第百九話 「第三の術式」の残滓が示す場所
王都に戻って十日目の夜、銀の針が光った。
深夜に目が覚めて、なんとなく針を見ると、橙色の中に青い光が混じっていた。嵐の夜に刻まれた海の記憶と、遺跡で感じた第三の術式の残滓が、重なるように共鳴していた。
(何かを指している)
地図を広げて、二つの記憶が示す方向を探した。北東の方角、境界の海の向こう。そこに、叔父の旅の最終目的地があるのかもしれない。
翌朝の朝食の時間に、地図を広げた。
「見てほしいものがある」
全員が集まった。針の光が示す場所を説明した。
「また旅ですか」とウルが言った。嫌そうな顔ではなかった。ただ確認しているだけの顔だった。
「叔父の旅の続きを辿るなら、そこへ行かないといけないかもしれない。でも、今すぐじゃない。準備が要る」
「準備って何が必要?」
「縫いながら織ることを、もっと安定してできるようになること。……島のカナとまた会う必要があるかもしれない」
「カナ!」とウルが顔を輝かせた。「また島に行けるの?」
「行くかもしれない、という話」
「でも行く可能性がある」
「ある」
「やった」
アルが「騒がないでください」と言い、でも手帳を取り出して何かを書き始めた。おそらく、次の旅の準備リストを作り始めている。
ノアが「俺も折り紙、上手くなってから行きたい」と言った。「カナに見せるの?」と聞くと、「……まあ」と言って目を逸らした。
レオネルが地図を見ながら言った。「この場所は、前回の遺跡よりさらに遠い」
「そうですね」
「では、今度こそちゃんと船の装備を整えた方がいい。前回は境界の海に不意を突かれた」
「レオネルさん、もう次の準備をしてる」
「当然だ。準備なしに出ることが、どれだけ危険か、この旅で学んだ」
ウルが「レオネルさん、旅が好きになった?」と聞いた。
レオネルが少し間を置いた。
「……嫌いではなくなった」
「それって好きってこと」
「嫌いではない、と言っている」
「同じだよ」
「違う」
ウルとレオネルが言い合いを始めた。アルが手帳から顔を上げずに「ウル、準備リストを手伝ってください」と言った。ウルが「えー今?」と言いながら椅子を引いてアルの隣に行った。
私は銀の針を手の中に収めた。青い光が、まだ静かに灯っていた。次の旅の予感が、そこにある。でも今はまだ、ここにいる。ここで、この仲間たちと、人形を直して、お茶を飲んで、笑っている。
それが今の私の、全部だった。




