第五十五話:出航、パッチワークの帆を揚げて(第1シーズン完結)
ルカが去った後、王都には深い傷跡と、重い沈黙が残された。
ジョンの人形店のカウンターには、ルカがわざと残していったのか、彼の愛用していたハサミの片刃だけが突き刺さっている。
「……追うわよ。ルカを、連れ戻しに」
私の言葉に、怪我を負いながらも立ち上がったウルとアル、そしてノアが力強く頷いた。
レオネルもまた、騎士団の証であるマントを脱ぎ捨て、一人の旅人として剣を背負っている。
「彼は『切る』ことで救おうとした。なら私は、世界の果てまで追いかけてでも、彼をもう一度『縫い合わせ』てみせる」
一ヶ月後。
王都の港には、一隻の小さな魔導船が浮かんでいた。
その帆は、街の人々から贈られた色とりどりの布を、私が一針ずつ心を込めて繋ぎ合わせた「パッチワークの帆」だ。
「準備はいい? みんな」
「いつでもいけます、主様。……ルカの野郎、捕まえたら思い切り殴ってやりますから!」
ウルが拳を固める。
「未知の海域です。計算外の事態も多いでしょうが……主様の針があれば、乗り越えられます」
アルが冷静に海図を広げた。
私は船の舳先に立ち、遠い水平線を見つめた。
そこには、ルカが向かった「機織りの島」、そして叔父ジョンの真実が待っている。
「さあ……新しい物語を、縫い始めましょう!」
パッチワークの帆が風を孕み、船がゆっくりと動き出す。
異世界に召喚された一人の裁縫師と、彼女を愛する守護者たちの、本当の「世界を巡る旅」がいま、幕を開けた。
第1シーズン:完結
第2シーズン:『境界の海と、断絶のハサミ編』へ続く――




