ファンタジア
「さて、本題に入るとしよう」
一通り自己紹介を終えた俺たちを前に、司先生はようやく今日のメインとなる話を切り出した。
「これから君たちにテストしてもらうのはこれだ」
そう言って先生は持ってきてた大きなカバンからフルフェイス型のヘルメットのようなものを取り出す。
「これは装着している人間の思い描く世界を汲み取り仮想空間にそれを忠実に再現させるとともに、その人の意識もその空間に転移させることで自分の思い描いた世界を体験できることを可能とする装置だ。まあ、簡単に言うと自分の空想した世界で遊ぶことができる装置―――――そうだな、名をファンタジアとしようか。」
使い方は実際にやってもらいながら説明するよ。と言いながら、先生はその装置――――――ファンタジアを俺たち全員に渡した。
「なんだかわくわくするわ! 先生の説明はいまいちよくわからなかったけれど、これがすごいものだということはわかるの! 早くしましょう!」
「そうです! これがあればたとえ現実でなくとも強大な悪と戦う勇者になれたり………いやはや、悪側になって世界を支配下になんてことも………………ふ、ふへへ……へへへへ……」
若干二名、ファンタジアを早く使いたいと先生からの説明を急かすが、俺はまだ心配がぬぐえないでいた。
「これ本当に大丈夫なんですよね? 頭をすっぽりと覆いますけど脳に影響とか……」
「だいじょーぶですよ。先輩! 先生も一応先生なんですから。生徒に危害を与えることはしませんって! それに、しろなんもやりたがっていますし」
うーん、まあそうだよな……司先生だってそんな危険なものを生徒にやらそうとはしないはずだ。
それに、しろなんがやりたがっているなら―――――――――――
「っておい! しろなんってもしかして白奈先輩のことか?! おまっ…先輩に向かって…………!」
「先輩? しろなんがですか? …………………あ、ああ! そういうことですか! 黒宮先輩。それは勘違いですよ。」
柚葉は俺の態度に一瞬困惑した様子だったが、俺が勘違いしていることに気づいたらしく何か納得したようだ。
「だってしろなんは中学生ですよ」
ん、なんだって? 中学生? え、でも自己紹介のとき三年って………
「いやいや、三年生は三年生でも中学三年生ですよ。 いくらなんでもこの小さくてかわいらしい見た目で高三はありえないでしょう」
「だって中学生がいるとは思わないじゃん! と、というか中学生がここにきても構わないの?」
「大丈夫です。桜井先生に許可、もらってます」
俺の質問に答えたのは白奈本人だ。
……おいおい、司先生。大丈夫なのか?
俺はそんな視線を、もうすでに美咲となるみにファンタジアの使い方を教え始めようとしている先生に向ける。
「大丈夫大丈夫。白奈はうちのご近所さんなんだけどね、学校にも行かずずっと家にこもってるから外に出る機会としてこの部に誘ったんだ。まずは外に出ることからって言って保護者からも許可を得ている」
そういう事情が……ならばここは三日月が外に慣れるまで付き合ってあげるか。
「ちなみに白奈がここに来るようになって何日くらい経つんだ?」
ふと気になり俺は白奈に聞いてみた。
「一年です」
「いや結構経つな。おい」
それってもう普通に大丈夫なんじゃないのか?
「先生とみんなのおかげで最近はもうすっかり外に出るのは平気です。ただ……」
白奈はそう言って、少し表情を曇らせる。
なにかほかにもまだ学校に行けない大きな問題があるのだろうか。
俺は白奈の言葉の続きを待つ。
「ただ……?」
「ただ、学校に行くと授業が終わってからここに来るまでにとても時間がかかるのであまり行きたくないんです」
そう来ましたかぁぁ!!
え、なに、この部活にはダメな奴らが集まってくるの?
それともこの部活が人間をダメにしていくの?
「ちょっと早くしなさいよ。 私たちもうすぐ準備し終わるんだけど」
白奈とそんなやり取りをしていると、すでに先生からファンタジアの使い方を教わり終えようとしている美咲が声をかけてきた。
気づけば美咲だけでなくなるみ、そしていつの間にか柚葉までもが説明を聞き終え始めていた。
まあ、ここの部員たちについて今更どうこう考えたって仕方がない。
しばらくして俺と白奈も先生から説明を受け、全員がファンタジアの使い方を習得した。
と言っても先生の話のほとんどがファンタジアの詳しい仕組みについてで、使い方自体は簡単でファンタジアを頭にはめて空想し仮想空間へ飛ぶ合図をするだけでいいということだ。
空想はほんの少し、ほんのワンシーンでも具体的にされればあとはファンタジアが自律的にその世界を創造してくれるらしい。
例えばカーレースをしている自分を空想すれば、コースや風景、敵となる車などは勝手に想像してくれるということだ。
本当は人間の無意識の部分から記憶を汲み取って想像されるのらしいが、そんなのなんか見たことがあるとも思わない程度のものなので、ファンタジアの自律的創造と考えていいらしい。
ちなみに、これは複数個あるようで実は互いにリンクされており一人ずつが別々の空想世界を体験することはできないそうだ。最初の人の空想世界を基盤として、そのあと入ってきた人はその世界に転送されるという。
テレビゲームで例えると、ファンタジアがゲーム機本体、最初の人がゲームソフト兼プレイヤー、残りの人がプレイヤーといったところだろう。
「誰が最初にします? 誰か作ってみたい世界とかありますか?」
説明を聞き終えさっそくファンタジアを使うべく俺たちは再び長机を囲って座っていた。
ファンタジアを使うにあたって何の変哲のない普通の世界を作るのは面白くない。
柚葉もそう思ったのか、席に着くと俺たちにそう問いかけた。
ちなみに先生は俺たちに説明を終えたあと職員会議があると言って教室を出て行ったのでこの教室には俺たち空想研究部の五人しかいない。
「はいはいはいはいはい!! 私これができたらやってみたかったことがあったの! ぜひ最初にやらせて頂戴」
美咲は是非是非と身を乗り出してそう答える。
「えっと、美咲先輩が先でいいですか?」
「私は別にかまいません。私の考える世界はもっと時間のある時にじっくりとやってみたいですからね」
「私も大丈夫です。特にまだ作りたい世界とか想像できてないですので」
美咲の提案になるみも白奈も異議はないらしい。
「先輩はいいです?」
柚葉は最後に俺に聞いてきた。
「ああ、異議はない。だけど美咲。どんなのを作るんだ?」
美咲がどんな世界を作るのか正直なところ不安だ。というか不安でしかない。
だが美咲はそんな俺の不安もつゆ知らぬ顔で、
「そんなの来てからのお楽しみに決まってるじゃない。今教えたらつまらないわ」
とファンタジアを装着した。
「トランジション!」
「お、おい!」
呼びかけても反応はない。もう意識が転送されたのだろう。
まあ、向こう側に行っても戻ろうと思えばいつでも戻れるわけだし、変なところだったらすぐ戻ってくればいいか……
そう考え、俺も美咲の後に続いて転移する。
「トランジション!」
ファンタジアに合図を送ると、まるでジェットコースターに乗ったかのような浮遊感に襲われる。
一番下から一番上まで、背骨を伝って頭のてっぺんから魂が引き抜かれているのではないかと感じさせられるような感覚に俺は思わず目を瞑ってしまう。
しかしそんな浮遊感も一瞬で終わり、足の裏に地面の感触を感じることができた。
目を瞑っていてもここがさっきまでと違う場所だということはすぐにわかった。
教室のコンクリートの硬い質感とは違い、足の裏で感じられるのは柔らかな土の感覚だ。
無事に空想世界にこれたことに少し安堵しつつも、美咲の作った世界だということを思い出し急に大きな不安が襲ってくる。
正直不安で目を開けたくない……
そう思いながらも恐る恐る目を開けてみると――――――
「――――――――――――――――!!!」
俺の目の前には俺の想像を裏切るような光景が広がっていた。
見渡す限りあたり一面の花畑。青、赤、黄、紫など色とりどりの花がそこらかしこに咲いている。
「え、な、なに。み、美咲の頭の中に来ちゃった?!」
ドカッ!
……………先に来ていた美咲に思いっきり後頭部を殴られた




