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第八十六話 崖の上のルカ



再会は、雨の日だった。

朝から空が低く、霧と雨が混ざって五十メートル先がぼんやりしている。視界の悪い中を進んでいると、昼過ぎに断崖絶壁の続く海岸線が見えた。

ウルが崖の上を見上げて、急に動きを止めた。

「……いる」

掠れた声だった。崖の上の一番高い岩の頂上に、人が立っていた。パステルカラーのカーディガンが、雨に濡れて灰色がかっている。それでも分かった。ルカだ。

上陸できる場所を探して砂浜に船を乗り上げ、全員で崖を登った。岩の隙間を縫うように続く細い踏み跡を、一列になって慎重に登った。雨で岩が濡れていて、何度か足が滑った。ノアが何も言わずに後ろから支えてくれた。

崖の上に出た瞬間、海から吹き上げてくる風が雨粒を横から叩きつけてきた。髪が顔に貼りついた。その中を、ルカが立っていた。私たちが登ってきた方向を、最初から分かっていたかのように、こちらを向いて立っていた。

一年ぶりだった。

ルカは変わっていた。以前より少しだけ痩せて、カーディガンの端がさらに解けていた。でも一番変わっていたのは、その目だった。逃げていなかった。

「……来ちゃったんだ、結衣」

「来たよ」

「諦めない人間って、本当に鬱陶しいね。世界を切り離そうとしてるのに、糸が追いかけてくる」

「鬱陶しくてごめん」

「謝るな。もっと腹が立つ」

「切ることで楽になると思っていた、って書いたよね。廃工房の壁に。過去形だったから、今は違うのかと思って」

ルカの目が、わずかに揺れた。

「……今も、よく分からない。楽になったかどうかも分からない。切り続けて、また切って、でも繋がりたいという気持ちが消えない。……永遠に終わらない気がする」

その言葉が、胸に刺さった。刺さって、抜けなかった。

私の少し後ろで、ウルが何かを堪えるように息を止めた。アルが静かに立っている。ノアが腕を組んで、ルカを見ていた。レオネルは剣に触れず、ただ前を向いていた。

私は一歩、ルカに近づいた。崖の上の風が、また一段強くなった。

岩陰に全員で入り込んで、雨をしのいだ。七人が入ると肩が触れ合う。私の両脇に、いつの間にかウルとアルが収まっていた。

「狭い」

「ルカさんがいるから仕方ない」とウルが言った。

「そういう意味で言ったんじゃない」

「でも主様、こっちの方が温かいでしょ」

確かに温かかった。反論できなかった。


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