336話 最後の意思
太陽の意思は、最後の意思を燃やして王級界へと再び降り立つ。
「あ? やっと落ち着いたと思ったら今度はてめえかよ」
「許さない——————お前だけは!」
「チッ、めんどくせえな。何度やっても意味ねえんだよ。てめえごときの力じゃ俺たち邪神には遠く及ばねえ」
太陽の意思は拳を握り込み、黄金の輝きを呑み込んでしまうほどの凄まじい蒼き輝きを発する。
「はっ、そんな炎じゃ熱さすら感じねえな。見たとこもう限界だろ」
しかし次の瞬間、音もなく王級界そのものが消失する。
「あ? んだこれは・・・・・? ハ、ハハッ、熱さすら感じねえ炎か——————理屈は分かんねえが、大分おもしれぇよお前」
星の輝き一つすらない暗闇に包まれた二人のいる空間の名は『インフィニティ』。
あらゆる力が存在し得ない場所であり、あらゆる力が通過する場所である。
言うなればここは異なる世界と世界の狭間——————世界の接合部分。
一切の時間の概念は存在せず、神たる存在にしか活動が許されない場所。
それなのに、視界に映る揺らめく蒼き炎にギムルは驚きとともに喜びを感じる。
「お前一体何なんだ? ここは言っちまえば停止世界ソノモノだ。時間のない概念を超越できるのは神の力を宿す者だけのはずだぜ? 異世界の存在だとしても神の力を宿してんなら、造作もなく感じ取れる。けどてめえからは、何の気配も感じられねえ・・・・・それはつまり、お前自身が自然エネルギーみたいなモンだからだ」
しかし停止世界ではありとあらゆる物理法則が存在しない。
空気の振動も発生しない。
あらゆる繋がりがなくなっているために、意思の介在しない場所ではエネルギーの伝達が生じないからだ。
故に、自然エネルギーである「火」が、あのように滑らかに燃えていること自体が不可能だということ。
「何だっていいだろ。オデはただ、お前をぶっ飛ばすだけだ」
会話の成立。
このように停止世界で会話が成り立っているのは、ギムル自身が神の力で創造した目には見えない未知のエネルギーを音として直接太陽の意思へとぶつけているため。
しかし太陽の意思は、無意識にギムルが作り出した未知のエネルギーへと干渉して音を返している。
つまりそれが意味するところは——————
「最高神か」
今ギムルの頭に浮かぶのは、己の世界に唯一残された光輝く謎の球体。
これまではただその場に居座るのみで、何か反応を見せるわけでもなく、何か特別な力を感じさせるわけでもなく、熱さのみを宿す存在としか思ってはいなかった。
それがこんな形で謎が解けたのだ。
これを喜ばずにはいられない。
王級界がなくなった今、間もなくギムルと太陽の意思もそれぞれの世界へと強制帰還させられる。
だとしても、帰ってからの楽しみができた。
ギムルは停止世界で行使できる最大限のエネルギーを自身の身に何重と纏わせる。
ルビー、サファイヤ、エメラルド、シトリン、アメジスト——————それら全てを掛け合わせたかのような幻想的な輝きを秘める多面構造結界。
一言で言い表せば、虹色のバリア。
それが大きくギムルを覆う。まるで反撃の意思がないかのようなギムルの態度。
「来てみろよ。命をかけた全力を俺に放って見せろ!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎」
ギムルに煽られ、更なる怒りを、命を力へと注ぐ太陽の意思。
纏われていた蒼色がスッと存在を消す。
今の太陽の意思は、人の形をしたのっぺらぼう。
しかし発される光量は、インフィニティの闇を打ち消すほど。
拡散する光は徐々に収縮していき、最終的には飴玉サイズにまでその大きさを変化させ、ぷかぷかと宙を彷徨いギムルの展開している結界の外殻へと触れた瞬間——————
何重にも展開された結界が一瞬にしてすべて消失する。
そして白い光はまるで生き物のようにギムルへと飛びつき、燃え盛る炎となった。
ギムルは全身を包み込む白炎の苦痛に悶えつつ、口元には笑みを浮かべる。
「ウガァァァァァァ——————ククッ、なるほどな・・・・・てめえが弱かったのは、そういうわけだったのかよ——————最高神——————」
ギムルはインフィニティから弾かれ、元の世界へと強制帰還させられた。
一人でに燃え続ける白炎も次第にその勢いを小さくしていき、インフィニティは再び闇一色に包まれる。
全ての力を失い力尽きた太陽の意思は、最高神の定めた法則の下、あるべき場所へと引き戻される。
こうしてユーラシアたちの世界に太陽が帰還したのだった。




