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第七十九話 叔父が封印した理由



遺跡の外に出ると、すっかり日が落ちていた。

夕食の後、私は叔父の冊子を読み返した。叔父が島を去る直前のページに、今日の発見と照らし合わせると新しい意味を持つ記述があった。

「紡ぐことは、完成させることだ。何かを永続させるためには、永続させたいと思うほど強く愛しているものが必要だ。愛情を素材にして、初めて紡ぐことができる」

その下に、別の日のインクで続いていた。

「結衣に会った。あの子は生きている。そして笑っていた。ブラック工房で傷つきながらも、諦めずに針を持っている。私が探していた素材は、あの子の中にある。だが、それを使うことは、私にはできない」

読んでいた手が、止まった。

なぜできなかったのか。次のページに答えがあった。

「あの子の気持ちを素材にするということは、変化させないということだ。諦めない結衣を、永遠に諦めないままにするということだ。それは、あの子から成長を奪うことになる。私はそれができなかった」

胸の奥が、静かに揺れた。

叔父は私を素材にすることを拒んだ。完璧な術式より、変わり続ける私を選んだ。

アルが私の横に来て、静かに言った。

「叔父様は、術式を完成させることより、結衣様が自分で辿り着くことを選んだんです。仲間と共に自分で辿り着く。叔父様が設計したのは、そういう道筋だったんだと思います」

ウルが天井を見上げながら言った。「じゃあ僕たちは、主様が辿り着くための……」

「一緒に歩く人よ。足場じゃなくて」

ウルの顔が、ゆっくりと緩んだ。今夜の彼は、ただ笑っていた。

その時、レオネルが冊子を指差した。

「……少し、見せてもらえるか」

意外だった。レオネルが叔父の記録に興味を持つとは思っていなかった。でも断る理由もなく、手渡した。

レオネルはしばらく、黙って読んでいた。途中のページで、少し目を細めた。

「……ジョンは、騎士に近い人間だな」

「騎士?」

「守るために、自分の望みを手放した。それは騎士の動き方だ。……私も、似たようなことをしてきた気がして」

レオネルが静かに冊子を返した。その目に、何かが揺れていた。

ウルが「レオネルさんも、誰かを守るために色々捨ててきたの?」と聞いた。

「……まあ、そういうことだ」

「それって、後悔してる?」

「していない。……ただ、この冊子を書いた人間が、最後にどうなったかを知っているから、少し考えた」

重い沈黙が落ちた。叔父は守るために手放して、最終的に別の次元へ消えた。レオネルはその事実を、自分のこととして読んだのだ。

「レオネルさんは消えないでください」

ウルが、はっきり言った。

レオネルが少し目を丸くした。それから、ふっと口の端を上げた。

「分かった。消えない」

「約束ね」

「ああ」

船室が、静かに温かくなった。光の柱が呼吸を続けていた。


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