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第六十五話 ルカの痕跡、消えた織機



四日目の夕方、島の北側にある旧工房跡を見に行った。

ウルが島を歩き回っている時に見つけた場所だ。彼は「なんか変な匂いがする」と言って木立の中へ入っていった。変な匂い、というのは焦げた魔力の残滓のことで、ウルの感覚はそういう場所に対して妙に鋭い。

石造りの小屋の中に、三台の織機が残っていた。そのうち一台だけ、フレームが上から下まで一直線に切り裂かれていた。切断面の繊維が、縫い目を逆にほどいたように、整然と分離している。ハサミの跡だ。

私の喉が、ひとりでに締まった。

「ルカ……」

ウルが低い声で呟いた。怒りと、心配と、会いたいという気持ちが全部混ざった顔だ。

アルの調べで、切断面は一週間以内の新しいものと分かった。しかもルカは壊す前に、この織機で何かを織っていた跡が残っている。糸の張り方に迷いがある。何度もやり直した跡がある。

シズが来て言った。「あの子は切ることでしか表現できないでいる。でも、ここで一度織ろうとした。それだけで十分だ」。残った経糸の色、薄い灰色とほんのわずかな橙色から、誰かのために作ろうとして、怖くて完成させられなかったのだと分かった。

誰のために、は、言葉にしなくても全員に伝わっていた。

帰り道は無言だった。夕陽が沈みかけた島の道を、全員で歩いた。私の後ろをウルとアルが歩いていた。

宿に戻って夕食を済ませた後、私が一人で縁側に出ると、しばらくしてウルが来た。

「一人にしといた方がよかった?」

「ううん。来てよかった」

ウルが隣に座った。今日は少し間を置いてから、静かに聞いた。

「ルカのこと、会えると思う?」

「会えると思う。……あの痕跡を見て、そう思った。完全に逃げてる人は、跡を残さない」

「僕も同じことを思った」

ウルが膝を抱えた。子どもみたいな座り方だ。でも今の彼の顔は、子どもではなかった。

「僕、ルカのことちゃんと考えたことなかったかもしれない。あいつが来た時は、主様を取られるかと思ってそれで頭いっぱいだったから」

「今は?」

「今は……心配。純粋に。あいつ、誰かと一緒にいることを、ずっと怖がってるんだなって思ったら」

夜の島の風が、潮の匂いを運んできた。

アルが縁側に出てきて、ウルの反対側に座った。

「私も同じことを考えていました」

「聞いてたの?」

「縁側の扉の向こうで立ってました」

「それを言う?」

「正直に言った方がいいと思って」

私は二人に挟まれて、夜の海を見ていた。ルカが何かを作ろうとして、作れなかった織機。その痕跡が、今夜の私には不思議と温かく感じられた。作れなかったということは、まだ諦めていないということだから。


(第十三章 完)


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