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竜魔伝説  作者: 融合
反撃編
288/336

287話 魔神の降臨再び

 時は少し遡り、剣王祭二日目の挨拶を終えたガンデルは、自らの下へと息子たちを招いていた。

「お父上様! お父上様からお声がかかるのは何年ぶりのことでしょうか?」

「ダ、ダメですよジルマくん。そんなに大声を出しちゃ——————お、お久しぶりですっ、父上様」

「確かに、こうして顔を合わせるのは久しぶりだな、我が子たちよ」

 ガンデルの実子であるジルマ・アルキメデルとロシルア・アルキメデルは、それぞれガンデルの息子と娘であり、ロシルアはジルマよりも二つ上の17歳である。

 ジルマは目が大きく、顔全体的に丸っぽいのが特徴的であり、身長は160センチ弱と小柄な体格で、何に対しても真剣に紳士な行いの目立つ真面目な性格の持ち主。それに対してロシルアは、いつも胸元の目立つドレスばかりを着用している濃いピンク髪が特徴の女性。基本的に何をやらしても長持ちすることがないが、なんでもすぐにマスターしてしまう天才肌の持ち主。身長も170センチ台とジルマよりも高く、ジルマはロシルアのことをよく妬んでいる。しかし、真面目な性格故に、そんな素晴らしい姉のことを心の底から尊敬もしている。

「結界の作業中に呼び出して悪いな二人とも」

「いいえ! お父上様とともにこの国のお役に立てていることを、俺は誇りに思います!」

「立派な心行きだ」

「わっわわわっ私だって、ジルマくんに負けないくらい国民のお役に立てて嬉しく思っているわ!」

「ロシルアも素晴らしいことだ」

 ガンデルは我が子に対して嘘偽りなく、心の底から優しげな笑みを浮かべる。とめどなく、愛おしさが溢れ出てる。

 ガンデルと子供たちがこうして顔を合わせるのは、実に一年ぶりのこと。

 邪神の力が蔓延し始めたのはそれよりも前のことだが、ガンデル一人のみでは国の安寧を維持することは不可能だと悟り、まだ未熟なジルマとロシルアにも結界の維持を手伝わせているのだ。

 二人は結界の維持に携わってからというもの、専用の部屋に閉じこもってばかりの生活。同い年の者たちと遊びたいだろうし、もっと親に甘えたいことだろう。二人の母親は、ジルマを産んだ二年後に他界し、それからはガンデルが唯一の親なのだ。

 ガンデルがジルマやロシルアくらいの歳の頃は、王族としての仕事で忙しかったとはいえ、様々な国々を見ることができたし、やりたいことをやる時間もあった。だからこそ、若い子供の人生を奪ってしまっているのではという罪悪感がガンデルの中には多少なりとも存在している。

「本日呼ばれた理由は分かっています。いよいよですね、お父上様! お父上様なら今年も剣王の座を守ることができると確信しています!」

「そのことについてだがな、今年剣王になるのは俺ではない」

「「え⁉︎」」

 ジルマとロシルアがあり得ないといった様子で心底驚きの表情を浮かべる。

「そんなこと言わないでください。例えどんな強敵であろうと、諦めないのがお父上様ではありませんか」

 ガンデルはジルマとロシルアのあまりにも必死な様子に思わず笑いが込み上げてくる。

「ハッ、ハッハッハッ——————伝えるのを忘れていたな。実は今回の剣王祭には、かつての剣聖、剣姫様の子供たちが出場しているのだ。それに彼らはお前たちとそう歳も変わぬというのに、既に剣聖の称号を受け継いでいる」

 ガンデルの発言を聞いた二人の反応は、無反応。唖然とし、言葉を発するのを忘れてしまうほど驚いている様子。

「そ、それは本当なのですか?」

「今日は、お前たちにも試合の様子を見せようと思い、この場へと呼んだのだ。さぁ、こっちに来い」

 ガンデルはジルマとロシルアを自身の横へ来させると、スコーヴィジョンを使用して目の前へと大きく剣王祭の映像を映し出す。

 試合は佳境。映し出された映像には、剣聖状態となったシェティーネとレインが、その場から一歩も動かずにドラゴンスレイヤーであるトルネオンの攻撃を一つ残らず見事なまでに剣でさばいているシーン。

 

「「すごい・・・・・」」

 

 ジルマとロシルアの空いたまま塞がらない口から、ボソリと本心がこぼれ落ちる。

 その後数秒間、一切目を離すことのできない試合映像に集中していると、突如ガンデルたちの目の前へと一人の男が現れる。

「——————勇者様」

 ガンデルはすぐさま勇者の登場に気がついたのだが、ジルマとロシルアは瞳を輝かせて試合に見入ってしまっている様子。

「——————お父上様?」

 突然席から腰を上げたガンデルへと意識を向けるジルマ。

 一方のロシルアは、それでも映像から目を離さない。

「少し話をしてくる」

 そう言うと、魔力樹とのリンクを維持した状態で勇者の下へ歩き出す。

 ブラッドアイスとムンテルダルクに展開されている結界は全てがエクソシストの力でなされるものであり、エクソシストの力の源は自身の中に存在する霊子である。そのため、魔力と霊子は性質の異なる力なのだが、その本質は同じであり、エクソシストは魔力から無理矢理霊子のみを抽出することができる。何かしらのエネルギーのある空気中には必ず霊子は存在しており、エクソシストは内部の霊子と外部の霊子とを干渉させて結界などの力を行使する。

 通常魔力樹の大きさと魔力回路、魔力核の大きさは比例しているため、その大きさにより魔法の強度や威力は多様に異なっている。当然許容量をオーバーして魔力を扱えば魔力切れを起こすことになるのだが、エクソシストの力は非常に燃費がいい点に利点が存在する。

 例えば、魔力樹の許容量が100の人物の魔力核には、許容量よりも余裕のある80ほどの魔力が溜められており、魔力樹内の魔力が枯渇するまでは一定の80というラインを保てるように供給がなされる仕組みとなっている。そして竜王や勇者といった桁違いの魔力量を宿している存在は例外だが、三メートルほどの一般の木々と変わらないほどの大きさの魔力樹を有している者ならば、基礎的な身体強化魔法だけでも、十分の一ほどの魔力を持っていかれることとなる。当然その強度により消費量も異なってくるのだが、維持量も加算すると、その消費量はかなりのもの。

 しかしエクソシストの扱う霊子は、こと魔力においては無限に等しい数が含まれており、先ほど例えた一般の木々と変わらない魔力樹を有する者の魔力にも、億はくだらない数が存在している。

 エクソシストは魔力に存在する霊子を抽出し、その分の目に見えないほど細かな魔力因子が魔力回路から分解されることとなる。そしてその分解された霊子は、人の体内に存在する基礎的な身体エネルギーに含まれる霊子と結合して更に数を増やしていく。そしてその身体エネルギーを補佐するための魔力は消費されることになるが、実際外部へと放つエネルギー量で比較してみると、その効率のよさが理解できる。例えば結界魔法では、許容量100の者が50消費して展開できるモノがあったとしよう。これに対してエクソシストが同等の結界を展開させようとすれば、霊子を分解した数=魔力消費量は、10にも満たないほど少量で済む。

 故にガンデルは、数年間結界を維持し続けられているわけだが、体中が限界に近い。

 しかし目の前に現れた勇者を目にして、心と体が温もりに包まれていく感覚に襲われていた。それは、つい先ほど剣聖とトルネオンの試合映像を見ている際に感じた勇者の魔力の気配に関係している。かなり大きな魔力の気配であったが、何かが起きたわけでもない。しかし、この状況で勇者により行使される魔法など、一つしかない。

「ご苦労だった。心の底から感謝しても仕切れぬな」

 ガンデルは多少涙目となり、勇者の前へと手を差し出して握手を求める。

「後は任せた」

 そう言って勇者が国王の手を握り返すと、ガンデルは感激とともに天を仰ぐ。と同時に、ムンテルダルクに施される結界が徐々に消えていく気配を感じる。

 当然その気配は子供たちも感じており、あたふたと落ち着きのない様子で動揺してしまっている。

 勇者もその気配を感じ取り、笑みを浮かべる。ちなみに、エクソシストの力を行使できるようになった今、エクソシストの結界内でも転移が使えるようになっている。

 そうして勇者も天を見上げた瞬間、何やら黒い二つの点を視界で捉える。

 距離が離れているため、それが何なのかは分からない。気配も感じ取れない。しかし、その点は徐々に徐々に大きさを増していく。

「国王、今すぐ子供ら連れてこっから離れろ。嫌な予感がする」

「アレは何だ?」

「いいから早く‼︎」

 勇者の焦った表情に戸惑いながらもガンデルは即座に子供たちの下へと駆ける。

 しかし、それよりも先にいつの間にか点は形を成し、勇者の下へと降り立つのだった。


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