第八十三話 ウルとアルが「囮」になる
ほどき屋の偵察船と鉢合わせてから五日後、補給のために立ち寄った港町で二度目の接触があった。
宿に荷物を運び込んでいる時、アルが私の袖を引いた。宿の向かいの建物の陰に、ほどき屋の紋章の人影が複数いる。先回りされていた。
部屋に入って状況を確認した。ウルが少しの間黙って、それから顔を上げた。
「僕たちが囮になる。僕とアルが表に出て向こうの注意を引く。その間に主様とノアとレオネルが船に戻る」
レオネルが「危険すぎる」と言った。ウルが真っ直ぐに返した。
「僕たちは主様の守護者として作られた。守護者っていうのは、守るために危険に飛び込むことができる存在だ。……僕は、主様のために動ける自分でいたい」
アルが「戦闘を避けて逃げながら引き付ける。それで十分です」と補足した。
レオネルが「三十分だ」と言った。二人が頷いた。
「行ってきます、主様」
ウルが言った。それだけだった。その言葉の軽さが、逆に心強かった。
二人が部屋を出た。
私たちは裏口から港へ向かった。囮の作戦は機能していた。港に着いて船に乗り込み、三十分を待った。
二十七分で、ウルとアルが走ってきた。ウルが袖を少し焦がしていたが、他に怪我はない。
「漁師のおじさんに頼んで、荷揚げ用の網の中に隠れさせてもらった」とウルが笑いながら言った。
レオネルが深く息を吐いた。
船が港を出ると、ウルが私に駆け寄ってきた。
「主様、心配した?」
「した」
「どのくらい?」
「かなり」
ウルがぱっと表情を明るくした。
「じゃあ、ぎゅってしていい?」
「……短くなら」
ウルが勢いよく抱きついてきた。力が強い。本当に心配だったんだということが、その力から伝わった。すぐに離れたが、しばらくの間、肩のあたりがまだ温かかった。
アルが隣に来た。
「私も、心配させてしまいました」
「した。アルも」
「……申し訳ありません」
「謝らなくていい。ありがとう、の方が合ってる」
アルが少し目を丸くした。それから、静かに「ありがとうございました」と言い直した。ウルが「アル素直じゃん」と言い、アルが「うるさい」と返した。
レオネルが二人の後ろ姿を見ながら、私の隣に立った。
「……あの二人は、本当に成長した」
「そうですね」
「最初に会った時は、もっとぎこちなかった。今は……仲間だな、と思う」
「レオネルさんも仲間ですよ」
レオネルが少し間を置いて、「そうだな」と言った。その声が、珍しく柔らかかった。




