335話 託された力と思い
「オレに残された時間も後僅かだな」
皮膚がボロボロと崩れ落ち、肌色だった部分のほとんどが黒く変色してしまっている。
崩れ落ちる皮膚の一つ一つの欠片が、風に吹かれて花びらのようにヒラヒラと宙を舞う。
「今からお前に力の源になる心臓を与える」
「心臓?」
「ああ。邪神との決戦に赴いたオレは、邪神から『黒い心臓』を無理矢理植え付けられたんだ。元の心臓は潰され、今オレの中にあるのは黒い心臓ただ一つ」
「なら・・・・・その心臓が原因で——————」
「けど、お前はそうはさせねえ。そのためにオレはここにいる——————グッ」
異世界のユーラシアは、自身の胸に腕を突き立て己の心臓を抜き取る。
「おい」
「大丈夫だ」
黒一色に染められた心臓。
ドクドクと音を立てる度に途切れた血管から黒い液体が飛び出す様は、ユーラシアの口元を引き攣らせる。
「これが、邪神の心臓・・・・・」
「いや、奴がオレのために創り出した心臓だ。拒絶したくなる気持ちはよく分かる。けど、あいつを超えるためにはあいつの力をお前のモノにしなくちゃなんねえ」
邪神の力は万物を創造する力。
竜王が地上でどれだけ強かろうとも、無限の可能性を秘める存在の前では支配される側に過ぎない。
しかし、竜王の力を覚醒させ、その上、神のみ有する創造の力まで得たユーラシアならば、邪神をも圧倒する存在となれる。
「自分を信じるんだ。オレん中に残る全ての力を使って、お前に仲間は殺させない」
「ああ。オレはとっくに、オレを信じてる」
「行くぜ」
「ウグッ」
「バキッ」と音を立てて黒い心臓はユーラシアの体内へと潜り込む。
傷口からは真っ赤な血液と黒い血液が大量に流れ出し、二つが混ざり合ってよりドス黒い赤色へと変色する。
「ガハッ——————グフッ」
「耐えろ」
「クッ」
突如異世界のユーラシアの髪色が白髪へと変化する。
「オレのことが分かるか? 守るべき存在を、思い出せるか・・・・・?」
「——————ああ」
意識を朦朧とさせながらも、なんとか理性を保つことに成功する。
「・・・・・約束する。お前が守れなかった分も、命をかけて必ず守り抜くと」
「よかった——————」
役目を終えた異世界のユーラシアは、虚な瞳で天を仰ぎ見る。
表面の皮膚だけでなく、全身が細かな欠片となり次々と宙を舞っていく。
「怖かったんだ・・・・・」
死ぬことですら償いきれない罪を犯した異世界のユーラシアへと与えられた代償は『永遠の孤独』。
誰もいない何もない世界でただ一人存在していかなければいけないことに、感じるはずのない恐怖を抱いていた。
しかし何の気まぐれか、パラレルワールドに繋がるゲートが開き、今ある己の全てを自分自身へと託すことができた。
「最後に一つだけ、オレから頼みがある」
全てが消えてしまう直前に口にした異世界のユーラシアの「頼み」は、この世界に残されたユーラシアの心を大きく動かす。
「アガッ」
直後、黒い心臓に刻まれた邪神のとある記憶がユーラシアの脳内へと再生される。
頬を伝う涙。
怒り、悲しみ、苦しみ、多様な感情が抱かれながらも、この時最もユーラシアの心を支配していたのは、「喜び」の感情だった。




