入部
物理予備準備室の真ん中にある長机を囲むようにして置いてある椅子に、今、俺を含めて五人の人物が腰を掛けている。
入口から一番奥の窓際、いわゆる上座に座らされた俺は机の両サイドにバランスよく二人ずつ座っている少女たちを見る。
右側には赤ペンキのバケツを抱えた、腰まで伸びた艶のあるきれいな髪の少女と顔や頭のところどころに赤いペンキを付けたロリっ子が。
左側にはまるでおとぎ話に出てくる妖精のような銀髪碧眼の美少女と先ほどから一心不乱に本を読んでいる、長い髪を両端で小さく結んだ少女が座っている。
前者の二人はお察ししてくれた人もいるだろうが、俺がこの教室に入ってきたときにペンキまみれになっていた二人だ。
あのあとロリっ子が俺の存在に気づき、
「お前が魔王の幹部か……! 私の力の前でひれ伏すがよい!」
とか言って襲い掛かろうとしてきたが、司先生に呼ばれてきたことを伝えると
「ああ、あなたが……」
とぶつぶつ言いながら、まだバケツを頭にかぶったまま
「ねえ、なるみ! なんか引っかかっててこれ頭から外れないんですけど! 今私どうなっている?」
とギャーギャー言ってる少女の手を引いて教室から出て行った。
その後しばらくすると体操服に着替えた二人は銀髪碧眼美少女とツインテ少女を連れて戻ってきたのだ。
「え、えっと。なんか流れでこうして今座ってますけど、俺司先生に呼ばれてきたんですが……司先生は?」
そうだ、俺は早く司先生との用事を済ましてノートのデータを回収しなければならないのだ。
「あれ? あなたこの部に入部しに来たんじゃないの? 桜井先生が今日この教室に新入部員が来るって聞いたのだけど……」
……なんか嫌な予感がするぞ
「ち、違いますよ! 俺は司先生になんかのテストプレイを頼まれただけで――――――」
「ならうちの新入部員だわ!! なーんだ驚かせないでちょうだい。新入部員でも何でもないよくわからない人に席を進めて恥ずかし思いをするところだったじゃない!」
なんだ?! どういうことだ? 新入部員? わけがわからない……
「え……ど、どういうことです? だからおれは新入部員じゃ……」
ガラガラガラ――――――
「おっ。黒宮、もう来ていたか!」
テストプレイと新入部員という単語がが全くつながらず、俺は頭を抱えていると急にドアが開き司先生が姿を現した。
「司先生! どういうことですか?! 俺が新入部員とか何とか……」
俺は事情を聴くため先生に歩み寄る。
「あ、言ってなかったっけ? 私はテストプレイをこの部――――空想研究部の部員に頼んだんだ。だから、お前にテストプレイを頼むにあたってこの部に入部してもらう。というかもう入部届は提出済みだがな」
今さらっとこの先生すごいこと言ったぞ。え、なに、入部届? もうだした?
「まあ、お前がどうしてもいやだっていうんならノートが拡散されるだけだがな」
くっ…………逆らえない
「そう心配するな。きっと楽しむことができるだろうから」
なにをどうあがいても俺はこの部に入部するほか道はないようだ。
ならば先生のこの言葉を信じてみようかと思わなくもない。
さっそく本題に移るとする。
「で、俺たちは何のテストをすればいいんですか?」
「その前に、お前たち互いに自己紹介はすんだのか?」
先生はさっきから妙にそわそわしている後ろの四人に問いかけた。
新入部員が入るのが待ち遠しいのだろう。
本意ではないし、何の部活かもわからないが、これからの部活仲間だ。自己紹介が必要なのは当たり前か。
それに俺が勝手に入部させられたことに対してここの部員達には何の非もないわけだし。
「俺は二年の黒宮夕希です。なんか先生に勝手に入部させられましたけど、まあこれから部活仲間としてよろしくお願いします」
俺はそうありきたりな自己紹介をした。
「そうだわ! 自己紹介!」
俺の自己紹介を受けてバケツの少女は、バンッと音を立て威勢よく席を立ち俺の方を向く。
その際、コロン……とむなしい音を立てて床にバケツが転がる。
「そうね……まずは柚葉からね!」
「え、私からですか? ま、いいですケド。えっと、私は一年の音無柚葉って言います。気軽に柚葉って呼んでください。よろしくお願いします、先輩」
最初に指名された銀髪碧眼の美少女は俺に向かってそう名乗る。
続けて、
「私……三日月白奈。三年です」
ずっと読書をしていたツインテ少女が本を閉じボソッと名乗る。とすぐに本を開きまた本を読み始めた。
せ、先輩だと?! ずっと一年生かと思ってた。
「次は私です!」
白奈先輩の自己紹介が終わると同時に、バッと立ち上がり、次は例のロリっ子が名乗り始める。
「我が名は成瀬なるみ! この右目に宿りし能力により貴様がこの部室に来、これから行動を共にすることはすでに知っているのだが、まあよろしくとだけ言っておこうか…………………」
「…………………………………………………………」
…………あぁ……こいつはあれだな。痛い子だな。そっとしといてやるに限るな。
「なんですかその目は! どうして初対面なのに私はそんなかわいそうな人を見る目で見られてるんでしょうか?! 説明してもらいましょうか!!」
おっと、いけないいけない。考えていたことが顔に出てしまっていたらしいな。
なるみからの追及を受けていると、
「最後は私ね!!」
と、先ほどからしゃべる際にいちいち動きの大きいバケツの少女が、腰に手を当て偉そうに、
「私の名前は柊木美咲! 後輩、先輩、同級生、先生みんなに慕われる二年生よ!」
とこれまたたいそうなことを言い始めた。
「あれ、こないだ先輩、教室の花瓶を割って怒られてませんでしたっけ?」
だが、柚葉の一言によってすぐさま否定される。
「それは水を変えようとしたら!――――――――――――」
「手が滑って落としてしまったのか?」
「床に蜘蛛が這っていたから投げつけて退治してやったの! イチコロだったわ!」
「…………………………………………………………」
こいつはあれだな。ただのバカだ。
「な、なんで私にもそんなかわいそうな人を見る目を向けるの?! だって蜘蛛苦手なんだもの仕方ないじゃない!」
やばいぞ。厨二ロリっ子、あほガールとこの部活変人が多すぎる!
白奈先輩はずっと本読んでるし…
唯一まともそうなのは柚葉くらいか。頑張って二人でこの部を切り盛りしていかないと…………
ん? というかこの部活って何するんだ?
俺は今後のために交流を深めるべく、さっそく柚葉に質問してみる。
「ね、ねえ柚葉。テストプレイの前に簡単にこの部活について教えて欲しいんだけど――――――――――――」
「ぐへへへ、やっぱりこのシチュだとキョーマとミチルのカプが最強だわ。……ん?どうしましたか黒宮先輩。 あ、先輩もしかして男同士はダメな口ですか。大丈夫です! 私、BLも百合も両方いける口ですから!!」
柚葉は自分のカバンから取り出した男同士がいちゃついてる絵が描かれた薄い本を机の上で広げ、俺にそう言ってくる。
…………………………………ぜ、全滅だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
どうしよう! 変人が多いというか変人しかいないよこの部活! 頼みの綱である柚葉までもが腐女子であるとわかった今、この部活内でまともなのは俺しかいない!
あ、そうだ! 顧問! 顧問の先生はきっと――――――――――――
「あ、ちなみに顧問は私だから」
俺の希望は司先生がその一言で断ち切られる。
まぁ、そうでしょうね!!!!!!
少し期待はしたものの冷静に考えるとこの部の顧問を引き受ける先生などこの人以外にはいないだろう。
まだテストプレイという大きな不安が残っているにもかかわらず、どっと疲れがわいてくる。
あぁ、俺この部活やっていけるのかな…………




