342話 フェンメル・ルーデシアの真実
バベルで死を悟った時、ユーラシアくんを置いて逝けない強い気持ちと同時に、自分が本当は何なのか、無意識に理解できた。
オレちゃんはかつて、人類を震撼させた魔王の魂そのものであり、その片割れ。
そして邪神の欠片だってことを。
オレちゃんとアート・バートリーの魂が再び一つになることで、全ての記憶と神の創造力は顕現する。
そう——————フェンメル・ルーデシアの肉体が滅びたことで役目を終えたオレちゃんの意識は、本当ならもう意味のないモノ。
「——————もう一度会えるなんて・・・・・思わなかった」
「オレちゃんもさ」
白い光に包まれた無機質な空間に存在する二つの精神体。
ユーラシアの神の創造力により、自分と邪神の創造力を繋いで一時的に封印したことが最大の要因。
「オレちゃんの願い通り、随分強くなっちゃってさぁ・・・・・ほんとっ、誇りに思うよ」
ユーラシアは下唇を噛み締め、涙を堪える。
しかしポロリポロリと一粒ずつ涙が頬を伝う。
「この力を手に入れて分かったんだ。邪神の中に、フェンメルさんの魂が眠っていること・・・・・けど——————」
異世界のユーラシアから黒い心臓を埋め込まれた直後、ユーラシアは心臓に刻まれている記憶を目にした。
それはフェンメルさんの魂が元々は魔王の魂であり、どういうわけか転生した先では魔王の魂が二つに分裂したこと。
肉体は消失してしまっているが、確かに邪神の中にフェンメルさんの意識があること。
しかし異世界のユーラシアは、フェンメルさんの意識ごと葬り去ってしまった記憶が刻まれていた。
気がついた時には、既に手遅れだったのだ。結局言葉の一つも交わせないまま、永遠の別れとなってしまった。
「フェンメルとして過ごした時間は、苦しいことの方が多かったけどさ、それでも最後にユーラシアくんと出会えて——————もう一人の弟ができて、本当に幸せだったんだよ」
そう言うと、フェンメルはわしゃわしゃとユーラシアの頭を撫でる。
「サンキューよ!」
「・・・・・ダメだ、せっかく会えたのに・・・・ここでまた失うのかよ」
「そうじゃない。オレちゃんはもうとっくに死んでるのさ。この意識は奇跡みたいなものだし、明るく終わらなきゃ。でしょ?」
ユーラシアの表情を見れば、ここに至るまでにどれだけの絶望を経験して来たのか一目瞭然。
それでも、フェンメルは終始笑顔を浮かべる。
今度こそ、ユーラシアの中の自分がいい思い出となれるように。
心を締め付ける鎖ではなく、過去となれるように。
フェンメルはユーラシアという新たな弟を作ることで、かつての弟の死を過去にすることができた。
今のユーラシアには、支えてくれる仲間がいる。そしてユーラシア自身もこれまでの戦いで強い精神を身に付けている。
もう自分は必要ないのだと、教えてあげることが兄として弟にしてあげられる最後の使命。
「手を出してくれる?」
フェンメルは差し出されたユーラシアの手のひらへと黄金色に光輝く球体を乗せる。
その球体は一人でに宙へ浮かぶと、ユーラシアの胸の高さで静止し、ゆっくりと胸の内へとすり抜けていく。
「これは・・・・・」
「魔王の魂が二つに分かれたのは、最高神が仕組んだことなんだよ。オレちゃんの中には小さいけれど、最高神のエネルギーの欠片が存在してるのさ。今のユーラシアくんなら、安心して託すことができる」
「ウッ——————」
ユーラシアは猛烈に胸に熱さを感じ始める。
赤と黒の心臓を最高神の力が包み込み、次第に心臓は一つの細胞も残すことなく消失し、全身の細胞と結合していく。
表皮に浮かび上がる細かな金箔のような輝き。
それが虹色のオーラに包み込まれ、幻想的な美しさを醸し出す。
「この世界は君のものさ——————」
フェンメル・ルーデシアの意識は静かに溶けて消えていった。
「おかげで進むべき道が見えた。ありがとうフェンメルさん——————」
こうしてユーラシアの意識は再び目覚めるのだった。




