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第六十三話 叔父ジョンの「足跡」



島に滞在して二日目の午後、シズが私一人を呼んだ。

案内されたのは建物の裏手にある古い石蔵だった。扉を開けると、埃と古い紙と、かすかに蜂蜜の匂いが混ざって流れ出てきた。蜂蜜の匂いに、胸がきゅっとなった。叔父の店の匂いだ。

シズに言われた通り棚を探すと、他のものより明らかに新しい、薄い冊子が見つかった。右下の角に、小さな蜂蜜色の染みがある。叔父がよく作業中に蜂蜜茶を引っくり返していたのを、私は知っていた。

手が震えた。叔父の筆跡だった。

読み進めるうちに、胸の奥が熱くなっていく。叔父はここで三年間を過ごしていた。そして、あるページに一行だけ大きな字で書かれた箇所があった。

「世界には第三の術式がある。縫うでも織るでもない、第三の手の動き。わしはまだその名前を知らない」

その下に、小さな文字で続いていた。

「結衣に伝えたい。でも、自分で触れなければ意味がないものは、言葉にすると嘘になる。だから、ここに置いておく。いつかこの子がここへ来た時のために」

(……ずるいよ、おじさん。こんな形で会いに来るなんて)

シズが「ジョンはお前を一度見て、安心した顔で戻ってきた」と言った。叔父が私の存在を確かめて、ようやく次へ進む覚悟ができた。その事実が、冊子の中の蜂蜜の染みと重なって、どうしようもなく胸に沁みた。

蔵から出ると、外でウルが待っていた。

シズ以外には場所を教えていなかったのに、なぜかそこにいた。石段に腰かけて、草をいじりながら待っていた。

「……なんでここにいるの」

「なんとなく、主様が泣いて出てくる気がしたから」

私は泣いていなかった。でも、もう少しで泣くところだったのは本当だ。どうして分かるのかと思いながら、隣に座った。

ウルが何も言わずに、私の肩に頭を乗せてきた。いつもの、子犬みたいな甘え方だ。重い。でも今日は、その重さが有難かった。

「叔父さんのこと、好きだったんだね」

「うん。……ずっと会いたかった」

「そっか」

ウルはそれだけ言って、また黙った。何かを言おうとして、でも言葉にしなかった。その沈黙の選び方が、以前のウルとは違った。以前の彼なら、何かを言って慰めようとしたはずだ。今は、ただそこにいることを選んでいる。

夕方になって、アルが迎えに来た。

「もうすぐ夕食です。……叔父様の記録は、読めましたか」

「読めた」

「そうですか」

アルが私の反対側に腰を下ろした。ウルが「遅い」と言った。アルが「連絡が来なかったので」と言った。

「来るって言ってなかったじゃない」

「言わなくても来るのが当然です」

ウルと私が顔を見合わせた。アルが、少し照れたように眼鏡を押し上げた。夕陽が石蔵の壁を橙色に染めていた。


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