291話 太陽の意思
ドラルドとトロプタがムンテルダンクに降り立つのと同時刻。
頭上——————雲の上の更に上の宇宙にて、太陽と名のつくこの世の惑星の王に変化の時が訪れていた。
通常、太陽の表面温度は一万度を超えており、中心温度に至っては、二千万度までに達している。
しかし現在、太陽の熱量は指数関数的速度で増加し、表面温度は通常の十倍以上へと、中心温度に至っては、百倍以上と、惑星系全てを破壊しかねないほどの熱量を包含している状態となっていた。
主な要因は、邪神によるノクステラが原因。それにより、本来ならば永遠に等しい眠りについていたはずの太陽の核が、意思を持って目覚めてしまったのだ。
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい」
意思=突如目覚めさせられたことによる怒りの感情が太陽全体の熱量を増加させている。
太陽の核とは、その名の通り電池のような役割を果たしている。眠っている間は、子であるあらゆる惑星がバランスを保てるように自身の宇宙のバランスを取る存在なのである。なぜならば、太陽とは王にして最高神の子。最高神が何よりも最初に己の力を与え誕生させた存在。言うなれば、太陽を中心としてその後の世界が最高神により創造されていったということ。
そして無限に等しい時を経て、太陽の意思は邪悪なる意思により目覚めさせられることに——————
生まれて初めて認識する言葉というモノ。
『俺に支配されろ——————勇者を殺せ——————竜王の大切な存在も全て殺せ』
記憶の片隅で、自身にかけられる優しい言葉の温もりを与えられたことがあるような気がするが、分からない。
ただ分かることは、この頭に響き渡る言葉がとてつもなく不愉快だということ。
そしてまた聞こえてくる同様の声。
『貴様を目覚めさせるつもりなどなかったのだがな——————不愉快極まりない』
なぜだか言葉の意味が理解できる。
こいつは何を言ってんだ?
不愉快なのはこっちだ!
無理矢理目覚めさせられ、生まれて初めて抱く不愉快な感情も鎮まる気配がない。
どうしたら響く声が止まる?
太陽の意思は、意思を持つことで思考することができた。
この響く声の言ってることをやれば、またぐっすりと眠ることができるんじゃないのか?
「んーーーーーーーーーーーー——————うるさいぁーい‼︎」
ありったけの力を込めて感情を爆発させる。
次の瞬間、周囲に纏わりついていた気持ちの悪い感覚が消失し、目の前に広がるのは黒き景色だった。
太陽の意思が太陽の外へと追い出されたのだ。
核=意思がなければ、太陽は百年程度で寿命を迎えてしまい、どの道この世界は終わるだろう。それに、寿命のある人間同様に、宇宙に佇む太陽は日に日に発する光力が失われていくことになる。
しかし一つだけ幸運なことが。
先ほどまで世界を破壊しようとしていた熱量は収まり、通常の活動へと戻っている。
正しくは、通常よりも多少活発なくらいに。
「どうしよ・・・・・」
それが素直な感想だった。
核とはいえ、戻り方が分からない。
自分が何者なのか分からないが、目の前にあるこの巨大な光の塊から心地よさを感じる。
そして、気のせいでなければ徐々に下方へと動き始めている。いわゆる落下という現象だ。
生まれたばかりなため、力の扱い方も分からない。
しかし太陽の意思は難しいことを考えるのをやめ、世界の法則へと身を委ね、潔く落下していくのであった。




