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第八十二話 「ほどき屋」の首領と、ある記憶


捕縛した三人組から得たもう一つの情報は、首領に関するものだった。

術者は「感情によって全てを失った人間だ」と聞いている、と若い男が言った。それ以上は知らないと口を閉じた。

その夜、アルに持ち物の解析を頼んだ。翌朝、アルが読み解いた内容を話してくれた。

首領はかつて医師だった。腕が良く、多くの患者を救っていた。しかしある夜、理不尽な言いがかりをつけられて言い争っている間に、愛する人の容態が急変した。駆けつけた時には、もう遅かった。

「感情がなければ言い争わなかった。感情がなければあの人は死ななかった。……首領はそう結論づけた。それが組織の出発点です」

「首領の傷は、本物だね」

「ええ。だからこそ、難しい」

アルが眼鏡を外して目を閉じた。機織りの島でカナに言われたことが、彼の中に根を張りつつある。

「でも、感情がなければあの人は死ななかった、という結論は、半分は違います。感情がなければ、その人を愛することもなかった。愛することがなければ、失った時の絶望も生まれなかった。首領は愛した人を失った痛みを消したかっただけで、愛すること自体を手放したかったわけではないはずです」

アルの言葉は論理的だったけれど、今日は冷たくなかった。

「首領に会えたら、そのことを話せるかな」

「話す価値はあると思います」

アルは眼鏡を戻した。その目が、澄んでいた。

朝食の時間になった。ウルが私の隣に座って、器用にパンをちぎりながら言った。

「アルの話、すごく難しかった」

「どこが?」

「全部。でも、感情があるから好きになれるってとこだけは分かった」

「それが一番大事なところだよ」

「そう? じゃあ分かってよかった」

ウルが満足そうに頷いた。アルが「ウルにしては正確に理解していますね」と言った。ウルが「にしては、ってどういう意味?」と言い、アルが「字義通りの意味です」と返した。

レオネルが、黙って二人のやり取りを聞いていた。その口の端が、ほんのわずかだが上がっていた。気づいていないふりをした。


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