第七十一話 ルカが切り離したもの
島を発つ日の朝、シズが地図を一枚持ってきた。
羊皮紙に描かれた古い地図で、境界の海を中心に周辺の島や大陸の沿岸が記されていた。シズの指が、いくつかの場所を順番に叩いた。ルカが通過したと確認されている五箇所だ。
五つの点を繋ぐと、北東の方向に向かっている。叔父の冊子が「第三の術式の地」と書いていた場所と一致する。ルカが向かっているのは、そこだ。
アルが「五箇所の切断点を結ぶと、一つの術式の形になります。単独の破壊ではなく、全体として何かを解こうとしている」と言った。
「でも、ルカが切ったのは腐敗した部分だけだとシズさんは思いますか」
「わしの目にはそう見える。あの子が切ったのは全部、魔力の流れが滞っていた場所だ。詰まった水路を切り開くような切り方をしている」
外科手術に近い。破壊ではなく、治療だ。ルカなりの。
島を出る時、シズが桟橋に立って見送った。手を振ることも頷くこともなく、ただ見ていた。それがこの老婆の別れの仕方なのだと分かった。
カナが桟橋の端に走ってきて、小さく手を振った。その手が、今日は血の色をしていた。私は手を振り返した。
船が動き出した後、ウルがずっと島を見ていた。帆柱の横に立って、島が見えなくなるまで。
「未練あるの?」
と聞くと、ウルが振り返って「少しだけ」と言った。
「でも、行く方が大事だから」
その言葉が、少し前のウルとは違った。以前なら「主様が行くなら行く」と言った。今は自分で「行く方が大事」と言う。
「ウル、成長したね」
「え、そう?」
「うん」
ウルが少し照れたように頭を掻いた。アルが後ろから「珍しいことを言いますね、結衣様」と来た。
「珍しい?」
「ウルを褒めるのが、です」
「いつも褒めてるけど」
「え、そうなの!?」とウルが言って、「気づいていなかったんですか」とアルが呆れた。
水平線に、島の影がまだ残っていた。私はもう一度だけ振り返って、それから前を向いた。




