまでの実績解除の為に作った装備って使いどころが無いから結局売るしかなくなるんだよね。でも……」
ああ、レフリスのアイテムはクオリティが高い分値段が高くなるから買い手がつかないんだっけ。
「けどな、最近高クオリティ装備にもメリットがある事が分かったのさ」
とモヒカンがニカッと怪しい笑顔で言う。
「クオリティは見た目だけの話じゃろ? 何のメリットがあるのじゃ?」
「クオリティの高い装備を身に付けていると貴族や金持ちから依頼を受けやすい事が分かったんだよ」
「あ、あー。そういう」
なるほど、貧乏な格好をしているよりはちゃんとした格好の人間の方が信用されるもんな。
ゲームだとそれを高クオリティ装備限定で受けられる依頼という形で再現した訳だ。
「それで最近高クオリティ装備に需要が出てきたんだが、やっぱ高くて弱い装備を買いたいかとなるとなかなかな」
「それで褒美にする訳か」
「ああ。参加者はお姫様直々にお高い装備を貰えるし、こっちは不要な装備を処分して嫉妬を回避できるからな」
「嫉妬?」
「たまたまお嬢と関わったおかげで俺達だけ贔屓されてるって嫉妬してくる連中がいるんだよ」
「何じゃそれは。そもそもわらわ達が共に行動しておるのはレフリスの装備をわらわが買ったからじゃぞ!」
ゲーマー的にもクエストを見つけた人間の当然の権利だろうに、誰だよそんな見当違いの嫉妬をしてる連中は。
「世の中理不尽な理由で嫉妬する連中もいるのさ」
だから不用品を吐き出すことで不満を解消しようって事か。
モヒカン達も苦労してるんだな。
「授与式については承知した。それでいつ渡すのじゃ?」
「あー、それな。ちょっと面倒な事になりそうなんでな、詳しくはコイツに聞いてくれ」
「おう」
モヒカンの言葉に隣のテーブルに座っていた人が立ち上がる。そこに居たのは……
「お主、ガメッツか!」
裏路地で怪しい商人ロールプレイをしていたプレイヤー、ガメッツだった。
「お久しぶりです姫様。この度は王位継承権争いへの参戦おめでとうございます」
ガメッツは揉み手をしながらいかにも媚びている感じで俺に祝いの言葉を述べる。
これもロールプレイの一環なんだろうか。
「おめでたくはないのじゃがな」
上級職に転職する為に必要だからやっただけだしなぁ。
「で、何で褒美を与える為にガメッツと話をする必要があるんじゃ? 普通にここで渡せばよいではないか」
「それなんですがね、褒美の授与式は姫様のお屋敷の完成式典と合わせてやった方が良いと判断したんです」
完成式典? そんなリアルで箱モノが完成した時くらいしか聞かないような事をする意味あるのか?
「ピンとこないご様子なので端的に説明いたしますと、姫様の屋敷を建てる為の予算がありません」
「……は?」
「土地代と屋敷を建てる為の許可に必要な金がかなりの額になるんです」
「それは中間マージンを取るからではないのか?」
商人が間に入るって事はそういう事だよな。
「いえいえ、ここでガメツい真似をしたらプレイヤー、いえ冒険者全員からそっぽを向かれてしまいます。私めは別の方面から儲けを得ますので、屋敷の建造に関して金を要求する気はございません」
うーん、名前がガメッツなのにガメツくしないとか怪しすぎる。
「土地に関する話は俺も確認したから嘘じゃないぜ。土地代に300万モール。更に建築許可に200万モールで合わせて500万モールだ」
「500万!?」
なんだその大金!?
「問題は家臣達の人数です。現在姫様の家臣は実に300人超え。常に全員が居るわけではないとしても相応の広さが必要になります。そうなるとどうしても土地代が高くなり、それに合わせて建築許可も高くなりまして……」
くっ、まさかここでリアルな不動産問題が出てくるとは!
前々から思っていたけど、このゲームリアルさに力を入れるところおかしくない!?
「そこで我々は妙案を考えました。姫様にコンサートして貰おうと!」
「なんでそうなるんじゃ!? どっからそんな話が湧いた!?」
「予算不足から湧きました」
「ぬぅ、い、いや全然話が繋がらんぞ!! 詳しく説明せい!」
「簡単な事です。コンサート代金を屋敷の土地代に回すんです!」
めっちゃシンプルな理由だった。
いやでもコンサートってなんだよ。俺が歌うのか!? リアルはマッチョなおっさんの俺が!?
「ご不満のようですね」
「当り前じゃ! そもそも500万モールじゃぞ。仮に入場料を一人1000モールにしたとして5000人必要じゃぞ!? いくらなんでも無理じゃろ!」
「ですのでチケット制にしてSS席、S席、A席、立見席と金額を分け、更にグッズ展開もします!」
「グッズ展開!?」
っていうかそこまでしたらマジでリアルのコンサートと同じじゃねーか。
「いや待て待て、わらわは歌も踊りも全然できんぞ!? そんな大規模な催しをしたら期待外れで返金騒動に発展じゃ!」
絶対大炎上間違いなしだよ!
「心配はいりません。歌唱スキルとダンススキルを習得すればいけます! そして歌詞と振付けは姫様のお抱え作曲家と振付師が作成済みです」
キラリとメガネを輝かせながら現れる男とスポーティな格好の女。
「そんな役職の者雇った覚えないんじゃけど!?」
「幹部家臣で建造費用回収の計画を提案した際、メンバーから自主的な参加希望がありました」
「そんな会議しておったのか!? というか家臣幹部!?」
知らない単語が次々に出てきて情報に溺れそうなんですけど!?
「家臣が多いと統制が大変なんだよ。大規模ギルドみたいなモンだからな。それで各パーティから希望者を募ってギルドの運営メンバーを揃えたんだ。おかげで俺もチンピラなのに幹部に加えられちまった」
マジか、俺の知らん間にそんな事をしていたなんて……
あとやっぱりチンピラの自覚あったんだなモヒカン。
「演目の心配はありません。両名ともかつては多くの歌姫を選出していた筋金入りの業界人ですから」
それってリアルでガチ作曲家と振付師って事ーっ!?
だから何でリアル職業の人が出てくるんだよー!
「VRゲームでまで仕事する人って何考えてるんだろうねー」
「仕事が好きなんだろ。あと人間には不可能なパフォーマンスを実現させてみたいんじゃね? このゲームのNPCってかなり人工知能の性能が高いからよ、お嬢ならアイドルをやれると思ったんだろうな」
待って待って、俺の中身はおっさんなんだって!
「姫様、これはまさにチャンスですよ! 各界の実力者達が貴方様をスターダムに引き上げようと自らの意思ではせ参じたのです! まさに姫様の人徳! これを利用しない手はありませんぞ!」
「いや、単純に人前で歌うとか恥ずかしいのじゃ」
「予算不足」
「うっ」
「家臣への報酬」
「うぐ」
「一度だけで良いのです! 一度だけ! 一度だけやってくだされば皆満足するのです!」
「嘘じゃー! そういうのは大抵二度三度となぁなぁで続くのじゃー!!」
「分かっているなら続けてください! まずはお試しから!」
「隠す気もなくなっておるし怪しい商品のおすすめみたいになっておるのじゃー!」
「既に歌詞は完成済みです」
「楽団メンバーも揃って練習を始めています」
「振り付けも完成してバックダンサーも練習中です」
「外堀が凄い勢いで埋まっておるんじゃがーっ!?」
なんだこの嫌なスピード感!!
「マルスくんちゃん、嫌なら無理しなくていいんだよ」
そんな中、レフリスだけが俺をかばってくれた。
「レフリス!」
「護衛なら私達がいるし、なんなら王都から離れた土地に逃げるって手もあると思うよ。マルスくんちゃんが本当に嫌なら、私達も無理にとは言わないよ」
うう、人の優しさが身に染みるぜ……染みるんだけど、
「レフリスよ……お主の言いたい事は分かった。じゃがな」
俺は優しい眼差しのレフリスの手を見つめる。
「コンサート用のドレスを握りしめながら言っても説得力ないぞ」
「え!? あっ、違うの! これはガメッツさんの提案を聞いてつい反射的に作っちゃっただけで、ちょっと熱意が暴走しちゃっただけで他意はないの!」
無意識でそんな服作ってる時点で他意しか感じないわー!
「それにこの服すっごく良い出来なんだよ! クオリティだって8になったんだから!」
「高っ!!」
「ふふふふ、観念して集金しようではありませんか!」
「もう本音を隠してすらいない!」
くっ、この状況を回避するナイスアイデアはないのか!? 誰か力を……そうだ!
「い、いや、王族として見世物になるような真似をするわけにはいかんのじゃ。そうじゃよなバットン!」
バットンは俺の教育係だ。王族にそんなはしたない真似をさせられるかと怒ってくれるはず!
そうなれば教育係がそういうなら仕方ないなーと断れるって寸法よ!
「良いと思うット」
「そうじゃろうそうじゃろう……って、え?」
「姫様はもっと芸事も頑張った方が良いット」
「なんじゃとぉぉぉぉぉっ!?」
馬鹿な! ここで裏切るだと!? お前それでも俺の教育係か!?
「王族として他国の賓客を持て成す事も大事な役割だット。国や種族が替わると芸事が大きな評価になる事もあるット」
「あー、リアルでも昔サロメってお姫様が宴の余興に歌ったり踊ったりしたって話あったよな」
「それは想い人の首が物理的に飛ぶ話だぞ」
へぇ、そうなんだーって、今は関係ねえーーっ!
くっ、このまま歌うしかないのか……はっそうだ!
「くっくっくっ、甘いなお主等」
「何!?」
「レフリスよ、この話をする前にわらわに装備を与えたのは失敗じゃったな」
「え? あっ!!」
装備と言われてレフリスの顔がハッとなる。
「皆逃がさないで!!」
一部のプレイヤー達が俺の逃亡を防ごうと動き出す。
「だが遅い『逃亡』!!」
俺は金と銀の兎のハーフマントの固有スキル『逃亡』を発動させる。
「はははっ! さらばじゃーっ!!」
このまま王都の外まで逃げきってや『スキルの発動に失敗しました』る。
「あれ?」
プレイヤー達が出口の前に殺到してドアの前に立ちふさがる。
「ええと、これ壊れておらんか?」
「え? そんなことないと思うけど……」
レフリスが首を嗅げて俺のマントを確認する。
「あっ、これ戦闘スキルだからだよ。冒険者ギルドは非戦闘エリアだから発動しなかったんだよ」
「あーそういう」
そっかー、そういう事かー。
ええっと、出口塞がれてるなぁ。
「今からわらわと戦わん?」
「「「「戦わんです」」」」
駄目かー。駄目かぁ。
ギラギラとした笑顔のガメッツが俺の肩をポンと叩く。
「皆頑張ってますから、姫様も頑張りましょうや」
「分かったのじゃ……」
こうして俺はコンサートを行うことになるのだった。
くっそー! どうなっても知らんぞぉーーーーーーっ!!
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