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竜魔伝説  作者: 融合
復讐編
338/338

337話 万能感

 これまで多くの大切を失ってきた。

 その度に心が引き裂かれる思いに駆られ、全てを投げ出し楽になりたいと何度考えたことだろう。

 けれど思い浮かぶのは守りたい者たちの顔。

 今ユーラシアの頭の中には、失ってしまった者——————残された守らねばならない者たちの顔が次々と浮かび上がる。


「守れなくて悪かった・・・・・」


 深呼吸を経て瞑っていた瞳をゆっくりと開く。


「今ある大切を、必ずこの手で——————」


 握った拳に纏われるは多様な色が絡み合った虹色のオーラ。

 心臓が一つ増えたと言っても、これといった苦痛も、体感する変化もない。

 あるとすれば、竜王の紅いオーラが虹色へと変化したことくらい。

 それに今のユーラシアならば己の変化を細部まで把握することができる。

 これは単に神力と魔力がユーラシアの体に宿ったという話ではない。

 

 【力の融合】

 

 拳に宿る虹色のオーラには、神力と魔力の二つの力が同時に宿っている。

 勇者、そしてユキ・ヒイラギもまた、神の力と魔力の異なる二つの力を宿すイレギュラーな存在であった。しかし勇者は、二つの意思に一つずつの力を宿すことでその均衡を保ち、ユキは神の力を扱うことで魔力をずっとその身に眠らせていた。

 つまり神の力と魔力を融合させた存在は、地上においてユーラシアが初めてとなる。

 それは全て、異世界のユーラシアが文字通り命を注いで意志を託してくれたからこそ実現した奇跡。

 しかしそれはまだ完全な状態ではない。

 ユーラシアの体は人間であるため、魔力核は竜王跡に佇んでいる世界樹と繋がっている。故に、魔力樹との繋がりを完全に断ち切り、黒い心臓から供給される神の力をエネルギーの源としなければ、真価は発揮されない。

 

 ただ守りたい——————

 もうすでに、それだけでは留まらない次元にまでユーラシアの守ろうとする者たち、そしてユーラシア自身の命の重みは増している。

 人間が起こしてきたこれまでの奇跡は、未来を——————そして他者を想う『愛』が形を成したモノ。

 時に愚かにも同族同士で傷つけあう生命だが、誰かのために命を犠牲にできる——————それが人間である。

 これまで数えきれないほどの命がこの世を去ってきた。

 様々な時代を経て、敵対する存在もことごとく変わっていく世の中。

 しかし今を生きる者たちの心には、確かに死んでいった者たちの命が紡がれ記憶されている。

 そしてこの先も、人類は潰えることなく命を後世へと繋いでいかなければならない。

 それを成せるのは、この世でただ一人——————ユーラシア・スレイロットだけ。

 

「邪神を滅ぼし、みんなが明るく暮らせる世界を取り戻す」

 

 すでにユーラシアは、邪神の居場所を突き止めている。

 万能感に包み込まれる今ならば、邪神にすら負ける気はしないが、まだ新たな力を手に入れたばかりであり、創造の力を存分に行使することはできない。


「少し試してみるか」


 魔大陸全体へと意識を飛ばす。

 ユーラシアの読み通り、先ほどのエメラルとの戦いで多くの魔物が魔大陸のそこら中に発生した様子。

 抱擁の効果で更に外側へと意識を拡大させると、西側領土寄りの中間地帯とブラッドアイスにも邪気を含んだ相当数の魔物の出現が確認できた。


「消えろっ」


 軽く意思を唱えると、次の瞬間には把握していた全ての魔物の生体反応が一斉に消失する。

 まるで一瞬で炎に炙られ灰となって消えたかのように、ユーラシアが意識した魔物全てが静かに消滅したのだ。


「感謝するぜ、異世界のオレ——————」


 更にユーラシアは、邪神が招いたという宇宙からの侵略者たちの存在を、抱擁を宇宙空間へと伸ばし探っていく。

 道中、ユーラシアの抱擁が宇宙に佇む太陽の存在を捉え、ほっと息をつく。

 その後も更に伸ばした先に奴らはいた。

 一体ウィータルから何光年分の距離が存在しているかは正確には分からないが、尋常ならざる数の未知の侵略者たちが異なる方面から一斉にウィータル向けて侵攻してきているのが確認できた。

 間もなく、夜空に浮かぶ無数の星々の如くウィータルの上空を侵略者たちが埋め尽くすであろう。

 しかし、ウィータルへの到着には異世界のユーラシアの足止めのおかげもあり、まだそれなりの時間は残されている。

 果たしてユーラシアは侵略者たちからウィータルを守ることができるのか・・・・・

 それはユーラシア自身ですら確信を持って断言はできない。それほどの数。

 最早宇宙に潜む存在を全て相手にするようなもの。

 実際どの程度の存在がこの世界に存在しているのかは、最高神にしか分からない。

 そんな存在を操る邪神に本当に勝てるのかも怪しいところ。

 しかし、全ての事態を招いた邪神を倒すことができれば、侵略者たちの侵攻も止められるかもしれない。


「待ってろよ、アート」


 久しぶりにその名を呼ぶ。

 これは、ユーラシアの邪神に対する余裕の表れである。

 油断という意味の余裕ではない。

 鼓舞という意味の余裕である。

 邪神との最終決戦を本格的に覚悟したユーラシア。

 竜王跡へと転移するのだった。

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