表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
102/110

第百二話 ルカが「残る」と言った理由



船に戻って二日目の朝、ルカが私たちを呼んだ。

甲板に全員が集まると、ルカは珍しく、全員の顔を順番に見た。それから言った。

「俺は一度、廃都市に残る。感情が解放された後の後始末を、俺がやる。切り散らかしたものを、少し片付けてから追いかける」

「一人で大丈夫?」

「大丈夫だ。これは俺がやるべきことだから」

ウルが少し前に出た。

「……いつ来る? 王都に」

「分からない。でも、行く。約束はできないけど、行く気はある」

「行く気がある、でいい」

ウルが即座に言った。驚いた。以前のウルなら、絶対に来てほしいと言った。今は「行く気がある、でいい」と言える。

アルが静かに言った。「お待ちしています」

ノアが「ジャムのパン、取っておく」と言った。ルカが「要らない」と言い、ノアが「取っておく」と繰り返した。

レオネルがルカの前に立った。

「……お前は、約束を守る人間か」

「さあ。自分でも分からない」

「正直だな」

「嘘をついてもしょうがない」

レオネルが少し間を置いてから言った。「ならば、守れると思う約束だけをしろ。……店に行く気がある、でいい。それは守れるか」

ルカが少し黙ってから、「守れる」と言った。

「ならばそれで十分だ」

レオネルが頷いた。ルカが、少し意外そうな顔をした。

別れの時、ルカは荷物を持って船縁に立った。私が近づくと、彼はちょっと視線を逸らした。

「結衣」

「なに」

「その……針、見せろ」

私が銀の針を出すと、ルカは欠けたハサミを取り出して、もう一度だけ針の先に当てた。橙色の光が灯る。ルカがその光をじっと見た。

「……まだ温かい」

「また来てくれたら、もっと温かくなるよ」

ルカが何も言わなかった。でも、ハサミをしまう前に一度だけ、針の光を指先で触れた。それがルカの、さよならの言い方だった。

「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

ルカが船縁を越えた。海に降りる小舟に乗り、廃都市の方へ向かっていった。ウルが最後まで手を振り続けた。ルカは振り返らなかった。でも、舟の速度が一度だけ、少し落ちた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ