表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/16

第八話 鳴り止まない称賛と、影の足音


「本当だ! さっきの女の子のウサギ、まるで生きてるみたいに動いてたぞ!」

「ジョンの店が再開したっていうのは、デマじゃなかったんだ!」

 店の扉が開いたまま、なだれ込んできた群衆の声が店内に響き渡る。ついさっきまで静かだった『ジョンの人形店』は、瞬く間に熱狂の渦に巻き込まれた。カウンター越しに差し出されるのは、長年放置されてボロボロになったテディベアや、糸が切れて動かなくなったマリオネットたち。

「私のこれも直してくれ! お願いだ!」

「娘の誕生日に買ったこの子が、魔力切れで眠ったままなんだ。頼む、助けてくれ!」

 必死な形相の人々に気圧され、私は思わず一歩後ずさった。現実世界では、私の作品は見向きもされず、ただの在庫として棚の隅で埃を被っていた。それなのに、ここでは私の技術が、奇跡の杖か何かのように求められている。

「……主様、下がっていて。僕が整理するから」

 ウルが不機嫌そうに前に出た。黄金の瞳を鋭く光らせ、詰め寄る大人たちを威圧する。

「順番を守ってよね。主様は一人しかいないんだ。無作法な奴は、僕が綿にしちゃうよ?」

「ウル、言い方が物騒です。……皆様、落ち着いてください。本日の受付はここまでとさせていただきます」

 アルが冷静に割り込み、流れるような動作で客たちを整列させていく。二人の完璧なサポートのおかげで、混乱していた店内はどうにかお店としての体裁を取り戻した。

 そこからは、夢のような時間だった。

 私は次々と持ち込まれる人形たちに、銀の針を通していく。魔力が枯渇して色が抜けてしまった犬のぬいぐるみには、裏庭で採れた陽光の糸を。関節が焼き付いて動かないブリキの兵隊には、叔父の遺した清流の潤滑油を一滴。私が針を動かすたびに、人形たちは息を吹き返し、持ち主の腕の中で愛らしく跳ねた。

「……ありがとう」

「魔法みたいだ……」

 あちこちで上がる歓喜の声と、温かな涙。一針ごとに心を込める私の重い仕事が、ここでは誰かの救いに変わっていく。その手応えが、私の乾いていた心をじわりと潤していった。

 しかし、そんな光景を冷ややかな目で見つめる男たちがいた。

 店の外、通りを隔てた場所に、豪奢な刺繍の入った外套を羽織った男たちが立っている。その胸元には、この街の職人を統括する『人形職人ギルド・アイアンニードル』の紋章が輝いていた。

「……間違いない。あの銀の針、そしてあの術式……。行方不明だったジョンの秘術だ」

 リーダー格の男が、忌々しげに吐き捨てた。太い眉の下、計算高そうな目が細くなる。

「ギルドの許可なく営業し、挙句に市場の相場を無視した奇跡を見せびらかすとは。小娘が、身の程を知らん」

「いかがいたしますか、支部長?」

「ふん、放っておけ。どうせジョンの店だ。まともな素材など残っていないはず。……近いうちに、思い知らせてやる。この街の人形の命を握っているのは、我々ギルドだということをな」

 男たちは、影に溶けるようにその場を去った。

 店内では、最後のお客を送り出した私が、心地よい疲労感の中で椅子に座り込んでいた。

「主様、お疲れ様です。……ほら、ご褒美の特製クッキーですよ」

 ウルが私の膝に頭を乗せ、口元にクッキーを運んでくれる。

「ふふ、ありがとう、ウル。……でも、なんだか視線を感じたような気がして」

「……気付かれましたか」

 アルが窓の外を見つめ、静かにカーテンを閉めた。

「主様。光が強ければ、影もまた深くなるものです。……でも、心配はいりません。何が来ようと、我々が貴女の針を守り抜きますから」

 アルの言葉に、私はわずかな不安を感じながらも、二人の温もりに身を委ねた。私の新しい居場所を脅かす存在が、すぐ近くまで来ていることに、まだ私は気付いていなかった。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ