第百一話 感情の墓場が、普通の廃都市になる朝
翌朝、廃都市は静かだった。
昨夜あれほど重くて、光に満ちていた空気が、今朝は普通の朝の空気になっていた。古い石造りの建物が、ただの廃墟として夜明けの光の中に立っている。感情の密度が消えた場所は、少し寂しい感じがした。でも、その寂しさは清潔な寂しさだ。長い間蓋をされていたものが、ちゃんと解放された後の、空っぽの清潔さだ。
首領は記憶を失い、一人の老人として街の人々に保護された。
私たちは廃都市を出た。全員、無事だった。
それだけで、十分だった。
帰りの道を歩きながら、ウルがずっと私の手を握っていた。行きは隣を歩いていた彼が、帰りは一歩前に出て、引っ張るように歩いた。
「ウル、早い」
「早くない。主様が遅い」
「疲れてるから遅いの」
ウルが立ち止まって、振り返った。
「……疲れてるなら、おぶる」
「おぶらなくていい」
「遠慮しなくていいよ」
「遠慮じゃなくて、歩ける」
「でも遅い」
「あなたが速すぎるの」
ウルが少し考えて、それから歩くのをゆっくりにした。私の隣に戻って、今度は手だけ繋いで歩いた。握る力が強かった。
アルが後ろから来た。
「結衣様、昨夜の件ですが、針に負荷がかかりすぎています。後で確認させてください」
「分かった」
「それと、顔色がまだ良くない。船に戻ったら横になってください」
「アルまで過保護になってる」
「なっていません。医学的な判断です」
「僕が先に言ったのに」とウルが言い、「先に言えば正しいわけではありません」とアルが返した。
二人が私の左右から同時に何か言い始めた。声が重なった。どちらも私を心配しているのは分かるが、二人とも一歩も引く気がないのも分かった。
レオネルが前を歩きながら振り返って言った。
「……うるさいぞ、お前たち」
「「すみません」」
二人が同時に謝った。そのタイミングが完璧に揃っていて、私は思わず笑った。疲れていたのに、笑えた。
ノアが後ろから追いついて、私の隣に来た。そしてぼそりと言った。
「……おかえり、結衣」
「ただいま、ノア」
ノアが少し目を細めた。それだけだった。でも、その「おかえり」が一番胸に染みた。




