332話 聖剣消失
もう・・・・・指先一つ動かせない。
まともに呼吸すらできていない状態。
それでも、僕たちの意識はしっかりと変わり果ててしまった雪の姿を捉えている。
雪から放たれる度重なる神の力による攻撃は、僕たちの体を蝕んでいるけど、もう何の感覚すら感じられない。
体の内から込み上げる闇の力が、君への憎悪を生ませようと苦しませてくるんだ。
どうせ死ぬのなら、僕たちは——————君を好きなままでいたい。
いや・・・・・雪。あんたをおいて死ぬわけにはいかないよな。
だって私らは、あんたの家族なんだからさ。
あんたは今、どんな表情を浮かべてんのかな?
本当に、あんたの意思は消えちゃったのかよ・・・・・
そうだとしても、このまま放っておいて死ねるわけないでしょ!
僕たちは覚えてるよ。
君が最高神の命令で犯してしまった罪にとても長い間苦しんでいたこと。
当たり前だ。忘れられるわけない。
もう誰の命も奪いたくないと嘆く雪に、人の笑顔、優しさ、そういった温かさを教えてやりたかった。
ソルン村での雪は本当に幸せそうだった。
ミラエラに感謝しないとだな。
死んだら、会えるのかな?
どうだろな・・・・・会えたとしても歓迎はされねえだろうな。
けど、胸を張ることのできる人生ではあったよ。
そうだな。多くの命を奪ったし、多くの間違いも繰り返してきた。
それでも私らは、「勇者」として死ぬことはできるかもな。
ヒナッちゃんが何を言いたいのかは分かってるよ。
雪は全人類を敵に回してでも守りたい僕たちの生きがいだ。
けどもう、私らに守ってやれる力も時間も残されてないからな。
だけど、助けることはできる。
「生きてほしい・・・・・」なんて、私らの勝手な押し付けでしかねえもんな。
誰だって死を望んではいないさ。
だからこそ、僕たちの言葉は神人だった頃の雪にしっかりと届いたんだ。
短い時間だったけれど、幸せな家族の時間を育むこともできた。
先に行ってるぜ、マサムネ。
勇者は捕らえた雪の腕をグッと引っ張り、白銀の聖剣を雪の胸へと突き刺した。
勇者の聖剣の正体は、『鍵』である。
最高神が一つの肉体にヒナタとマサムネを宿す際、その副作用として生じた結晶——————それが『聖剣』。
マサムネには魔力を。
ヒナタには神の力を。
つまり聖剣自体が、魔力と神の力の耐性を宿している。
かつてマサムネがヒナタを失いダビュールとなった際、聖剣は消失した。
聖剣は、どちらか一方の意識が死を迎えれば消える。
もしくは、聖剣が消失or破壊されればどちらかの意識は消失する。
なぜどちらも、ではないのか?
二人の意識を一つの肉体に留まらせているのは、神の力を有するヒナタの存在あってこそであり、その力が働かなくなるということは、即ちヒナタの消失を指す。
ヒナタの意識は一人、闇の中に眠る雪の下へと向かう。
そして見つけた。
周囲は炎の海に囲まれながら、元の世界の両親に虐待を受けている様子の小さな雪を。
どうしてこの景色が再生されているのかなんてどうでもいい。
邪神の力は、相手の憎しみや悲しみを刺激し絶望させる忌まわしき力。
ヒナタは込み上げる怒りを抑えず、全速力で駆け出す。
「雪から離れろぉ!」
ヒナタは幼い雪の体を抱きしめる。
「もう先に行かせたり、一人になんてしないから。絶対しないから」
「——————わらわは・・・・・本当に幸せ者じゃ」
雪もまたヒナタの体へと両手を伸ばし、二人の姿は次第に止んでいく炎とともに消えていく。
「あ・・・・・あ——————っ‼︎」
一人残されたマサムネは、目の前で消えていく聖剣と雪の体を地に横たわり眺めることしかできなかった。




