278話 こびりつく邪なる気配
王城の客間にてガルドを待つユーラシアとシエル。
ガンデルに認められたとはいえ、まだ国民に竜王の真実が知れ渡ったわけではない。そのため、監視役となるガルドがシェティーネとレインを剣王堂へと案内している少しの間、二人は待機となっている。
そこへ、ガンデルの下を訪れていた勇者が戻る。
「その目どうした?」
ユーラシアは、微かに勇者の瞳から発せられる淡い緑色の光を視認する。
「やっぱりあんたでも、エクソシストの力は感じ取れないんだね」
「あたり前だ。オレは別に神の力を宿してるわけじゃねえんだ」
「けど、神の力の気配を感じ取れはするんだろ?」
「それはおそらく、最高神の干渉を受けたからだな」
神の力を無効化する力は神の力ではないものの、その力を授かる時に、最高神がユーラシアの内部へと干渉したのは確か。
そのため、無意識に神の力の気配を覚え、感じ取れるようになったということ。
「確かに、そうかもね」
「で、そのエクソシストの力が何だってんだ?」
勇者は隣同士で室内のソファへと腰掛けるシエルとユーラシアの対面へと腰を下ろすと、ムンテルダルクの状況を事細かに説明していく。
「まだまだ分からないことも多いけど、とにかくまずは、結界を解析しなくちゃ何も始められないってこと」
「そのためのエクソシストの力ってことね」
「そゆこと」
「けど、よく国王が許可したな。仮に影響なく注ぎ込まれたのが少量だったとしても、お前らならエクソシストの力すらものにするだろ?」
「まぁ、そんなつもりじゃなかったけど、結果的にはそうなるね」
「仮にも勇者を相手にしてんだ。国王ならそんくらいは理解してるはずだろ」
「悪影響が出ないと分かった上だろうし、そんなに不思議に思うことないんじゃない?」
シエルはユーラシアの考えていることがよく分からず、首を傾ける。
「力に対する誇りから、例えできたとしても力を与えようだなんていう心の広さに驚いただけだ。ムンテルダルクでは、王の血筋のみ宿す力・・・・・この国の国王は、立派な奴だな」
ユーラシアはどこか遠くを眺めながら窓ガラスへと視線を移してそう述べる。
例えどんな理由であれ、かつてユグドラシルであったユーラシアは、竜王としての圧倒的な力で無力に等しい多くの他種族や、同族を葬ってしまった。
同じ王という立場であっただけあって、選択を間違えることなく、欲望に支配されずに的確な判断を下せるガンデルの評価が、ユーラシアの中で急上昇していく。
「ユーラシア。気づいてるか分かんないけど、ここムンテルダルクから十大魔神の気配がする」
それを聞いたユーラシアの表情がグッと引き締まる。
「やっぱり勘違いじゃなかったのか。薄らとだが、ドラルドとユーリ・ポールメールの気配を感じる」
「ユーリ?」
「髪は、淡い青みがかった銀髪で、めちゃくちゃ顔が整ってる、ゴッドスレイヤーの一人だった奴だ。魔導祭にもいたんだけど、覚えてるか?」
「あー、確かにいたような気がする。けれどそんな見た目の十大魔人は魔王配下にはいなかったはずだよ。それに僕らが感じたのは、トロプタと呼ばれる奴の気配。美とは最もかけ離れた存在と言っても過言ではないよ」
「いや、多分そいつで合ってる。魔導祭の後、飛ばされた先の魔界で修行してた時、トロプタとか呼ばれてた気がすんだ」
「戦争の時、彼は自分の醜さを呪ってるみたいだったし、美に相当な興味を抱いていても不思議じゃないね」
「てことはだ。この国の人たちを苦しめてる原因が、あいつらってわけか」
「うん。けれど、そもそもこの星全体に邪神の力が蔓延したことは確かだよ。邪神がその気になれば、因子を取り込むこの星の生命全てが一斉に怪物になるなんてこともありうるだろうね。それでも、この国に蔓延する邪神の力の濃さは、他のどの国よりも異常だ。一体何のためなのかは分からないけれど、更に力を蔓延させたのが、十大魔神ってことだろう。実際、国王の言質は取った。国王曰く、神の使徒と名乗る者たちがこの国に訪れていたそうだよ」
「そのまんまじゃねえかよ。けど何にせよ、オレたちがムンテルダルクに来たことは邪神は既に気づいてるだろうな」
「そうだろうね」
「あんまり悠長にはしてられなさそうだ。ドラルドとユ——————トロプタの二人ならまだしも、また別の刺客が送り込まれて来たら厄介だからな」
「分かってるさ。力を得れたことで、明日中には結界の解析も終わるだろうしね」
「頼んだぜ」
「それじゃあ、剣王祭が終わり次第出発するとしよう。丁度そのくらいに浄化も終われると思うし」
「ああ、分かった」
その後、客間へと訪れたガルドとともに、ユーラシアとシェティーネはブラッドアイス(紅き氷)について調べに行くのだった。




