第五十四話:断絶のハサミ vs 希望の針
「……本気なのね、ルカ」
私が銀の針を構えると、ルカは悲しげに、けれど残酷に目を細めた。
「本気だよ。結衣、君が縫えば縫うほど、この世界は『停滞』という名の枷に縛られる。腐った枝は切り落とさなきゃ、幹まで枯れちゃうんだ」
ルカがハサミを虚空で一閃させる。
「――世界解体」
その瞬間、私とウルたちの間に流れていた魔力のパスが、目に見える「糸」となって断ち切られた。
「がはっ……!? 魔力が、繋がらない……!」
ウルが胸を押さえて膝をつく。アルの眼鏡がひび割れ、ノアの影が霧散していく。ルカの力は、単なる物理的な切断ではない。人と人、心と心を繋ぐ「概念」そのものを切り離す、究極の拒絶だ。
「やめて、ルカ! 二人はあなたの弟みたいなものでしょう!?」
「弟だからだよ。こんな不完全な世界で、誰かの所有物として生き続けるなんて、可哀想じゃないか。……自由にしてあげるよ。この世界との繋がりを、全部切ってね」
ルカのハサミが、次は私の喉元を狙って振り下ろされる。
私は反射的に、指先に残る全魔力を一本の糸に変え、ハサミの刃を絡めとった。
「……切らせない。この糸は、叔父様がくれた……みんなと出会わせてくれた、大切な縁なんだから!」
キィィィィィン! と、金属同士が軋むような悲鳴が響く。
針とハサミ。
繋ぎ止めたい私の願いと、すべてを解き放とうとするルカの虚無が、火花を散らして衝突する。
「……あはは、やっぱり結衣の縫い目は硬いね。でも、いつまで持つかな?」
ルカが力を込めると、私の銀の針にピキリと亀裂が入った。
「主様……逃げ……て……」
床に伏したウルが手を伸ばすが、ルカが放つ「断絶」の余波が壁となって彼らを拒む。
「……さよなら、結衣。次に会う時は、君を縛るその糸も、僕が全部綺麗に切ってあげる」
ルカは不敵な笑みを浮かべたまま、自らの足元の空間を切り裂いた。
漆黒の亀裂が彼を飲み込み、謎の組織の者たちと共に、彼は夜の闇の中へと消えていった。




