第八十五話 レオネルが組織の「剣」を折る
三度目の接触は、夜中の二時頃だった。
当直のウルが気配に気づき、全員を起こした。海上に武装した船が三隻。本格的な戦闘を想定した布陣だ。
甲板に出ると、相手側の船から声が飛んできた。核を渡せ、さすれば命は取らぬ、と。
レオネルが前に出た。剣は抜いていなかった。
「お前たちに聞きたいことがある。お前たちはその信念のために、今ここで人を傷つけることをいとわないのか。来るための理由が既に感情だ。その矛盾に、気づいているか」
長い沈黙の後、相手側の船が距離を取り始めた。一隻だけ残って、仮面を外した中年の女性が前に出てきた。
「……あなたは、騎士ですか」「かつてはそうでした。今は一人の人間です」
「感情があるから、あんなことが言えるんですね」
女性は短く笑って去っていった。
レオネルが剣の柄から手を離した。ずっと触れていたのだと、その時初めて気づいた。夜の海が静かに広がっていた。
当直でない全員が甲板に残った。なんとなく、すぐには船室に戻れない夜だった。
ウルがレオネルの隣に来て言った。
「……かっこよかった」
レオネルが、明らかに困惑した。
「何が」
「今の。剣を抜かないで話してたとこ。騎士って剣で戦うものだと思ってたけど、言葉でも戦えるんだって思って」
「……大げさだ」
「大げさじゃない。僕、正直に言うと、最初はレオネルさんのことちょっと怖かった。真面目すぎて近寄りにくくて。でも今はそうじゃないから、言えた」
レオネルが黙った。しばらく海を見ていた。
「……お前は、変わったな」
「レオネルさんも変わりましたよ」
「そうか」
「うん。最初より、笑うようになった」
レオネルが「そんなことはない」と言った。でも、否定の言葉の割に、その顔は穏やかだった。
アルが私の隣に来た。
「……ウルは、ああいうことを真っ直ぐ言えますね」
「あなたも、思ってたでしょ」
「……かっこよかった、とは思いました」
「レオネルさんに言ってあげて」
「……今度機会があれば」
「今じゃないの」
「タイミングを見極めています」
私は笑った。アルのタイミングの見極めは、たいていウルに先を越される。でも、それでいいと思っていた。
夜の海が、星を映していた。レオネルの横顔が、穏やかだった。
(第十七章 完)




