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第十四話 王の影、そして失われる「何か」


 巨神人形『アイギス』の再起動は、国中を揺るがす奇跡として讃えられた。

 その夜、王宮の広間では私の功績を称える盛大な祝宴が催されていた。シャンデリアの光がクリスタルのグラスに反射し、色とりどりのドレスを纏った貴族たちが、私を遠巻きに、あるいは羨望の眼差しで見つめている。

「聖針職人、結衣殿。貴殿の針は、この国の止まっていた時間を動かした。心から感謝する」

 玉座の前で、国王が厳かに告げた。周囲からは割れんばかりの拍手が沸き起こる。かつてブラック工房で「重い」と切り捨てられた私のこだわりが、今、一国の王に認められ、最高の栄誉として結実した瞬間だった。

 けれど、私の心はその熱狂の中に浸りきることができなかった。

 隣に控えるウルとアルの表情も、どこか硬い。

「主様、顔色が悪いですよ。……やっぱり、あのデカブツを直すのに、魔力を使いすぎちゃったんだ」

 ウルが心配そうに私の手を握る。その掌はいつも通り温かいはずなのに、なぜか今の私には、少しだけ遠い場所の出来事のように感じられた。

「……ねえ、アル。私、何か忘れてるかな」

「忘れている、とは?」

「分からない。でも、胸のあたりが……ひと針分だけ、ぷつんと糸が切れたみたいに、軽すぎるの」

 宴が最高潮に達した頃、国王がふと私を近くに呼び寄せ、誰にも聞こえないような低い声で囁いた。

「結衣殿。……君の瞳は、今もこの宴の灯りが見えているかな」

「え……? はい、もちろんです。こんなに綺麗で……」

「そうか。……だが、気をつけたまえ。何かを完璧に創り、あるいは修復するということは、この世界の理から『自分』という素材を差し出すことでもある。ジョンの瞳も、最後にはこの世界の景色を映さなくなっていた」

 国王の言葉に、背筋が凍るような感覚を覚えた。

 私は無意識に、自分の左胸に手を当てた。確かに、アイギスを直した瞬間、私は自分の中にある一番大切で、一番痛かった記憶を、あの子の心臓を温めるための燃料として差し出した感覚があった。それが何の記憶だったのか、もう思い出せない。

 祝宴の華やかな音楽が、不意に耳の奥で歪んで聞こえた。

「……帰りたい。お店に、私たちの裏庭に」

「ええ、結衣様。帰りましょう。ここは、貴女には眩しすぎます」

 アルが私の肩を抱き、ウルが周囲の視線を遮るように前に立つ。

 王宮を出る際、私は振り返って巨神人形が鎮座する格納庫を見た。アイギスは確かに力強く、温かく蘇っていた。けれど、その代わりに失われた私の一部は、二度と戻ってこない。

 馬車が夜の闇を駆ける中、私は銀の針を握りしめた。職人として世界を救うたびに、私は私でなくなっていくのではないか。そんな予感が、暗い影となって心に染み込んでいった。


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