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竜魔伝説  作者: 融合
復讐編
335/339

334話 悲しい最期

 残されたマサムネはたった一人、まともに声も発せない状態で地に倒れ、死を迎えるその時まで寒さと苦痛に全身を震わせていた。

 ダークエルフとの戦いで吸収した魔王因子は、最高神からの最後の恩恵と言えど全てを消し去ることはできなかった。その隙を邪神に突かれてしまった。そして、自分自身の体内へはゲニウスの効果を届かせることはできないため、どうすることもできない。

 

 けれど恐怖はない。

 先に行った雪と日向が待っててくれるから。

 

 マサムネの人生は本当に色々なことがあった。

 日本にいた頃、日向と結婚を間近に控えていた政宗の前に現れた雪。雪と日向と三人で暮らした幸せな日々。

 この世界に勇者として転生し、人魔戦争の果てに魔王を討ち取った。

 その後ダビュールとして国を収めた日々。

 そして再び勇者としての道を歩んだ。

 雪を取り戻し、平和を取り戻した——————はずだった。

 

 例え勇者として終われても、死ぬのが怖くなくても・・・・・生きたいと思う気持ちに変わりはない。けど、一人で生きることに意味などない。

 死後、本当に雪と日向に会えるかどうかなど分からない。

 会えたらいいと、生きている者たちは願ってしまう。

 その気持ちが、死というものを受け入れることのできる最大の武器であるから。

 

 思い残すこと——————

 

 残す世界に心配はない。なぜならば、ユーラシアがいてくれるから。

 確かに今のユーラシアは不安定だが、必ず世界を守り救ってくれるとマサムネは信じている。

 

 願わくば、今度こそ人類に平和な時が訪れますように。

 一度は家族にもなったクリメシア王国の皆が、笑顔でいられていますように。

 マサムネの耳には、今でも時々カルメとクランと交わした別れ際のやり取りが響く。

 けれど、本物のダビュールがマサムネの代わりに約束を守ってくれた。

 

 マサムネの口元には、無意識に笑みが浮かべられていた。

 その様子を目にした二人のユーラシア。

 この世界のユーラシアは、その変わり果てた姿に動揺を隠せない。

「勇者・・・・・お前・・・・・」

 言葉は発せずとも、耳にはまだ声が届く。

 その証拠に、勇者の指先が微かに動く。

「会うのは初めてだな。勇者・・・・・いや、マサムネ・シンジョウ」

 異世界のユーラシアは何とも言えない冷めた表情で勇者を見下ろす。

「あまりにも反応が弱かったけど、まさかここまで死にかけてるなんてな。初めて思う——————オレにもう感情がなくてよかったってな」

 そのまましゃがみ込むと、無抵抗の勇者の顔へ手を翳す。

「死んでいく奴を絶望させるなんて、オレも大概悪魔だな」

「何する気だよ」

 多少の怒りを含ませたユーラシアの瞳が異世界のユーラシアへと向けられる。

「こいつは、これから見せる事実を知らなくちゃならねえ。その権利——————いや、責任があんだよ。お前なら理解できるはずだ」

「どういうことだ」

「例え地獄を味合うことが分かっていようと、オレらみたいに散々な地獄をこれまで経験してきた奴にとっては、知らなくていいコトなんて一つたりともねえんだよ。全部受け止めて、全部背負って、命を終わらすんだ」

 異世界ユーラシアの言葉を受けたユーラシアは、何も言えなくなってしまった。

 自分自身が、経験を通して今の言葉の重みを実感してしまっているから。

 始めは知らなきゃよかったと思うことなど山のようにあった。ミラエラの罪も、シエルの死の真相も、自らの息子のことも。

 だけど知った今、知れたからこそ整理できた気持ちや終わらせられた過去、終わってしまった過去がある。

 そしてこの先、例え絶望を抱いて終わることになったとしても、ユーラシアは絶望を受け入れる。

 今更絶望を少しでも軽くするよりも、自分が関係している絶望を全て受け入れてしまった方が、後悔はしない。

 

「まぁこれは、オレの自己中なケジメでもあるけどな」

 そうして異世界のユーラシアは、死を目前とする勇者の体へと、『運命改変』の裏に隠された真実を流し込む。

 

 それは、自分がダビュールとして生きた世界がその後滅ぼされた事実。

 マサムネは過去へと戻り、運命を変えたつもりでいた。

 しかし実際は、その世界の過去へと戻ったのではなく、魔王を倒した直後の過去が存在する別の世界へと転移したということ。

 言うなればパラレルワールドの一つ。

 いくつも枝分かれしている世界は、途絶えることなく時間が過ぎていく。

 つまり、マサムネがダビュールだった頃に仕えていたカルメとクラン、その他の配下とクリメシア王国の全ては、あの日あの時、神人ウェルポネスに滅ぼされたのだ。

 ダビュール=マサムネを信じ託してくれた皆の期待は裏切られ、無惨で無意味な死を迎えた。

 

 この時のマサムネがどんな絶望を味わったのかは誰にも分からない。

 何ひとつ音も動きも見せないまま、その体はつま先から頭の先にかけてモヤのように消えていく。

 人類の英雄にしては、あまりにも静かな最後だった。


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