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竜魔伝説  作者: 融合
反撃編
286/338

285話 覚悟の時間

 剣王祭二日目。

 今日で20代目剣王が決定する。果たしてそれは国王であるガンデルか? ドラゴンスレイヤーのトルネオンか? 

 ——————否。

 国王だけでなく、観客、更にはトルネオンまでも分かっている。今年の剣王祭は既に決しているのだと。

 なぜならば、この場にいる誰も剣聖には勝てないのだから。

 

 剣王祭二日目は、二チームが怒涛の勢いで準決勝へと歩みを進める。

 一チーム目はシェティーネとレインの剣聖タッグ。

 二チーム目は、ドラゴンスレイヤーのトルネオン率いる少年ラムルスとのタッグチーム。

 シェティーネとレインに関しては、その圧倒的な強さを示し、試合ごとにシェティーネとレインが交互に二対一の構図で試合を展開していく流れに。しかし決して相手をなめているとか油断をしているとか、そういうことではない。

 例え格下の者が相手だとしても、元剣聖である父と剣姫であった母からの教えにより、いかなる時でも油断せず、驕らずの精神を持つことの大切さを理解している。

 そして今回の剣王祭では、初戦で当たった双星が規格外すぎたために剣聖の姿となったが、試合前にも言っていた通り、剣聖の力になるべく頼ることなく己の力を磨きたいと思っている。故に個人の力量のみで試合を運んでいるのだ。

 しかし当然二人の相手になる者たちはおらず、あっという間に準決勝へと辿り着く。

 

 一方トルネオンたちはというと、こちらもトルネオンのほぼ独壇場となっていた。

 トルネオンは一切の属性魔法を行使することなく、基礎的な身体強化魔法のみで対戦者たちを圧倒していた。

 ラムルスは、ただトルネオンの背中を剣を構えて眺めているだけ。

 ただこれには理由があった。

 勿論、トルネオンだけで事足りるということもそうなのだが、ラムルスは剣聖を目標としてきた。しかし剣聖は他にいて、到底届き得る存在でないことは、ここまでの試合を見ていれば痛いほど思い知らされた。しかし、大好きな兄たちとの約束であり夢でもあった。一度は絶望し、手放そうとしてしまった想いだが、口と目つきは悪いものの、優しく頼り甲斐のあるどことなく今は亡き一番上の兄に似たトルネオンと出会った。そして新たな目標を示してくれた。

 準決勝では剣聖と当たることとなる。

 ラムルスは理解している。今の自分では、相手が武器を持っていなくとも、一撃すら与えることができないほどの実力差が存在していることを。

 そしてこんな足手纏いを連れているトルネオンの勝ち目が限りなく薄いことを。

 


 控え室。

 椅子に座り、精神統一をはかるトルネオンと、その周りを落ち着かない様子で歩き回るラムルス。

「何をそんなに緊張してんだ?」

「それは・・・・・トルネオンは緊張しないのかよ」

「ハッ、愚問だな。この俺が相手との力量差を理解してないはずがねえだろ。だがな、心が負けなきゃ俺たちは負けることはねえのさ」

 それは屁理屈だ。剣王祭で負けるということは、誰の目から見ても実力が劣っていることに変わりはない。

 しかしラムルスは以前トルネオンが口にした「やると決めたらやる」という言葉の意味が少し分かった気がした。

 あれは自信などではなく、己自身へと向けた威嚇のようなものだったのだと。

 現に今のトルネオンの表情は、ピリつく真剣さの中に、どことなく楽しげな笑みが混じっている。

「例え絶望的でも、負けていい理由にはならないってことか」

「まぁ、必ずしもそれが当てはまるわけじゃねえが、今回は負けが確定してる試合じゃないからな」

「それって・・・・・」

「鍵はお前だ、ラムルス」

「お、俺様⁉︎」

 ラムルスは予想外のトルネオンの一言に対して目を丸くする。

「お前は珍しい光属性の回復魔法の使い手だ。だが、奴らはそのことを知らない。まぁ知っていても何も問題はねえが、これまでお前を下がらせてたのは、この時のために力を温存させておくためだ」

「う、うん。それは昨日も聞いたけど、一体何の為なんだ?」

「知ってるか? 回復魔法は普通、光じゃなく、無属性の魔法系統に属している。だが、光属性のお前の魔法には、おそらくお前自身すら自覚していない特別な効果が眠っていることは間違いない。それに、一度見せてもらったが、死に直結する怪我だとしても、おそらくお前の魔法なら瞬時に回復できるはずだ」

 ラムルスは自信なさげに眉を落とす。

「でも、兄ちゃんたちは助けられなかった・・・・・今まで、何一つとして役立ったことなんてないんだ」

 トルネオンはラムルスの頭に手を乗せる。

「俺が役に立つと言ってやってるんだ。例え俺がどんな怪我を負ったとしても気弱ず、何が何でも俺を治せ」

 ラムルスは不安なのだ。

 悪しき力に侵食された兄たちには、一切効かなかったこの力が、本当に誰かの役に立てるのかを。

 しかし目の前のトルネオンは、自分を疑ってすらいない。

 ここまで信じてくれてる人を裏切るわけにはいかない。それに、兄を治せる手段が見つかるかは分からないが、お金を稼がなくちゃいけない。

 次第に不安が増していく。

「確かに今回、俺は何が何でも勝つ気で挑む。だがな、心が折られない限り、何度だって挑める。それこそ勝つまでな——————それと、もう一つお前にとってもいい情報を教えてやる。勇者がこの地に蔓延する邪悪な力を全て浄化してくれるらしい。お前の兄貴は助かるかも知れねえな」

 それを聞いたラムルスは、声にならない喜びを抱いたまま、トルネオンの顔を見上げる。

「本当なのか・・・・・?」

「確実なのかも、どれくらいの時間がかかるのかも分からねえ。ただ、兄貴が保てば助かる確率は高いはずだ」

「・・・・・に、兄ちゃん——————」

 掠れた声でそっと漏らしたラムルスの想いの込められた言葉。

 トルネオンは、昨日の内にラムルスに伝えようとしていたとある言葉を呑み込む。

 そうして、トルネオンはこれまで誰にも見せたことのないような優しげな表情を浮かべ、ラムルスの頭においていた手をゆっくりと動かす。

「もし助かったら、兄貴と仲良くしろよ」

「うん!」

 その後すぐ、会場全体に準決勝の入場を知らせるアナウンスが響き渡るのだった。

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