第百八話 レオネルの「道場」と、騎士団の変化
王都に戻って一週間が経った頃、レオネルに来客があった。
若い男女が三人、店の前に来て、「レオネル師匠に会いたい」と言った。旅の間に彼が細々と続けていた剣術の弟子たちだという。旅に出ている間も、王都で自主練習を続けていたらしい。
レオネルが玄関に出ると、三人が揃って頭を下げた。
「……旅から戻られたと聞いて。ご無事でよかった」
レオネルは少し困った顔をしたが、「鍛錬は続けていたか」と問うた。三人が「はい」と答えた。
「では明後日、稽古を再開する」
それだけ言って、レオネルは中に戻ってきた。私とウルとアルが見ていた。
「レオネルさん、師匠って呼ばれてる」
ウルが感心したように言った。レオネルが「仕方なくだ」と言った。
「でも嬉しそう」
「……そんなことはない」
「耳が赤い」
「赤くない」
アルが「少し赤いですね」と言い、レオネルが「うるさい」と言った。
その夜、店を閉めた後で、レオネルが私に声をかけた。
「……少し、いいか」
「どうぞ」
二人で縁側に出た。夜の王都が、静かだった。遠くに灯りが見える。
「この旅で、私は遺すものを考えるようになった」
レオネルが静かに言った。
「以前は、ただ守ることだけを考えていた。守って、守って、それで終わりだと思っていた。でも今は、次に伝えることも大事だと思っている」
「剣術の弟子たちが、そういう気持ちにさせてくれたの?」
「それもある。……でも、この旅がそうさせた、と思っている」
レオネルが空を見た。星が出ていた。
「結衣殿」
「はい」
「一つ、聞いていいか」
「どうぞ」
「私は、この旅で役に立てたか」
真剣な問いだった。レオネルが私を見た。騎士の目ではなく、一人の人間の目だった。
「役に立てた。……それより、いてくれてよかった」
「違いはあるか」
「あります。役に立つは仕事の話。いてくれてよかったは、もっと大事な話」
レオネルが黙った。長い間、黙っていた。
それから、静かに言った。
「……ありがとう、結衣殿」
名前を呼ばれた。「殿」付きで、でもちゃんと名前で呼ばれた。それが嬉しかった。
「レオネルさんも、この店にいてください。ずっと」
「……居座る気はないが」
「いていいと言ってるんです」
レオネルが少し困った顔をして、それから「分かった」と言った。夜の空気が、少し温かかった。




