284話 トルネオン・シュグール
ここブラッドアイスに来てから数日。
違和感だらけだ。
国王から聞かされた、竜王が敵じゃねえという訳のわからねえ事実。
なら、俺たちドラゴンスレイヤーは一体何者なんだ?
ドラゴンスレイヤーは、単独で竜を討伐し得る力を持つ奴だけに与えられた名だ。
記憶が変えられただと?
冗談じゃねえ。
それなら俺は、偽りの称号の上で胡座をかいていただけのただの馬鹿だ。
だが、視線が合っただけであの威圧感・・・・・到底勝てる想像なんてできやしない。そういう意味じゃ、竜族を相手に文明がほとんど維持されてるなんざおかしな話だ。
だがこの感情はなんだ?
悲しいような、それでいて腹の底から込み上げてくる怒りの感情。
違和感を強く覚え始めたのは、あいつと会った時からだ。俺と剣王祭のタッグを組むあの少年——————ラムルス。
自分でも不思議でたまらねえよ。見ず知らずの雑魚のはずなのに、なぜかほっとけなかったんだからな。
一目見た瞬間に重ねちまったのさ・・・・・今は亡き弟のラグロスと。
きっと、あいつの一人称のせいだな。
ラグロス・シュグール
トルネオン・シュグール
ゲト・シュグール
俺たちは、男の三人兄弟だった。
幼い頃に両親はどっちも他界し、俺とラグロスの面倒は、兄貴が見てくれた。
まぁ、俺とゲトは歳が十も違うし、物心ついた頃には、兄貴は俺たちにとっては大人とそう大差なかった。
そんな兄貴はクソ真面目で、ヤンチャな俺と、年柄年中強くなることしか頭にねえラグロスに嫌な顔一つせず、優しい顔ばかり見せてくれていた。
俺もラグロスも、そんな兄貴に心を許していた。
だから違和感でしかねえんだよ・・・・・そんなゲトが、ラグロスの死に目に涙一つすら流さないなんてよ。
——————いや、そうじゃねえ・・・・・そうじゃねえんだ。ラグロスは、誰よりも体が弱かったくせに、誰よりも努力家だったことを俺たちは知っている。だから俺たちは、ラグロスの意志を、未来に連れてってやることにしたんだ。
約束したよな? 兄貴——————
——————なのによ、何で魔法協会なんかに勤めてやがるんだ?
ああ? 何だ・・・・・ほんとに何だ、この違和感は——————
思い返せば返すほど、ドラゴンスレイヤーになるための条件や目的は思い出せるが、その過程は何もないかのように思い出せやしねえ。
ドラゴンスレイヤーになったのは、紛れもなく愉悦を享受するためだ。
だとしたら、誰がラグロスの意志を未来へ繋ぐ?
俺はそこまで薄情になっちまったってのか?
それはそれで今更驚きはしないが、何かが違う。
ドラゴンスレイヤーになった目的がまだ何か欠けてんのか?
いや違うな、そうじゃない。それとは違う何かが足りない気がする。
——————兄貴が、ラグロスの意志を背負ってくれた。そう考えれば、根拠のないしっくりとした感覚に満たされる。
それと同時に虚しくもなる。俺は結局、昔から好きなことだけやるめんどくさがり屋で、弟が死んでもそれは変わらず、全部兄貴に押し付けている。
なのに兄貴の俺を見る目は、昔と変わらず優しいままだった。
だからなのかもな、見ず知らずの名前と境遇が似ているラムルスをほっとけなかったのはよ。
俺たちは弟を亡くし、ラムルスは兄を亡くした。
トルネオンは、自室の窓辺に座り込み、夜空に浮かぶほんのり青く染まった月を眺める。
「こんな状況でも、月は変わらず綺麗なもんだ」
明日は剣王祭二日目。
いよいよ剣聖との再戦の時。だというのに、今のトルネオンの心には、剣聖の面影一つ生じてはいないのだった。




