283話 剣聖 vs 双星
数時間前。
剣王祭開催時刻。
時刻は朝8時と早い時間帯にも関わらず、剣王堂は観客でほぼ満席。選手たちも国民たちに混ざり観客席にいる者、出番の近い者は控え室で待機している者とで別れている。
ざわざわとした会場内は、会場の至るところにスコーヴィジョンで映し出されたとある男の存在により静まり返る。
その者は、剣王にして国王であるガンデル・アルキメデル。
相変わらず背後には大きな魔力樹と、身体中が青白く発行している様を晒す。
しかし既に国民からしてみれば慣れた光景であり、同様する者は一人としていない。
『——————ここに、第20回剣王祭の開幕を宣言する!』
そう発した直後、先ほどの静まりが嘘のように国民たちの歓声が湧き上がる。
その歓声は当然剣王堂全てに響き渡っており、控え室として設けられている専用の個室まで響いて来ていた。
ここは、出番間近の選手の控えの場。そこには、予選第一試合に出場するシェティーネとレインの姿があった。
「20回目ということは、お父さんとお母さんが出場したのは、丁度私たちと同い歳くらいの頃だったのかしら?」
「そうだな。つまり父さんたちは、俺たちくらいの時にはもう剣聖として認められていたことになる」
シェティーネとレインの気合いがグッと引き締まる。
正直、双星とかいうドラゴンスレイヤーにも剣聖状態ならば負ける気はしない。しかし、父と母の創り出した場所。そして、見たこともない両親の姿と自らの姿を重ね、緊張が鼓動を速くする。
「いよいよね」
「行こう」
二人は控え室を後にし、舞台の見える入り口の門の近くまで足を運ぶ。
「始めから剣聖の力は使わない。それでいいんだな?」
「ええ。確かに私たちは二人で一人の存在。けれど、頼り切ってしまえば、いざという時一人ではどうしようもなくなってしまうわ。強くならなくちゃいけないのよ、互いが互いを守れるように」
「お前の言うとおりだ」
レインはブルジブから受け取った刀を握る手にグッと力を込め、舞台の先に控える双星へと視線を向ける。
しばらくして、目の前に立つ門が縦へと引き上げられていく。
シェティーネとレイン、そして双星は、観客の歓声に迎えられ舞台へと入場する。
『ルールは、戦意損失か意識損失のどちらか。命を奪う行為は何があっても認めはしない』
短くガンデルからの説明を受ける。
『では、開始とする!』
ガンデルの開始の合図とともに会場内に響き渡る低く、体の芯へと響く鐘の音。
会場はまたしても静まり返り、舞台上に立つ四名の選手たちへと視線と意識が集中する。
この場で選手の名など呼ばれはしなかったが、それは事前に選手の情報が会場の至る箇所へと貼り出されているため。
特に入り口付近にはデカデカと対戦表が貼り出されており、来場客には対戦表のパンフレットも配布されている。
今いる四名の名を目にして、その正体に気がつかない者はほとんどいない。
ドラゴンスレイヤーなど世界的に有名な存在であり、知らぬ者はゼロと言っていいほど。
シェティーネとレインも同様で、その名を聞いたことがないとしても、アーノルドの響きは皆一度は聞いたことがあり、剣聖と結びつけるのは容易。それに、会場の四角の内二箇所には、剣聖と剣姫の石像が置かれているのだから今大会一の注目株と言っても過言ではない。
試合が開始されて数秒後、両者動きを見せずに膠着している。
シェティーネとレインは戦闘体勢へと入っているが、双星の二人は棒立ち姿。
「君たちに尋ねたい。どうして竜王なんかと一緒にいるのかな?」
口を開いたのはユンロンだ。
「いきなりだな」
「いきなりじゃないでしょう。あんな厄災とよく一緒にいられるものね」
ユンリンが汚物でも見るかのような鋭い視線をシェティーネとレインへと向ける。
「それは誤解よ。むしろ、彼は今世界を救おうとしているわ」
「あー、そういうことじゃない、って——————あーなるほど、その様子じゃ、彼は君たちへと話してはいないみたいだね」
「何の話よ」
「あいつが竜王だった頃、荒れ狂って世界をめちゃくちゃにしたって話さ」
「——————きっと何か、理由があったはずよ」
シェティーネの予想外の反応に、一瞬唖然とする双星の二人。
「フッ、まぁいいよ。どうしてなのか確かめたかっただけだし、知ったところでどうしようとも思ってないしね。それに今は、僕たちと君たちの剣のどちらが上なのか、それを確かめたくて仕方ないんだ」
「来るわよ」
双星の両手には何も握られてはいないが、二人の雰囲気がガラッと変化したことを感じ取るシェティーネ。
「分かってる」
シェティーネとレインは、ともにブルジブから受け取った刃が虹色に輝く細く強靭な一振りを抜刀する。
その美しさに、まだ一度も剣を合わせてすらいないものの、客席から驚きの声が上がる。
直後、瞬時にユンロンとユンリンは間合いを詰め、剣を振るう。
刃と刃が勢いよく重なる音が会場内に響き渡る。
そうして一刀目を合図に、怒涛の蓮撃が双星から繰り出される。
互いが異なる動きをしているはずなのに、同一の動きに見えてしまう錯覚に襲われる。双星の扱う剣は二種類。刀身が30センチほどの短剣と、1メートルほどの長剣。長さの異なる二つの剣を器用に振り回し、更に互いに剣を交換しながらシェティーネとレインへと剣戟を仕掛けている。
時には二振りの長剣で、時には二振りの短剣でと言った具合に、互いが交互にシェティーネとレインの相手をし、位置を入れ替え、刀を入れ替え、隙のない剣の応酬が繰り広げられる。
そんな中、一際大きな「パリンッ」という軽い音が響き渡ると同時に、双星からの攻撃が止む。
「はぁはぁはぁ、うそ・・・・・でしょ」
互いに剣を受けるのが精一杯で反撃の隙すらなく、シェティーネとレインの刀は一刀両断されてしまった。
「いやはや驚いた。十二星剣のまだ半分とはいえ、初見で見切るとは流石は剣聖だ。だけど、そんなものなのか? 剣の極地へと至ったとされる剣聖の力は・・・・・」
「どうせ魔法を使えば、とでも思ってるんじゃない?」
「どうだろうね。例え図星だったとしてもだ、仮にも剣聖と謳われた彼らがこれほどあっさりと魔法戦に持ち込むとは考えにくい。それに、これでは納得がいかないね。この程度なら、人魔戦争で名を馳せた僕ら星の一族が剣聖に変わる新たな剣の導き手となってもおかしくはないのだから」
それは、レインにとっては聞き捨てならない一言だった。
「人魔戦争・・・・・お前今、そう言ったか?」
「おやおや、この世界に星の一族以外で人魔戦争のことを覚えている人間がいるとは驚きだ。てっきり皆記憶が変えられてしまっていると思っていたよ」
おかしい・・・・・勇者と竜王の話では、竜王の力や、エルフ、勇者の加護などがかかった特別な存在しか邪神の力の影響を阻害できていないはず。それなのに、目の前のドラゴンスレイヤーは今確実に記憶にあるはずのない「人魔戦争」という単語を口にした。
現に、シェティーネや観客はポカンとした様子。
「ユンロン。あんま虐めたら可哀想だよ。なぜかあの人は覚えてるみたいだし」
「いやいや、別にそういうつもりではないんだけどね。仕方ない。答え合わせをするとしようか、ユンリン」
「だね」
すると、二人は一度目を瞑り、数秒後ゆっくりと目を開けると、先ほどとは明らかに瞳の様子が異なっていた。
「何だ、それは・・・・・」
変化した二人の瞳は、白目の中央の瞳孔の部分が丸でも星形でもなく、そこから一本の角を引いた四つの出っ張りが存在するピンク色の輝きを秘めるものとなっている。
「——————フェアリーアイ。それがこの目の名前」
「フェアリー・・・・・つまりは妖精ってことかしら?」
「要するに、妖精の力の影響で邪神の影響を受けなかったと?」
「うん。流石だね、頭の回転も速いみたいだ」
再度動きの止まった選手に観客たちは動揺している様子だが、ガンデルの配慮により、会話の内容までは届かないように対応済み。何も知らない国民へと、突然聞かせていい内容ではないからだ。順を追って、ガンデル自身から伝えるべき内容。
しかし、妖精の話はガンデルとて初耳。
「僕らの一族は、星の一族と言ってね、黄道十二星座の技を司る一族なんだ。君たちは実際受けてみて違和感に気づいたんじゃないの? 僕らの動きは違うようで、同一のモノだっていう違和感を」
「私たちの扱う剣技は、『十二星剣』。星座の動きを剣術として応用させた一族独自の流派」
「妖精は、星という自然の動きを具現化させた星の一族の剣に寄って来る存在のことさ。そして、妖精が真に認めた存在のみに力を授けてくれる」
妖精は、精霊とは異なる。
まず精霊とは、自然物(自然のエネルギー)に宿る存在とされ、自然そのものであるとも言える。例えば、一本の木が立っていたとする。その木は魔力樹ではないにしろ、光合成は当然行う機能をするしており、環境を育成する自然のエネルギーを宿している。このように自然のエネルギーを宿す存在は、空中に飛散するあらゆる魂の情報体をも無意識のうちに吸収することとなり、次第に意識を宿すようになる。同一の種類・誕生日・形状・大きさを有していたとしても、衰退までが各々異なっているのは、この意思が関係していると言える。ただ、自然の意思は外部の存在に認識されることはない。だがそれも長命種ともなれば、意思に肉体が宿り形を成すことも可能となる。それがまさしくマルティプルマジックアカデミーに存在した精霊メモリアであり、自然エネルギーは人工物にも宿るため、精霊は至る所に存在しているとされる。
一方妖精は、自然エネルギーを好むモノであり、妖精いるところには必ず精霊も存在する。そして妖精は、いわゆる一種の種族であるとも言える。ただ、その生息する環境下により如何様にも質を変化させることが可能であり、その一種がエルフとされている。
またレプラコーンも妖精であり、精霊も妖精もどちらも霊体ではあるものの、妖精においては永遠の肉体を手にすることも可能となる。肉体と霊体を行き来することは可能だが、肉体にエネルギーを定着させる存在は、妖精の中でもごく僅か。そして妖精は決まって肉体を得る時は、人間を利用する。
エルフも始まりは人間ということであり、現在、ユンリンとユンロンに宿っている妖精も肉体を手にするためにフェアリーアイと化しているのだ。
けれど、妖精が肉体を手に入れた際の共通点は、魔力の強弱に関係なく、魔法が使えなくなること。
「まぁ、僕らは生まれつき魔力量が少なくてね。フェアリーアイを授かった時は奇跡の子なんて呼ばれていたよ。けれど元々の魔力量なんて比にならないほど、フェアリーアイの力は強大だ。思い知るといいよ、剣聖。僕たちと君たちとの差をね」
「確かに、ものすごい魔力の高まりね」
会場の大気が震える。
しかし、エクソシストの力により、客席には強固な結界が施されている。並大抵の威力では破壊不可能。
「悔しいけれど、まだまだ力不足のようね」
「そうだな」
「それに、相手の誠意には応えなくてはならないわね」
「ああ。先日会った時は、もっと姑息な手を使って来るかと思っていたが、見事に第一印象をひっくり返されたな」
レインとシェティーネは、相手の清々しいほどまっすぐな姿勢に思わず笑みをこぼし、無駄な考えなど一切を捨て、その身を一つへと収束させる。
「へぇ〜、それが君たちの本気ってわけか」
「——————参られよ」
「そう慌てない慌てない——————『Sagittarius』」
そう言いながらユンロンは宙へとキラキラと輝く細かい何かを投げる。
「これは僕の魔力を結晶化したモノ。さぁとくと見るがいいよ、これが僕ら兄妹が双星と呼ばれる所以だ」
すると、妹のユンリンの体が白く発行し始め、次第に会場全体を光で覆う。
しばらくして光が止んだそこには、馬の様な形をした真っ白な下半身を持ち、頭部があるはずの部分には二本の白刀が十字となるよう重ねられ、獣の胴体と結合した謎の存在がいた。更に、ユンロンの両手に握られていた二本の刀は、いつのまにか一本の巨大な夜空に浮かぶ星々の模様を映し出した黒刀へと変化しており、その身に纏うは剣と同様の模様を宿した全身鎧。
「見せてやるんだ。僕たちの方が優れているということを」
ユンロンは獣の背中へと飛び乗り、頭部の剣を握る。途端、宙に無数の漆黒に煌めく星々が誕生する。
「行け」
合図とともに星々は流星の如く線を描いて剣聖へと一斉に向かっていく。
それとともにユンロンは駆け出し、細長い大剣を構える。
「先ほどの返しと参ろうか」
剣聖は短くそう呟くと、白銀の刀のみ抜刀し、ユンロンの大剣とぶつかり合う。
白と黒の衝突が真っ赤な火花を勢いよく散らす。
しかし一度のみ衝突を経た後、ユンロンの体勢が突如崩れる。というより、獣の両手両足が一頭両断されている。
「な⁉︎」
ユンロンは勢いよく地面へと転がり落ちると、舞った砂煙を警戒する様に前へと剣を構える。
「おそらく、その者は霊体と化していると見た。故に実体には影響はないはず。しかし其方はそうもいかぬだろう」
砂煙が消えた直後、ユンロンの目の前へと剣聖が現れ、勢いよく上空へと蹴り上げられる。
「グゥ」
ユンロンは地上へ向けて手を伸ばす。
「来い! サギッタリウス!」
獣へと変身したユンリンは、ユンロンの意思に応えるように上空のユンロンの下へと飛翔する。そしていつのまにか両手両足も再生し終えている。
「この数をどう捌く?」
そう発した直後、剣聖の上空——————結界内へと満遍なく漆黒の星々が出現する。
「ふぅ〜・・・・・名を呼ぶのは得意ではないのだが——————縦横無尽」
技名を口にした剣聖は、残る漆黒の大剣も抜刀させ、魔力で身体強化を行う。
「この程度でよいだろう——————参る」
剣聖の瞳がユンロンを捉える。と同時に漆黒の星々が放たれる。
しかし、驚くべきことに剣聖は迫り来る攻撃を待つのではなく、自ら攻撃の下へと赴き、口にした名の通り縦横無尽にフィールド上を立体的に駆け回り、あっという間にユンロンとユンリンの攻撃を無力化してしまった。
「冗談だろ⁉︎」
焦ったユンロンは体勢を崩す。
その隙を見逃す剣聖ではない。
「トドメだ」
いつの間にか剣を鞘へと収めていた剣聖がユンロンの頭上から現れ、強烈な拳を腹部へと叩き込む。
「カハッ」
衝撃によりユンロンとユンリンは勢いよく地面へと衝突し、そのまま意識を失ってしまったのだった。
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